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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第四章 七月 共に生きるための涙
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三十五 共存の天水

 ローレライの前に着くと、ワルツ姉妹の父親の剣で防壁を斬ろうとするが弾かれる。

 

「カズヤ!」

 

「大丈夫だ、スカーレット」

 

 こうなったら意地でも防壁を破壊してやる。

 剣が折れたらごめんなさい……

 

「うりゃあ!」

 

 防壁と斬撃が拮抗する。

 まだだ! 弾き飛ばされてたまるか!

 

「カズヤさん! そんなことをしても私の防壁は破れませんよ。やめておきなさい!」

 

 向こうからセイレーン先輩が忠告してくる。

 

 レイがこの剣がローレライへと導くと言ったから信じるしかないだろ。

 

 諦めず踏ん張っていると、剣にヒビが入る。

 しまった! ワルツ姉妹の形見を!

 

「父の形見がこのままでは砕けてしまう! やめなさい!」

 

 セイレーン先輩がこちらに猛スピードで向かってくる。

 

「先輩はこの剣をどう使うか試していましたよね? 戦いを終わらせるために利用させてもらいますよ」

 

「レイさん、あなたまさか……仕方がないですね……防壁を部分解除します。ローレライがどう戦いを終わらせるか見せてもらおうじゃないですか」

 

 防壁か部分解除され、ローレライの横に転がり込む。

 

「レイのやつ……ロクでもないこと考えやがって……」

 

「カズヤ! なんでこんなことを……」

 

 ローレライが心配そうに見つめている。

 

「お前が俺たちにもセイレーン先輩にもつかずに戦えなかったことが重要なんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「中立のお前なら俺たちとセイレーン先輩の間に入れる。お前もこんな戦いをさっさと終わらせたいだろ?」

 

「それはそうだけど、私にできることなんてないわ……」

 

 セイレーン先輩の方を見て弱音を吐く。

 

「お前には歌があるだろ。セイレーン先輩はあの力を使いこなしてないと俺に言った。ローレライにも魂に響かせる歌がうたえるんだよ。戦いを終結に導く希望の歌を……」

 

「え? そんなの無理無理」

 

 顔の前で両手を振り思いきり否定をする。

 

「でもレイはお前を戦いを望めない歌姫と言ってたぞ。俺はともかくレイがああいうなら本当なんだろう」

 

「レイ様があなたを歌姫というなら絶対そうですわ。私もあなたを信じます!」

 

 スカーレットがローレライの両手を握る。

 

「もし失敗してもお前が俺たちと先輩を共存させるために頑張ったことは無駄にしない。必ずなんとかする。選抜チームの仲間を信じろ」

 

「そうですわ。あのときもみんなでなんとかしたじゃないの!」

 

「――二人とも……分かったわ! やれるだけやってみる!」

 

 俺たちはローレライと防壁内に戻ってくる。

 

「ローレライ。頼んだぞ」

 

「うん!」

 

 ローレライは深く深呼吸をして、両手を胸にあてて高らかに歌いだす。

 

 清らかで温かい歌声が防壁内に響く。

 

 乱れていた心音が徐々に戻ってくる。

 それだけではない。

 心が穏やかになり気持ちが軽くなる。

 

「先輩。これがローレライの力ですよ」

 

 レイがセイレーン先輩の隣で語りかける。

 

「あの子にも私と同じ力があったことは分かってたけどここまで清らかで優しい歌をうたえるなんて……」

 

 セイレーン先輩がローレライの歌に聞き入っている。

 

「セイレーン先輩、まだ終わりではないですよ。俺がこれから戦いを終結させる力をお見せします」

 

 左手にある白のリングを胸に当てる。

 

 戦いを終結に導く希望の歌を奏でるローレライの姿をイメージし、想いを練る。

 

 そして、想いと心音をシンクロさせる。

 

 リングよ! 共存のための癒やしの力を!

