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マッサたち、キャンプする

「いいえ。」


 と、ふうふう息をつきながらも、がんこに首を振ったのは、フレイオだ。


「誰が何と言おうと、この荷物は、私が自分で持って歩きます。この中には、私が食べる炎のための油だけじゃなく、貴重な魔術の本が、たくさん入っているんですから、とても、人任せになんか、できません。もしも、落とされたり、ぶつけられたりして、油のびんが割れたり、本がいたんだりしたら、取り返しがつかない。」


「へっ! どうしようもなく疑い深いやつだな。」


 ディールが、ばかにするように言った。


「おまえが言ってるのは、要するに、ボルドンの運び方が、全然信用できねえ、ってことじゃねえかよ。仮にも新しい仲間に向かって、失礼じゃねえか。」


「はあ? 誰が、いつ、そんなことを言いました? 私は、自分の荷物は、自分で運ぶと言っているだけですよ。勝手に、ひとを悪者あつかいしないでもらいたいですね。」


「何だと!? 落とされたり、壊されたりしたら困るって、さっき、おまえが言ったんじゃねえか!」


 と、またまた、フレイオとディールのあいだで、けんかが始まりそうになったときだ。


「はい、はい、そこまで、そこまで!」


 と、急にふたりのあいだに割り込んだタータさんが、フレイオとディールの口に、次々と木の実を突っ込んだ。


「モガッ!」


「ムガガガガ。」


 ディールもフレイオも、目をぱちぱちさせながら、なんとか、木の実をもぐもぐ噛んで、飲み込んだ。


「どうですか、甘くておいしいでしょう? さっき、歩きながら、ひょいひょいと集めたんです。いらいらしてきたときは、甘いものを食べて、落ち着くといいですよ。」


「私は《炎食い》の一族ですから、こんなものを食べたって、なんにもならないんですよ。」


 フレイオが、おえっという顔をしながら言った。


「おや、そうですか?」


「そうです。私の体の中では、命の火が燃えていますから、ふつうの食べ物を食べたって、栄養にならないんですよ。ただ、灰と煙になるだけです……」


 言って、フレイオが、ごほんごほんと咳き込むと、その口から、白い煙と灰がもうもうと出てきて、あたりじゅうが焦げくさくなった。


「ゴホッ、グホッ! おい、やめろ! 煙くせえ。」


「私のせいじゃ、ありませんよ。文句なら、この人に言ってください。」


「うわあ、どうも、すみませんね、フレイオさん。ディールさんも。」


「まあ、まあ!」


 と、マッサは、両手であおいで煙を追いはらいながら言った。


「もめるのは、やめようよ。……そろそろ、このへんで、キャンプする場所を探さない? 今日は、もうじゅうぶん歩いたと思う。みんな、歩き疲れて、だんだん、機嫌が悪くなってきてる気がするよ。」


「そうですね。」


 と、ガーベラ隊長も、マッサに賛成した。


「山の日暮れは早い。今日は、進むのはこのあたりまでにして、テントを張る場所を探そう。」


 場所が決まると、みんなは、ボルドンが運んでくれたテントの柱や布を下ろして、てきぱきと組み立てた。

 旅のあいだ、毎晩やっているから、みんな、もう、すっかり慣れている。

 テントが完成すると、みんなは、交替で中に入って休んだり、外で焚火をして、晩ごはんにスープを作ったりした。

 そうしているあいだに、あたりは、だんだん暗くなってきた。

 マッサたちが、焚火を囲んで、あつあつのスープを飲んでいるあいだ、フレイオは、いつものように、びんから出した油に火をつけて、おいしそうに食べていた。


「やれやれ。あんな変なもん、うまそうに食うやつの、気が知れねえや。」


 さっきまでのけんかのことを、まだ覚えているらしいディールが、わざとらしくそう言った。

 フレイオが、ディールをじろっと睨んだけど、彼が何か言い返すよりもはやく、


「えっ? なにか、言いました?」


 そばを歩いていた細長い虫をひょいっと捕まえて、むしゃむしゃ食べていたタータさんが振り返り、


『ガウッ?』


 ぼーりぼーりと、近くで見つけた黒っぽい岩をかじっていたボルドンも、ディールを振り返った。


「…………いや、別に、何でもねえ。」


 さすがに、きまり悪そうな顔になって、ディールが口を閉じる。


『みんな、ごはん、いろいろ! スープ、むし、きのみ、いわ、ひ! なんでも、おいしい!』


 りょうほうのほっぺたを、木の実でいっぱいにふくらませながら、ブルーが言った。


「そうだね、ブルー。……でも、君は、火とか、岩とかは、えんりょしなくちゃだめだよ。お腹が、ボーボーボーの、ゴーロゴロになっちゃうから。」


『ブルルルルッ! ぼーぼーぼーの、ごーろごろ、こわい! ぼく、えんりょする。』


「うんうん。」


 こうして、晩ごはんが終わるころには、あたりは、すっかり真っ暗になっていた。

みんな、テントの中にもぐり込んだけれど、ボルドンだけは、体が大きすぎて、テントの中に入りきらないので、大きな岩みたいに、テントのとなりに丸くなった。


「ボルドン、だいじょうぶ? 寒くない?」


『ガオウ、ウオウ!』


『さむくない! って、いってる。けがわ、あるから、へいきだって。』


「そう? じゃあ、おやすみ!」


 みんなは、今夜もまた、交替で見張りをすることにした。

 今夜の、最初の見張りは、フレイオだ。


「では、頼んだぞ。」


 と、ガーベラ隊長が言った。


「次は私の番だから、月が、空の、あのあたりまで動いたら起こしてくれ。」


「ええ。」


 フレイオは、きらきら光る体が目立たないよう、マントをしっかりと引き寄せ、まぶかにフードを下ろしながらうなずいた。


「フレイオさん、お先に、おやすみなさい。木の実、すみませんでしたね。」


「ええ。」


『ムニャムニャムニャ……プシュー……』


「うわ、ブルー、もう寝てる。」


『グオゴゴゴゴゴゴーッ。』


「だああああっ!? うるせえ! ボルドン、おまえのいびきがうるさすぎて、寝られねえだろうがっ!」


『グオゴゴゴゴゴゴーッ。』


「……って、もう、完全に寝てやがる! 全然、聞いてねえ!」


「静かにしろ、ディール……もう、これはこれで、あきらめて寝るしかない。」


「いや、さすがに寝られませんぜ、これは!」


「スウーッ、スウーッ。」


「うおっ、タータのやつ、こんなうるせえ中で、平気で寝てやがる……!」


「おまえも、タータさんを見習って、さっさと寝ろ。」


『グオゴゴゴゴゴゴーッ。』


 こんな感じで、みんな、しばらくはごそごそしていたけど、そのうち、昼間にぐんぐん歩いた疲れが出てきて、ボルドンの大きないびきの音もなんのその、順番に、深い眠りに落ちていった。



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