告白
翌日、茶畑の視察を行い、午後には村へと戻る事にした。
ルークはまだまだ見たい場所があったようだが、それはまたの機会を作ると約束してエイルマーニを出た。
スミスも切り上げさせた。
スケルトンは1体も売れていない。
しかし、これから兵力が1体でも多く必要になるかもしれないのだ。
例え、ただのスケルトンでも残しておくべきだろう。
ルークに茶の木の件は全て任せ、今度はナーを伴い街へと向かう。
情報を集めるにしても、戦力を整えるにしても、まずは軍に話を通さなければならない。
将軍に取り次ぎを頼むと、また例の将軍と会うのに良く使う部屋に通された。
最近知ったのだが、この部屋は通称「説教部屋」と呼ばれているらしい。
将軍が若い兵をつかまえて、ありがたい昔話を聞かせるために使われる部屋のようだ。
ふざけた事に、防音対策が施されていて、外に話は漏れないようになっているとの事だった。
密談にぴったりとは言え、ここに頻繁に来る俺の事を兵達が何と思っているのかはあまり考えたく無い。
不意に訪れたせいか、長い事待たされた。
その間、ナーもエキオンも口を開かなかった。
やがて、日が落ちた頃に将軍が現れた。
後ろには見慣れた副官らしき男。
ふと思った。
こいつの顔は。
後ろにナーがいて、はじめて思い至った。
そういえばナーを連れて会うのははじめてか。
「それでどうした今日は?突然来られて、いつでも会えると思われるのは甚だ遺憾だな」
「すみません。どうしても将軍に話すべき事態が進行しておりまして」
「なんだ?またラグボーネの連中が懲りずに来たのか?」
鼻で笑って言う。
この様子ではまだ何も起きていないのか。
あの男の現れ方からして、すぐにでも来そうな雰囲気があった。
さすがにスケルトンの大群が東方諸国のどこかに現れれば、それがどこであっても将軍の耳に入るだろう。
「ラグボーネ以上の脅威です。将軍もある程度は知っているとは思いますが、俺の昔の事はどの程度、知っていますか?」
「あん?西でスケルトンを操って大暴れしたネクロマンサーだろ?噂じゃ砦にたったひとりで潜入して、それを落としたとか、前線でスケルトンの部隊を率いて西方諸国に大損害を出したとか、その程度だな。前者はどうだか知らんが、後者はこの間のを見る限りじゃ本当らしい」
噂程度の情報か。
「分かりました。意図的に伏せていた情報も含めて、ここで話すべき事がたくさんあります。エキオン、もういいぞ。話せ」
「分かった」
エキオンが口を開いた。
かくかくと揺れる顎から言葉が出る。
そのあまりにも非現実的な光景に、将軍の目が見開いた。
後ろから息を吐くのが聞こえた。
ナーだろう。
やっぱり話すじゃないですか、という所か。
将軍の後ろの副官も驚きを隠せないようだ。
「ふん。話すモンスターか。ドラゴンとか、そういう超大物クラスの特権って話だったよな」
「ええ。その通りです。スパルトイ。アンデッドの中でもデスナイト級の最上級モンスターの1種です。造るには特殊な素材が必要で、おそらくもう二度と造れないでしょう」
これは嘘ではない。
ドラゴンなんて100年に一度、現れるか現れないかだ。
そしてそれは既に倒されている。
死体なんてとっくに武器防具か魔法の研究か触媒か何かに使われているだろう。
この状況では何体でも造りたい所だ。
隠さず話す。
「ドラゴンの牙ね。この国にも、周辺諸国にもまず無いだろうな。あっても持ち出せんと考えとけ」
やはりな。
「これから起こるのは最悪の消耗戦です。エキオン1体では、いや俺の手持ちのスケルトンをすべて動員しても、どうしようもないような戦いが起こります。それも消耗するのはこちら側が圧倒的に多くなるでしょう」
「こちら側とは何だ?そこに儂も入っているのか?」
質問には答えず話す。
「俺の魔法は当然、他人から教わった物です。その師がリッチになったのが発覚しました」
話す。
俺の過去を。
そして男から聞いた事を。
将軍からの信頼を得なければならない。
将軍が何も知らずに婆が事を起こせば、俺の事を婆の仲間だと取られかねない。
仲間が必要だった。
共に戦える仲間が、ひとりでも多く。
そのために話す。
戦災孤児だった事。
小さい頃の記憶を持たない事。
一番古い記憶は、薄汚い婆にこき使われていた事。
剣をデスナイトに教わった事。
やがて婆にアンデッドの創造魔法を教わった事。
おそらく10代の半ばくらいで大戦に参戦し、各地を渡り歩いた事。
その時に与えた法国への損害から恨まれ、今でも西方諸国に立ち入れない事。
そして婆がリッチになった事。
その戦力は小国の街を占拠する程だった事。
予想される戦力は少なくとも500。多ければ1000以上。
ヒュージスケルトンが束になって出てくる事すらも予想される。
さらにデスナイトが最低でも2体、もしかしたらそれ以上出てくるかもしれない事。
そして。
「ここからが本当に最悪な話です。生身の人間が策も無しにこれにぶつかれば、相当な人死にが出ます。そしてその死者がそっくりそのまま敵になりかねません」
将軍が目を瞑り、手でおさえた。
俺が防衛戦でやった事が今度は自軍に対して行われる。
その効果は既に見てきているのだ。
想像するまでもない。
「最悪だな」
パラスの親父がかつて吐いた科白と全く同じ科白を将軍が吐いた。
この街で最も優秀な指揮官からは絶対に聞きたく無い科白だった。




