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10.買い物 後編

服飾店を出て大通りをしばらく歩いていると遠くから鐘の音が聞こえてくる。


この鐘の音は朝から日付が変わるそのときまで2時間おきに鳴らされているもので、今がちょうどお昼時であることを示している。


ちょうど小腹がすいていたので、近くにあったカフェで昼食を食べることになった。


空いている席に座り、メニュー表を見て、レオルドさんがまとめて注文をする。


料理が来るまでの間に、昼食の後に行く予定の武器屋で買うものについて話をしていく。


戦闘スタイルや今まで使ってきた武器や防具、できることなどを聞いていく。具体的な戦闘スタイルは実際の戦闘の中ですり合わせるしかないが、聞いておいて損はないと思う。


武器トークに花を咲かせていると、店員が食事を運んでテーブルの上に並べていく。全部の料理が出揃ってから、店員に代金を支払うスタイルのようだ。


私が頼んだのはトマトやきゅうりなどの野菜のサンドウィッチに果実水で、レオルドさんは肉を挟んだボリュームたっぷりのサンドウィッチに厚切りのステーキを2種類、それからエールである。


実はこの世界に自生している野菜や植物は、名前は違うが似た味や見た目、薬効だったりする。むしろ魔力というものがあるからか、うまみが強く、瑞々しい。


そのため、このことに戸惑うことはあまりなかったのだが、買い物をするときは、あれ下さい。で買えてしまえているので、ルナはこの世界での名前を覚えることを放棄している。


目の前にある大きなサンドウィッチに齧りつくと、野菜の瑞々しさとシャキシャキとした歯ごたえに甘みのあるソースが合っていてとてもおいしい。パンの歯ごたえもしっかりしていて、それがいい満足感を与えている。


休む間もなく食べ続けてすぐに完食して満腹感に浸っていると、レオルドさんも食べ終えたため、食休めも程々にしてカフェを後にした。


カフェを出て路地を真っ直ぐに進むと、冒険者ギルドおすすめの武器屋はあった。


長剣や短剣、槍に鞭に弓にと、煩雑に並べられている。


自分たち以外に客はおらず、カウンターにいる店主は武器の手入れをしている手を止めて顔を上げ、話しかけてきた。


「らっしゃい。どんな武器を探しとるんじゃ?」

「ああ、伸縮性のある手袋と使い勝手のいい短剣はあるか?」

「手袋に短剣じゃな。手袋は何に使うやつじゃ?」

「ガントレットの代わりに使う予定だ」

「ガントレット代わりに使うのはあまりお勧めできないんじゃがのう。」

「身体を硬化させるスキルを持ってるから、ガントレットは逆に邪魔になるんだ」

「なるほどのぉ、合点がいったわい。持ってくるからちょっと待っとれい。」


そう言って奥へ立ち去って行った。しばらく店内の武器を見ていると奥から武器を抱えた店主が戻ってきた。


「待たせたの。まずは手袋から説明するぞい。これが…」


店主の説明を真剣に聞いているレオルドさんを横目にそれぞれを鑑定していく。


ここにある手袋全てに付与が施されている。防刃や打撃、耐久性能向上のどれか1つが付与されていた。



付与とは、付与魔術スキルを所持している人が武器や防具、靴、果てはアクセサリー、服など、様々なものの性能を向上させることを言う。


ここではっきりしておかなければならないのは、魔道具との作り方の違いだ。


魔道具は魔道具製作スキル所持者が専用の器具を使用して術式を刻み、魔獣からとれる魔石とつなげて作るので、同じ術式だったらだれが作ろうとも同じ物が出来上がる。


実際にルナも魔導ランプや魔導コンロなどの魔導具をいくつか所持している。


しかし、付与は付与魔術スキル所持者が魔法使用時と同様に魔力を込めるだけなのだ。イメージが大事になってくるので、当然仕上がりに差が生じる。


こう説明されると両方とも難ありのように聞こえるのだが、付与にはいくつもの大きな欠点がある。


まず、1つ目に付与魔術スキル保持者がひとつの街に一人いるかどうかというくらいに少なく、そのほとんどが国のお抱え付与士となること。


2つ目に素材によっては付与ができないということ。これは付与するのに魔力を使用するためで、付与したときに魔力を保持し続ける性質が素材になければ意味がない。


3つ目は効果が永久的ではないということ。2つ目と関連するが、素材の質が低下すると魔力保持性能も劣化し、最後は付与効果を失う。


4つ目は成功率があまり高くないということ。魔力を保持し続ける性質を持つ素材は往々にして強力な高ランクに位置づけられる魔獣ばかりなのだ。つまり、扱いづらい。そして、成功しないからスキルレベルも上がらない。


最後、5つ目が…


「これとこれが80万リグ。んで、他が100万リグじゃな。」


すごく高いこと。これが一番の欠点ではないだろうか。


レオルドさんは値段を聞いてチラチラとこちらに視線を送ってくる。


予想より高い…!とは思いながらも、助け舟を出すようにして会話に参加する。


「…レオルドさん。どれかいいの、ありましたか?」

「ああ、これなんだが…」


そう言って、100万リグする打撃の付与がされた手袋を指し示した。


「じゃあ、これにしましょう!…あとは、短剣ですね。…どれがおすすめですか?」


レオルドさんは100万リグもする手袋の購入を即決されたことに驚愕し、固まっていた。


仕方なく自身が店主との会話を進めていく。


「おう!毎度あり!…短剣は嬢ちゃんが使うのかの?」

「い、いえ!レオルドさんの、あ…彼のサブウェポンに」

「そうかの?それなら短剣よりダガーをおすすめするわい。それと、これを腰に固定するベルトならこれじゃ。」


そして取り出されたのは、刃渡り30cm程の武骨なダガーと後腰にダガーを固定する黒革のベルトだった。


「なるほど…。レオルドさん。これ、どうですか?」


ダガーを持って尋ねると、レオルドさんはやっと驚きの淵から帰ってきて、ダガーとベルトを手に取り、感覚を確かめ始めた。何度かダガーを振るった後、手を止めて頷いた。


「…いいな。これ。しっくりくる」

「じゃあ、これも、お願いします」

「毎度あり!!!全部で108万リグじゃ!」


収納魔法から108万リグ分の銀貨を出し、支払いを済ませ、ダガーとベルトと手袋はレオルドさんに装着してもらう。


満足のいく買い物ができて気分がいい私たちは、これまたホクホクとした表情を浮かべたままの店主に見送られて武器屋を後にした。


武器屋を出ると、来た道を戻るようにして大通りに合流したルナたちは、今日買う予定のものは全て買い終えていたため、露店で買い食いをしてから宿に戻ることにした。


露店の多くある外壁に向けて大通りを歩いていると、肉の焼ける香ばしいいいにおいが漂って来る。他にもスープやオレンジジュースを売っているところなんかもあった。


レオルドさんは串焼きを何本も食べているが、自分はオレンジジュースだけを買って飲んだ。


この世界ではオレンという名前の果物から作ってジュースにしているそうだが、やはり、ただのおいしいオレンジジュースにしか思えなかった。


露店巡りをしていると、日がだいぶ傾いている。宿に戻る頃には夕影が街を照らしていた。


読んでいただきありがとうございます!

銀貨は1万リグですが、収納にそれより上の硬貨はありません。使いやすいようにしていたのが仇になった感じです。武器屋の店主は数えるの大変だったと思います。


「面白いなぁ」

「続きが見たいなぁ」

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