第37話 アシュトン王子殿下とお出かけ
両親は、殿下を私に任せて、難破事件中に滞った商売の案件を死に物狂いで片づけていた。殿下のことは、私に任せっぱなしだ。
「アシュトン殿下は、ここがとても気に入ったとおっしゃるの! きっと、あなたのことが気に入ったのね。同い年だし、話が合うのじゃない? 趣味とか」
「私には、アシュトン殿下の趣味がわかりませんが」
「あら、いやだ。アシュトン王子殿下がそうおっしゃっていたのよ。それに、あなたのことも気に入ったって」
絶対にそんなことはありません!
「でも、ほら」
準備された馬車の前では、アシュトン王子殿下が、満面の笑みで手を振っていた。
「さあ、早く行こう、ローズ」
「そら、ご覧なさい」
くそう。なんだ、これは。
「いってらっしゃいませ~」
キティとポーツマス夫人が楽しそうに見送ってくれた。
二人仲良く獄中に向かう馬車の中で、私は殿下に確認した。
「殿下は噂話がお嫌いだとおっしゃっていませんでしたか?」
私は内心イライラしていた。私の薬作りはどうしてくれる。店は閉まったままなんだ。早く再開したい。
殿下、そろそろ滞在に飽きないかしら。
面白いことも、もう、ネタ切れだと思うんだよね。
怪手紙の謎も解けたことだし、ここですることはもうないんじゃないの?
「ううむ。私は、噂話は嫌いだと思い込んでいたが、あれは自分が主人公だから嫌だっただけで、他人の噂はなかなか面白いよね」
同意を求めないで欲しい。これから行く牢屋には、バリー男爵が閉じ込められている。この場合、私が主人公なんですけど。
正直、伯父のバリー男爵になんか会いたくなかった。何を言われるかわからない。そっとしとくのが一番だと思うじゃない。
案の定、男爵は借金をなかったことにしてくれと言い出した。代わりに払って欲しいと。
「なぜですの? どうして私がそんなことをしなくてはならないんですの?」
「せっかく会いに来たんじゃないか。そのためじゃなかったのか?」
私は殿下に合図した。罪人を見てみたいと言ったのはあなたでしょう。
しかし殿下は卑怯なことに出てこなかった。
「だって、見るだけで沢山だもん。あいつと話すのいや」
「私だって。嫌」
「私たち、なかなか仲がいいじゃないか」
私は殿下をぎろりとにらんだ。
「そんなこと、ありません」
殿下は大声で笑い出した。
「宮廷では絶対に聞けないな。仲いいな、なんて言われたら、皆、大喜びだよ。歪んでるよね。私が何を言ってもうなずくんだ」
「私は宮廷に出入りしたことがございませんので」
もうすごい不敬なことをしているんじゃないだろうか。
「大丈夫。外国だからね。私の国の法律は適用されない」
私は隣国には絶対行くまいと決意した。不敬罪で逮捕されるかもしれない。
そのあと私たちは脂ギッチョンな夕食を食べ、「生クリームってさわやかでいいね」という殿下の言葉でチョコレートムースにたっぷりクリームをかけて、追加に塩味の利いたバタークッキーを食べた。
「これで甘みと塩みのバランスが取れる」
早く殿下に帰っていただかないと、色々と別な問題が生じる気がするわ!




