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「先生、そんな物騒なこと言わないでくださいよ」
レイがドン引きしながらそんなことを言った。
レイもアルストレーナも、バーベキュー用に獲物を獲って殺したことはあっても人を殺したことなどない。
「いつ加害者になるのかは、誰にもわからないからな。
故意にじゃなかったとしても、殴りどころが悪かったら時間差でヒトってのは死ぬもんだからな」
オオグはいつも通りの口調で言った。
「じゃあ、どうすれば良いんですか?」
アルストレーナの言葉に、頭を掻きながらオオグは答える。
「簡単だ。相手より早く動いて無力化すればいい。
つっても、見本を見せないと動けないよな。
よく見てろよ」
そうして、所謂お手本を見せたのだが、早すぎて何が起きているのかアルストレーナとレイにはわからなかった。
気づいたら、目の前に数人の黒ずくめの人達が積み重なっていた。
「こうすれば良いんだよ。とりあえず、手足狙って喉潰せ。
そうすれば、逃げることも魔法を使うこともできなくなるから」
「喉の潰しかたがわかりません」
レイの言葉に、オオグはどこからこともなく夜の営みで使われる大人のオモチャの一つである猿ぐつわを渡してくる。
アルストレーナは初めて目にしたので興味津々に、その大人のオモチャを眺めている。
「ようは声を出させなきゃ良いんだよ。それでもかませとけ。
とりあえず、残ってるのは二人だ。っと、逃げ始めたな。
気配があるなら追いやすいだろ、捕まえたらここに連れてこい」
オオグが言い終わると同時に、二人は今いる場所から遠坂っている気配を探って、動き出した。
それを見送って、オオグは残っている気配へと声をかける。
「出てこいよ」
ゆらり、と少し離れた場所の空間が歪んで、やはり黒ずくめの男ーージェフィニスが姿を現した。
「さて、お前はどこの何さんだ?
王妃だったらここにはいないぞ」
そんなオオグの言葉に、男はくつくつと笑った。
「これはこれは、御丁寧に。
ジェフィニスともうします。
まさか気づかれているとは思いませんでした。
王妃のことはもう良いのです。
予想以上の大物が釣れたようなので」
「腹の探りあいのつもりか?
だったら無駄だぞ。お前らの目的もだいたい想像はついてる。
三流よりも酷いシナリオだな?」
「なんのことだかさっぱりです。
主語を抜かして話さないでいただけますか?」
「ロリコンはどん引かれるだけだから止めとけって言ってんだ。
うちの生徒に追跡と監視魔法使ってただろ。大方、怪我をしたあのガキの血でも使ったんだろ?」
「そこまで見抜いておきながら、あの銀髪の子供を行かせましたね」
「なるほど、目的はやっぱりそっちか。
はは、そりゃ、あからさまな餌になるだろ?
銀髪の方をお前が追いかけるようなら後をつけて頃合いを見計らって、仕掛ければ良いだけだからな。不意打ちになるから倒すにしても捕まえるにしても成功率はあがる。
そっちこそ、よく俺の挑発に乗ってきたな」
「興味が湧いたんですよ」
「興味?」
「えぇ、覚醒する前の聖王が貴方ほどの力量を持つ存在と出会うなんて、今までなかったことです。
それだけの禍々しい力を、どこで手に入れたのでしょうか?
いいえ、それよりも、貴方はあの少女を手に入れてどうするつもりですか?
すべてを知っているかのように言っていましたが、あの少女がどういう存在か知っているのですか?」
「聖王、聖王ね。
その話もよく知ってるさ。そして、あのチビがどういう存在なのかもな。
歴史の大海に沈むことが運命付けられてるとか言う、クソ英雄の役割のことだろ。
なるほど、だから手に入れたいのか。
歴史の中に現れる英雄。真の英雄は黙して語らず、終の住処を求めてさまようだったか?
そんな予定調和を求めるから変なことばっかりが起こるんだ。
伝説も割り振られる役割もクソだ。
あのチビの人生をどうこうできんのは、あのチビ本人だけだ。
俺はただの教師だからな。他人をどうこうするつもりはない。でも、教師だからな、生徒をロリコンの変態から守るくらいはしないとなんだよ」
言い終わると同時に、オオグはジェフィニスへ殴りかかった。




