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「うーん、いつも実家でやってたお手伝いとそんな変わんなかったです」
プチ旅行初日の午前の部が終了し、ギルマスに体験学習についての感想を聞かれたアルストレーナはそう答えた。
彼女達が今いるのは、お世話になってるギルドの建物の中にある休憩所として使われている部屋だった。
オオグとエステルの古い知り合いだというそのギルマスは、アルストレーナと同じ銀髪とアルストレーナとは違う赤い瞳をした、エステルに負けず劣らずの美女で、転移魔法が使えると言うこともあり、そして冒険者だけでは食べて行けないので別の場所では居酒屋と喫茶店を経営しているのだとか。
「そっかー」
素直過ぎる感想に特に気を悪くすることなく、冒険者ギルド【綺羅星】のギルドマスターであるリオはそう返した。
このギルドの構成員はリオを含めて三人。一人は十代後半くらいの白髪に新緑のような鮮やかな瞳を持つ少女ハル。もう一人はリオと同い年か少し年下と思われるこの辺ではあまり見ないエキゾチックな容姿の青年ソータ。
この三人だけのギルドらしい。
ハルとソータは別の依頼を受けたので、朝挨拶しただけである。
「それじゃ午後は、これとかやってみる?
期限はまだ先だけど、畑を荒らす魔物の討伐依頼」
「あ、やってみたいです!」
アルストレーナが目を輝かせた。
「アンは元気だなぁ」
そうレンが呟いた横で、オオグもほぼ同じことを呟いた。
そして、
「リオ、今回は急で悪かったな」
「良いってことよ。のんびりしてるギルドだしね。
他のギルドと違って小規模だから、目をつけられることもないし」
「そのことなんだが」
珍しく、オオグが言いにくそうにしている。
エステルも、少しだけ複雑そうな表情をしていた。
そして、オオグとエステルの二人はアルストレーナとレンを見た。
二人はリオの用意した食事を食べながら、どちらがより多く討伐できるか勝負しようという話をしていた。
ちなみにこの食事はリオの経営している喫茶店のメニューである。
味の濃い料理は、居酒屋で出している料理だ。
「この際だ、お前らも聞いてくれ」
アルストレーナとレンにも向かってオオグは言った。
名指しされた二人はキョトンとしてオオグを見る。
ただ、料理を食べながらなので口はずっとモグモグしている。
「レンの方は気づいてるかもしれないが、今回、全体的にこの企業体験の応募者が少なかったんだ。
特に四年生以上の上級生は、集中的に応募するから下級生より先に注意喚起していたってのもある。
何の注意かっていうと、最近【天空第一総合学校】の卒業生を中心に暴行事件が相次いでいるんだ。
犯人はそれぞれ別なんだが、学校を逆恨みするやつがそんなことをしているらしい。
で、上級生達は念のために殆どが今回の企業体験を見送った。
下級生の間にもその噂が流れてて、今回ほとんどの体験学習が中止になった」
その説明に、アルストレーナが以前ジョセフと話していた内容を思い出す。
「お前らは、それなりに野生の魔物相手で実戦経験を積んでるし、実際それなりに強いから大丈夫だと思うが、そういうヤベー奴に遭遇したらすぐに逃げろよ」
料理を食べる手は止めず、むしろ優雅さの欠片もなく頬張っている二人はコクコクと頷いた。
食事を終えて一休みしたら、今度は近所の農家に出没するという魔物の討伐依頼をこなす。
農家近辺の森の中を探索し、縄張りにしている依頼書にあった魔物を討伐していく。
その魔物とは、国によっては神聖な生き物として保護対象となっているペガサスだった。
しかし、このエリア王国では害獣の扱いである。
国境近くということもあり、どうやらお隣の聖ルクシミリオン王国からこちら側に渡ってきているようだ。
国境の先には聖ルクシミリオン王国領ヴェルサス領がある。
ヴェルサス領は肥沃な土地であり森林地帯も多く、多種多様な生き物がそこに棲息していると言われている。
「いち、にー、さん」
討伐したペガサスをレンが数えていく。
ペガサスは習性として、美しい純粋無垢な女性を好む。
そんな民間伝承があり、おもしろ半分にエステルがアルストレーナを餌に使ったところ入れ食い状態で大量に討伐することに成功した。
「オオグ先生、ペガサス十五体の討伐完了しました」
レンがオオグへと報告する。
「思ったより早かったな。ま、空いた時間は観光でもするか。
とりあえずギルドに戻るぞ」
言いつつ、収納魔法でペガサスの死体を収納する。
害獣ではあるが、そこから取れる骨や皮、羽などはマジックアイテムの材料となるので、討伐とは別口の依頼であるそのまま納品の依頼も同時に終わらせることができた。
オオグの指示でギルドに戻ろうとした時、遠くから破裂音のようなものが聞こえてきた。
他の冒険者パーティが、同じように魔物の討伐依頼でもこなしているのだろうと思われた。
しかし、その音は次第にこちらに近づいてくる。
「よし、番号!」
生徒は二人しかいないが、オオグは規則にそって点呼を取る。
まだ音は遠い。
「いち!」
「にっ!」
アルストレーナとレンの順番に番号を叫ぶ。
エステルも、指差しで数を確認する。
「撤収っ!」
オオグが言って、転移魔法を発動しようとした時。
彼らの元に、襤褸の布切れで身をすっぽりと隠した人物が現れた。
頭まで布で覆っているので顔はよくわからなかったが、見事な金髪が見えている。
「た、助けてください!」
どうやら女性のようで、泣きそうな声でそう訴えてきた。
オオグがめんどくさそうに、逆にエステルはわくわくと目を輝かせたのが印象的だった。
「アルストレーナとレンの二人はその人を守れ、エステル、よろしく」
オオグがやる気なさそうにそう指示を出した。
エステルが張り切って森のなかに消えていく。
こちらに近づいていた爆発音が激しくなったかとおもうと、いきなりピタリと止んだ。
そして、少しするとエステルが戻ってきた。
そして、
「片付いたぞー。お嬢さん、怪我はないか?」
そう声をかけてくる。その対象は、アルストレーナとレンの後ろで怯えていた女性である。
女性は、助かったことに安心したのか襤褸のフードをとって頭を下げてきた。
金色の髪に獅子のように意志の強そうな金色の瞳。
他人の空似なのだろうが、どことなくアルストレーナの母に面立ちが似た少女だった。
歳の頃はレンと同じくらいの十代半ばほどの美しい少女だった。
「助けていただきありがとうございます。私はバジルと申します」
少女はそう名乗ってきた。
そして、頭をあげると何故かアルストレーナを見て目を丸くした。
しかし、そんなことはお構い無くエステルが訊ねる。
「暴漢の方は大丈夫だから、とりあえず一緒に街まで行くか?
そこで役所にでもこのことを報告した方が良い」
「え」
バジルがその申し出に戸惑う。
「良いのですか?」
「あとはバジルさん次第だけど、こっちとしても襲われていた女性を放置して帰るとなると後味が悪いし。まぁ早い話が社交辞令的な申し出だ。
必要無いならこっちはもう行くが。どうする?」
「すみません。街までの案内をよろしくお願いします」
やはり、バジルは即答した。




