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長期休暇になったら実家に帰って、作るのだと張り切っている。
レンも普段はあまり料理はしないのだが、今回のことで興味が出てきたようだ。
焼いた肉の残り香。
それに引き寄せられた結果、アルストレーナとレンを目の敵にしている者達は二人を見つける事ができた。
きゃっきゃと料理トークに花を咲かせる十歳と十六歳の同学年女子二人を、冷めた目で見ているのは、生き残っていた三組の面々だ。
なかには空腹で気が立っている者も何人かいるようで、そのイライラや不満をどこかにぶつけたくて仕方ないようである。
自分たちがこんな目に合っているのは、全部アルストレーナのせいと考えている者もいた。
何故なら、数日前に起こった虐めによる騒動。
あれが起きた経緯を思い出して、ここにいる何人かはこう考えたのだ。
たとえ嘘でも、アルストレーナが罪を認めていれば、冤罪を受け入れてさえいればこんなことにはならなかった、と。
すべてはアルストレーナが大人しく、嘘でも良いから、今はすでに退学になった者達に土下座でもなんでもして、自分が虐めを行っていたと認めてさえいればこんなことにはなっていないのに、と。
そんな責任転嫁の考えが巡っている者が、たしかにいるのだ。
そして何よりも風下にいるために漂ってくる、アルストレーナとレンがつい先程まで肉を焼いて食べていたという現実も、優秀であるのに満足に腹を満たせていない自分達の現状とつい比べてしまい、身分も頭も足りていない田舎娘が腹を満たして楽しそうにしているのが勘にさわった。
理由は要はそれだけだった。
自分達より下の人間が楽しそうにしているのが気に食わないのだ。認められないのだ。
認めてしまえば、意識することになる。
下の位置にいるアルストレーナよりも、自分達は楽しんでいないし、腹を満たすことすらできていないという事実に目を向けなければならなくなる。
おそらくはレンが狩ってきたであろうと予想や推測は出来ても、自分達より無能でいてもらわなければならないのだ。
これを彼らは自覚こそしていなかったが、それがますます殺気と苛立ち、そして怒りへと変化するのである。
他人の価値を下げれば、自分の価値があがる理論だ。
ちなみに、三組の脱落者も含めての参加者は、全員十代である。
国によって、成人年齢は違うが生き残っている三組の面々は偶然にも出身地では成人している者達ばかりであった。
そう、経験値や考えはどうあれ、大人なのである。
おそらく、身分などもあったのだろうが自分達はアルストレーナよりも歳上の存在だ、という考えも影響していたのだろうと思われる。
歳上が年下に負けたとあっては、そして成績が同じ、あるいは下であるとなってはまた別のプライドが許さなかった。
いちゃもんや八つ当たり、駄々に近い理由でしかないのだ、結局は。
彼らは一気にアルストレーナとレンを叩くことにした。
全員で飛びかかれば勝てると考えたのだ。
ただ、懸念があった。
レンの存在である。
亜人であるレンにも、彼女がどういう立場でどういう目で見られているのか思い知らせてやりたかったのだ。
しかし、結局レンを倒すことは諦めることにした。
リスクが大きいと全員が判断したのだ。
だから、アルストレーナに全員が狙いを定めて一斉に仕掛けることにしたのだった。
「ねぇ、レン」
「うん、囲まれてる」
「まぁ、そういうゲームだしね。お腹も一杯になったし、ちょっと運動してくるよ」
「オッケー。終わったら教えてね」
「うん! あ、でも危なくなったら呼ぶね」
「オケオケ」
そうして、頃合いを窺っていた、アルストレーナ達を内心バカにして見下していた者達は全員脱落者となったのだった。
具体的に何がどうなったのかというと。
父親との狩りで培った勘等を駆使して、気配を消し背後から近づいて一人一人気絶させていったのだ。
悲鳴はほとんど上がらなかった。
最後の一人に魔法で攻撃されたものの、それを不思議そうな顔をして難なく交わし気絶させたのだった。
その時、最後の一人がパニックになって、かなり酷い言葉をアルストレーナに浴びせかけた。
その言葉の中に、こう言った者達が共通して使う『みんなそう言っている。みんな、そう思っている』というものがあった。
その皆が誰か喋らせてから気絶させれば良かった、と全員を気絶させたあとにアルストレーナは思ったが後の祭りだった。
それからは、決められた日数をそれなりに楽しく過ごし、途中経過を見にきたオオグに時おり野外料理を教わったりもして、終わった。
試験から少しして、三組に配属された生徒でアルストレーナとレンを除いた面々の姿が消えた。
その頃には特別クラスでは無いものの、どういった基準でかはわからないが新しいクラスが編成され、アルストレーナとレンは同級生となったのだった。




