マッサたち、ふたたび情報を集める
「私たちは、明日の夜明けとともに、ここを出発しようと考えているのですが。」
ガーベラ隊長が言うと、
「それがいい。」
と、《赤いオオカミ》隊の隊長は大きくうなずいた。
「暗いうちの移動は、できるだけ、やめたほうがいいだろう。夜は危険だ。猿も、熊も、夜のほうが、活動が活発だからな。」
「では、今夜、もう一晩、ここにお世話になります。」
「ああ、もちろんだ。ゆっくりと体を休め、明日からの旅に備えてくれ。王子さまの警護を頼んだぞ。」
「……あのう。」
マッサは、そーっと手をあげて、ガーベラ隊長と《赤いオオカミ》隊の隊長の会話に、遠慮がちに割り込んだ。
「すみません。図々しいお願いなんですけど……あなたたちは、この山脈にずっといて、道とか、敵がいそうな場所とか、すごくよく知っていますよね。もしも、よかったら、ぼくたちが山脈を抜けるまで、案内してもらうってことは、できませんか?」
「ううーむ。」
マッサのお願いを聞いて、《赤いオオカミ》隊の隊長は、難しい顔になった。
「ああ……いや、もちろん、案内してさしあげたいのは、山々なのだが。何人で行くか、ということを考えると……」
「そんな、大勢じゃなくていいんだ。頼むぜ!」
と、横から、ディールも言った。
「たった一人でもいい。とにかく、道さえしっかり教えてもらえりゃ、それでいいんだ。敵が出たときに戦うのは、俺たちがやるからよ。」
「だが、」
と、《赤いオオカミ》隊の隊長は言った。
「あなたがたが山脈から抜けるまで案内する、ということは、案内役の者は、仕事を終えたあと、同じ道をたどって、ここまで引き返してこなくてはならない、ということだ。もしも、引き返す途中で、猿どもや、熊どもに襲われたら……」
あっ! と、マッサとディールは顔を見合わせた。
確かに、そうだ。
マッサには《守り石》があるし、みんなも強いから、何とかなりそうだけど、マッサたちを案内した後の《赤いオオカミ》隊の人が、帰り道で敵に襲われて、やられちゃったら、申し訳なさすぎる。
「ほんとだ……ごめんなさい! ぼく、自分たちのことだけしか、考えてなかった。」
「俺もだ……すまん。」
「いや、いや。」
マッサとディールが謝ると、《赤いオオカミ》隊の隊長も、申し訳なさそうに言った。
「本当は、王子たちを送っていってさしあげられたら、一番いいのだが。一人か二人、というのは、帰り道の危険を考えると、無理だし……かといって、大勢を案内につけると、それだけ目立って、かえって敵を引きつけてしまうおそれがある。それに、もともとの、山脈を見回る任務にも、穴が開いてしまうからな。」
「いや、いいんです。無理なお願いを言い出しちゃって、すみません。」
「それでは、」
と言いながら、ガーベラ隊長が、荷物の中から、例の地図を出してきた。
「せめて、この地図を見ながら、もっといい道があれば、教えていただけないだろうか。それに、他にも、くわしい情報があれば、ぜひ教えていただきたい。」
「ああ、もちろんだ!」
こうして、《赤いオオカミ》隊の隊長や戦士たちが、
「この道は、半年前の嵐の日に起きた山崩れで埋まってしまったから、今は通れない。」
とか、
「ここでは、川を渡ることになる。古い木の橋がかかっているはずだが、木が濡れて、滑りやすくなっているから、渡るときは、よく気をつけるんだ。」
とか、
「ここは、ずっと前に、一度、熊が出たことがある場所です。道を間違えて、こっちに出てしまわないように、よく確かめてくださいね。」
とか、地図を見ながら、くわしく教えてくれた。
説明が終わると、
「あっ、そうだ。よかったら、これを持っていってください!」
と、若い戦士たちが、どんぐりみたいな、かたい殻におおわれた木の実をぎっしり、人数分の袋につめて持ってきてくれた。
『おいしいもの!』
ブルーはさっそく、一粒もらって、ポリポリポリポリ、おいしそうな音を立てながら食べ始めた。
「ありがたいですねえ!」
タータさんも、嬉しそうだ。
タータさんは、森に住んでいたとき、いつもこういう木の実を食べていたから、なつかしい感じがするのかもしれない。
フレイオは、というと、
「食料が増えて、よかったですね。……まあ、私には、あまり関係ないですけどね。」
彼は、炎しか食べないから、そんなことを言っていた。
「《赤いオオカミ》隊の皆さん、本当にありがとう。……さあ、明日は、日の出とともに出発だ! みんな、部屋に戻って、荷物を整理したら、すぐに寝よう。」
と、ガーベラ隊長が言った。
「ええっ!?」
と叫んだのは、ディールだ。
「俺たち、一日じゅう寝てて、ついさっき起きたところなのに、まーた、寝るんですかい!?」
「当たり前だ。明日は、夜明けと共に出発だぞ。ここで休んでおかなくては、次は、いつ、しっかり休めるか分からない。」
「まあ……そりゃあ、そうですが。」
「眠れなければ、目を閉じて、横になっているだけでもいい。それだけでも、体は安まるものだ。では、おやすみ。」
「おやすみなさい!」
「ええ、おやすみなさい。」
こうして、マッサたちは、また寝るための小部屋に戻り、木の実の袋を大切に荷物に閉まった後、明日にそなえて、枯れ葉のベッドに寝転がった。
あんなに長く寝た後だから、絶対、なかなか寝られないだろうな……と、マッサは思っていたけど、これまでの旅で、思った以上に体が疲れていたのと、
「ぷしゅー……ぷしゅー……」
という、ブルーの気持ちよさそうな寝息を、すぐそばで聞き続けていたせいで、いつのまにか、うつらうつらして、すぐに、ぐっすり眠ってしまった。




