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マッサ、名乗る

 やがて、《守り石》の光は、すうっと薄くなって、消えた。

 今は、もう、命の危険はなくなったということだ。

 そして、暗闇の向こうから、いくつもの囁き声が聞こえてきた。


「おい、何だ、さっきの緑色の光は!?」


「俺たちの矢が、全部防がれるなんて……気をつけろ、やつは、とんでもない魔法使いだぞ!」


「んっ!? おい、見ろ! あれは……猿じゃない! 男の子だ!」


「あの子はいったい、何者だ!?」


「何か、腕に抱いているようだぞ……何だ? あの、白い、もじゃもじゃしたものは。」


『もじゃもじゃじゃない! ブループルルプシュプルー!』


 ブルーが叫んで、マッサの腕の中で、じたばた暴れ出した。

 よかった! あの煙を吸ってしまって、どうなることかと心配したけど、外の空気を吸ったら、すっかり元気になったみたいだ。

 いや、待てよ? 今は、安心している場合じゃない。


 マッサは、今の今まで、襲ってきたのは、さっきの猿たちだと思い込んでいた。

 でも、猿たちは「ウキャキャーッ!」とか「ギャギャギャーッ!」としか喋っていなかったのに、さっきから聞こえているのは、間違いなく、人間の、おじさんたちの話し声だ。

 もしかして、この人たちが「おそろしい人間」なのか?

 いったい、何者なんだろう?


「うわっ! あの白いもじゃもじゃ、喋りやがった!」


「喋るもじゃもじゃだと!? 怪しい! やっぱり、大魔王の手下か?」


『ぼく、もじゃもじゃじゃ、ないっ! ブループルルプシュプルー! だいまおうのてしたじゃ、ないっ!』


「……あのーっ! すみません! ぼくの声、聞こえますか!」


 マッサは、一歩、前に出て、大きな声で呼びかけた。

 ブルーがかんかんに怒って暴れ出すといけないから、ということもあるけど、それよりも、もっと気になったことがある。

 さっき、確かに、誰かが「大魔王の手下か?」って言っていた。

 と、いうことは――?


「みなさん、聞いてください! ぼくたちは、大魔王の手下じゃ、ありません! この《二つ頭のヘビ》山脈を越えようとしている、ただの旅人です! このブルーも、後ろにいるみんなも、ぼくの仲間です。もし、あなたたちのほうこそ、大魔王の手下じゃないのなら、もう、ぼくたちを攻撃しないでください!」


 マッサは、真っ暗闇の向こうに向かって、堂々と話しかけた。

 しばらくのあいだ、向こう側は、しーん、としていた。


「……隊長、どうします?」


「しいっ。この場は、いったん王子に任せよう。」


 後ろで、ディールとガーベラ隊長が、ひそひそ相談しているのが聞こえる。

 マッサは、相手の返事があるのを、じっと待った。

 これから、どういうことになるかと、少し怖かったけど、大丈夫だ。

 だって、何といっても、こっちには《守り石》があるんだから――

 そうして、しばらく待っていると、


「おい、少年よ!」


 暗闇の向こうから、ようやく、返事があった。


「今、自分たちは旅人だ、と言ったな。だが、この危険な《二つ頭のヘビ》山脈を越えて旅をしようとする者など、おらん! 少なくとも、十年前の戦いからこっち、そんな命知らずな者たちは、いたことがない。いったい、何の目的でこの山脈を越えようというのか、それをはっきり話すがいい!」


「ぼくたちは……」


 マッサは、言いかけてから、途中でためらった。

《二つ頭のヘビ》山脈を越えて、北へ北へと向かい、大魔王を倒すつもりだなんて……そこまで正直に、本当のことを話してしまっても大丈夫だろうか?

 一瞬、ガーベラ隊長たちに相談しようか、とも思ったけど、後ろの仲間とひそひそ話をしているところを見られたら、怪しまれて、また攻撃されてしまうかもしれない。

 マッサは《守り石》があるから大丈夫だけど、もしも、他の誰かに、矢が当たっちゃったりしたら……

 それに、後ろにいる隊長たちは、黙ったままで、何も話しかけてこない。

 この場は、全部、マッサに任せる、ということだ。


(よし!)


 マッサは、心を決めて、もう一歩、前に出た。


「ぼくたちは……大魔王を倒すために、北へ向かって旅をしているんです! そのために、どうしても、この山脈を越えないといけないんです。どうか、ぼくたちを通してください!」


「何だと!?」


 暗闇の向こうから、ざわざわと、驚いている様子が伝わってきた。


「大魔王を、倒すだと!?」


「こんな子供がか? 冗談だろう!」


「後ろの者たちは、少しは、戦えそうだが……たったそれっぽっちの人数で、大魔王と戦おうなど、無謀すぎる!」


「その通りだ。大魔王のところにたどり着くよりも先に、この山脈で、猿や、熊に殺されてしまうぞ。さっさと引き返せ!」


「それは、できません!」


 マッサは、きりっと胸をはり、堂々と顔を上げて言った。


「ぼくたちは、どうしても、大魔王と戦わなくちゃいけないんです! そのために、どうしても、ここを通りたいんです。……ぼくが子供だから、みなさんが心配する気持ちは分かりますが、大丈夫です。だって……」


 マッサは言いながら、首にかけている鎖を引っ張って、シャツの下から《守り石》を取り出した。

 マッサが、それを片手に持って掲げると、緑色の石が、ぽうっと優しく光って、マッサの顔を照らし出した。


「ぼくは《守り石》を持っているから。……ぼくの名前は、マッサファール。この国の王子です。ぼくは、ここにいる仲間と一緒に、大魔王を倒しにいく途中なんです!」



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