 

 白のリングが強く光る。

 

 光は手のひらに魔法陣を描き、中指に青色のリング模様を浮かびあがらせる。

 

 これが最後のサブリング………

 

「それでは俺が今できる少しでも多くの人と魔物を助けるための力をお見せします」

 

 青のサブリングを発動させ、さらに全てのリングの力を青のサブリングに集中させる。

 

 そして左手を上げ力を開放する。

 

 防壁の天井に青色の巨大な魔法陣が浮かびあがる。

 魔法陣から光り輝く水が落ちてくる。

 

「これは雨……?」

  

「そうです。天から降りそそぎ全ての者を癒やす力。これが俺が先輩に示す力です」

 

 スカーレットやケブ、レイの傷がみるみると癒えていく。

 僅かな傷ではあるがセイレーン先輩の傷も癒える。

 

「無差別に癒やすなんてお人好し過ぎますね。これでは満点をあげられませんよ」

 

「助けることに満点なんてないですから……でももっといい方法をこれからも探しつづけていきます」

 

 セイレーン先輩は光輝く雨に包まれながら、清らかな歌声を奏でるローレライを見て微笑む。

 

「戦いは終わりです。今のところはカズヤさんとレイさんを信じましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

「全く……あなたたちは学園長に無断で何をしているんですか……」

 

 振り向くとそこにフレイアさんがいた。

 

「フレイアさん! いつの間にそこにいたんですか!」

 

「ずっと遠くから見てましたよ。前にもカズヤさんに言ったじゃないですか。私はこの島の子供たちのことは全て把握すると」

 

 相変わらずフレイアさんは無茶苦茶だよ。


「フレイア様、お聞きしたいことがあります! なぜ生徒会メンバーの中で私だけにカズヤさんやレイさんのことを教えてくださらなかったのですか。そんなに私が信用できないのですか!」

 

 セイレーン先輩がフレイアさんに詰め寄る。

 

「セイレーン、ごめんなさいね……娘のように見守ってきたあなたとローレライはこの件に巻き込みたくなかったの。誰よりもやさしいあなたなら、万が一のときに私の代わりにレイを手にかける可能性があった……」

 

「私はフレイア様と島のためならレイさんを殺すことなど……」

 

 目に涙を溜めてフレイアさんを見つめる。

 

「そんなことをしてローレライとお父様はお喜びになるの? ワルツ一家はこの島の平和に必要不可欠。そして、あなたには今私が理事長と兼任してる学園長の座を譲りたいと思っているのよ」

 

「私が次の学園長?」


 セイレーン先輩がきょとんとする。

 

「あなたほど世界の地獄を見て、共存の尊さを知り、生徒会メンバーとして皆の模範となってきた。誰が反対できる? そんな未来あるあなたの手を人の血で汚させるわけないでしょ?」

 

「私のことをそこまで……でも頼ってほしかったです。お力になりたかった。生徒会メンバーで私だけが知らなくて孤独だった……」

 

「そのことは本当に申しわけなく思ってるわ……後で全てをあなたに話すわね。だから私を信じてくれる?」

 

 フレイアさんはセイレーン先輩をそっと抱く。

 

「私はこの島にきてあの一杯の紅茶をいただいときから、ずっとあなたを母のように慕ってきました。信じないわけないじゃないですか!」

 

 セイレーン先輩は子供のように泣きじゃくる。

 

 

「ねぇ、カズヤ。僕らがここにいるのはもう野暮じゃないかい? 後片付けも二人任せて今日はもう帰ろうよ」

 

「お前は片付けしたくないだけじゃないのか?」

 

「まぁ、それは否定しないけど。それより全てのサブリングがようやく集まったね。いよいよ君と僕が初めて戦うことができるわけだ。覚悟はできてるんだよね?」 

 

「そんなことを聞くのも野暮だろ」


「レイ様! 私達を置いて行かないで!」


「待ってくださいよ。カズヤとレイ師匠(・・)


 スカーレットとケブが駆け寄ってくる。


「スカーレット、ローレライは?」


「セイレーン先輩と一緒に帰りたいと言ってましたわ」


「じゃあ、僕らは一足先に帰ろうか」


 なお、レイがセイレーン先輩から借りた剣は後日、修復をして返却したそうだ。


 最後のサブリングを発動させ、これで四つ全てのサブリングが揃った。


 そしてついにレイに力を見せてもらう資格を手に入れた。


 本気のレイとサブリングを揃えた俺では、はたしてどのくらいの差があるのだろうか。

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