マッサたち、探す
ボルドンの背中に、よじ登ったり、タータさんの腕にぶら下がって、ぐるぐる回されたり、フレイオの魔法の光を手にのせて遊んだりして、子供たちが、すっかり満足したところで、
「それじゃあ、今から、作戦会議をはじめます。」
と、輪になって座ったみんなに向かって、マッサが言った。
ぜんぶで十五人くらいの小さな子供たちは、うんうん、とまじめな顔をしてうなずいた。
「チッチとタックが、みんなに話してくれたと思うけど、ぼくは、マッサ。……本当の名前は、マッサファール。この国の王子で、今から、仲間といっしょに、大魔王と戦いに行くところなんだ。」
『ぼく、ブループルルプシュプルー! うさぎでも、ねこでも、いぬでも、ねずみでも、ないっ!』
みんなにさわられて、ぼさぼさの寝ぐせみたいになってしまった毛並みを、ちっちゃな手でサッサッとなでて直しながら、ブルー。
「私は、ガーベラだ。よろしく。」
「俺は、ディールだぜ!」
「わたしは、タータです。」
「私は、フレイオ。」
『グオッ!! ……ウウウゥゥゥーン。』
思わず、いつもの元気なあいさつをしそうになったボルドンは、最初のほうで、あっと気がついて、ジェットコースターが落ちるみたいに、ひゅーんと声を小さくした。
「それでね、これも、もうチッチとタックから聞いているかもしれないけど、ぼくたちは、大魔王の島に行くために、船を探してるんだ。この中に、だれか、自分の家に船があるよ! っていう人は、いない?」
マッサがたずねると、子供たちはみんな、お互いに顔を見あわせて、それから、しょんぼりした顔になって、首を振った。
「ない。」
「おふね、とられちゃった。」
「さるのかいぞくに、もっていかれちゃった……」
みんなが、泣きそうな顔になってきたので、マッサは、あわてて言葉を続けた。
「なにも、こーんな、大きなやつじゃなくてもいいんだ。ボートみたいな、小さいやつが、物置とかに、しまってあったりしないかな?」
「ものおき? ものおきって、なに?」
「ボート……あるかな? わかんない。」
「あるかもしれない! たぶん、あった、と、おもう。」
「みたこと、ある、きがする。でも、いまは、あるか、わかんない。」
子供たちは、口々にそう言って、首をひねった。
「何だよ、どっちなんだ? あるのか、ないのか、はっきりしてくれよなあ。」
「こら、ディール、やめんか。」
文句を言うディールを、びしっと止めて、ガーベラ隊長が言った。
「あるのか、ないのか、よく分からないのだったら……よければ、私たちが、君たちの家にいっしょに行って、物置などの中を見せてもらってもいいだろうか?」
「……このおにいちゃんたちも、うちのもの、もっていっちゃうの?」
と、小さな女の子が、震えるひそひそ声で言って、
「ばかっ、ちがうよ。このひとたちは、わるものじゃなくて、いいもの! だいまおうを、やっつけるために、ふねがほしいんだよ!」
と、少しだけ大きな男の子が、大きなひそひそ声で言った。
「まず、私は『おにいちゃん』では、ないのだが……」
ガーベラ隊長が、ぶつぶつ言って、
「そうだぜ、うちの隊長は、男じゃねえんだぜ。それに、そこの男の子の言う通り、俺たちは、悪者じゃねえ。いいもんだ。」
と、ディールが言った。
マッサは、子供たちに向かって、
「みんな、ごめんね。いきなり来て、いきなり、無理なお願いをしちゃって。
でも、ぼくたち、どうしても、船がいるんだ! 船がないと、大魔王のところに行けない。それじゃあ、大魔王をやっつけることもできない!
だから、お願いします! もしも、みんなの家に、ボートがあったら、ぼくたちに貸してください。お願いします!」
と、真剣に頼んだ。
子供たちは、マッサの、あまりの真剣さに、びっくりしたみたいだった。
「おにいちゃん、おねがいします、だって。」
「いいよ! かしてあげる。」
「うん。あったら、かしてあげる。」
「あたしも、かしてあげる!」
「ぼくも!」
「ボート、みんなでさがそう!」
「みんなで、さがそう!」
「ほらっ、おにいちゃんたちも、いっしょにきて!」
「うん! ……ありがとう!」
両手を、ぐいぐい引っ張られながら、マッサたちは、子供たちにお礼を言った。
さあ、これから、みんなで、村じゅうの物置を確かめて、どこかに、眠っているボートがないか、探すんだ!
「ほら、おにいちゃんも!」
「だから、私は『おにいちゃん』では、ないのだが……」
「おじちゃんも!」
「だーかーら、俺は、おじちゃんじゃ、ねえっつうの!」
みんな、子供たちに、ぐいぐい手を引っ張られて、村のあっちこっちに散らばっていった。
それから、だいぶ長いことかかって、みんなは、村じゅうの家の物置を、徹底的に探した。
大きな荷物の上にかぶせてある、古い布のカバーを、せえの! と、力を合わせて、めくってみたり。
ほこりをかぶったまま、ずーっと置いてあった道具を動かして、いちばん奥のほうまで、のぞいてみたり。
魚をとる、大きな大きな網を、もつれないように、ゆっくり、ひっぱりだして、その下を確かめてみたり……
そして、最後にはみんな、また、もとの砂浜に集まってきた。
「どうでしたか、王子?」
そう言ったガーベラ隊長に、マッサは、
「見つからなかった……」
と答えた。
そのとなりで、ブルーも、
『みつからなかった……』
と、しょんぼりしながら言った。
「隊長は、どうだった?」
と、マッサがたずねると、ガーベラ隊長は、だまって、首を横に振った。
「みんなは、どうだった?」
たずねたマッサに、ディール、タータさん、フレイオ、ボルドンは、そろって、首を横に振った。
全員で手分けをして、一番小さな物置の、一番暗いすみっこまで、徹底的に探したにもかかわらず、とうとう、ボートは、一そうも見つからなかったんだ。
(どうしよう……)
マッサは、困り果てて、みんなの顔を見たまま、立ち尽くしてしまった。
いくら、大魔王をやっつけに行きたくても、乗っていくものがなくては、大魔王の島にたどり着くことはできない。
この浜辺に立って、海のほうを見ても、大魔王の島は見えない。
つまり、それだけ遠いということだ。
これでは、泳いでいく、という方法も無理だ。
集まった子供たちは、
(どうするのかな?)
という、不安半分、期待半分のような目で、マッサを、じーっと見ている。
マッサは焦って、仲間たちの顔を順番に見回しながら、誰かが、
「あっ!」
と、いい方法を思いついてくれるのを待った。
でも、みんな、苦しそうな顔をしてうつむいているばかりで、誰も、いい方法は思いつかないようだった。
(どうしよう……!)
マッサが、何も思いつけずにいるうちに、みんなの輪の後ろのほうにいた子が、となりの子と、何か、ひそひそ話をしはじめた。
その、ひそひそ話は、どんどん、子供たちのあいだに広がっていった。
「えっ?」
と、マッサは、思わず声をあげた。
最初にひそひそ話をしはじめた子たちが、ぱっと、マッサたちに背中を向けて、走っていってしまったからだ。
それを合図にしたように、子供たちは、あっという間に、ぱらぱら、ぱらぱら、マッサたちから離れていった。
その中には、チッチと、タックもいた。
「ねえ、みんな、待って! ……ちょっと、待ってよ! ねえ!」
マッサは、慌てて呼びかけたけど、誰も立ち止まらない。
そして、とうとう、その場に、子供たちは、誰もいなくなってしまった。




