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学年ごとに試験をする場所、そして日は別々だった。
一年生は第一空中訓練庭園がその舞台となる。
その庭園の開けた場所に一年生全員ーー約百五十名と数人の担当教官達がいた。
まず、ランダムに三十人ずつ全部で五つのクラス分けがされた。
アルストレーナとレンは便宜上三組に配属される。
そしてそこから二人から最大十人までの班分けをするよう担当教官に指示された。
「なるほど、こういうことか」
指示を聞きながら、レンは吐き捨てるように呟いた。
幼年学校でもあった、『各自、好きな人と組みなさい』というあれだ。
そうなると、事前にエステルから教えてもらっていたものの予想通りの光景が広がった。
この三組に集められた生徒達は、当事者のアルストレーナとレンを除いて全員が、アルストレーナに反感を持っている者達である。
これまた事前にエステルから指示されていた通りに、アルストレーナは出来上がりつつあるグループへ、入れてもらえないか声をかけていく。
しかし、悉く断られてしまう。
しかも、その言葉が中々酷い。
「愚図はいらない」
「お前みたいな出来そこないの山猿なんて必要ない」
「夜の相手をしてくれるんだったら考えてやる。あ、行動するときは裸な」
「底辺の売女が優秀な俺たちに話しかけんな穢れるだろ、あっち行けよ」
と、こんな感じなのである。
記録魔法が発動していることに気づいていない時点で、色々ツッコミたいところだったが、レンは我慢した。
どうやら、出自が王族だったり貴族だったり、家が資産家の者もいるらしく、平民ガー、下賎な犬ガー、と喚いている。
と、一通り回り終えたアルストレーナがレンのもとにやって来て、他の生徒には見えないように彼女へ笑いかけた。
残念そうな、寂しそうな、悲しそうな笑顔だった。
「振られちゃった」
それに、レンが苦笑したかと思うと、まるで王族にするような恭しい礼をしてアルストレーナに手を差し出した。
「それではお嬢様、この私めと一緒に行動しませんか?
貴女を最後まで守り抜くと誓いましょう」
いつもの芝居だった。茶番だった。
アルストレーナもそれに乗る。
「では、ボクの騎士様。よろしくお願いします」
優雅に、まるでドレスをつまむような動作をして頭を下げた。
それを見ていた他の三組の面々はどよめいた。
出来上がっていたグループの、それぞれのリーダーらしき者達が慌てたようにレンに声をかけてきた。
レンはそれを、
「アルストレーナさんも一緒で良いということですか?」
と満面の笑顔で迎撃する。
少々声をかけてきた者達はたじろいだものの、引かない。
「レン様はお優しいですね。そのような才能の欠片もない、虫を受け入れるなど」
「言葉が過ぎますね。先生は好きな者と班を作れと言いました。
それに従っただけですが?」
「足を引っ張られて、最下位になっても、そうそうに脱落しても良い、死んでも良い、と言うことでしょうか?」
別の生徒が、そう聞いてくる。
このサバイバルゲーム、ただ決められた期日を過ごすのではない。
他の班を攻撃可能なのだ。
そして、生徒達は事前に『死のうが滅びようが、学校を責めたり、先生の管理責任を例え家族でも追求したりしません。そうなっても全て自己責任です。実力がなく優秀でなかった自分達の責任です』という感じの誓約書にサインをさせられていた。
そう、基本禁止させられている私闘や、他の生徒への攻撃が認められているのだ。
「貴女ほどの人がそんなことで脱落など」
こうも他の生徒が言い募るのにも理由がある。
アルストレーナが編入してくる直前に行われた実力テストで、全て満点を叩き出したのだ。
実技のテストでも文句ない満点であった。
つまりは、学年の成績順位で言うとレンは総合一位を獲得した生徒なのである。
彼女を取り込めば、特別クラスへ行くのは確実となる。
しかし、当の本人が嫌われ者の落ちこぼれと組むと言っている。
レンがアルストレーナを守りながら、この試験に合格出来るのかと言うと、一人くらいなら軽く守って合格してしまいそうだ。
そうなってしまうと、実力のない卑怯ものであるアルストレーナも合格してしまうことになる。
他の生徒達はそれを危惧していた。
「それじゃ、話は終わったんで」
会話をぶつ切りにして、レンはアルストレーナとともにその事を担当であり試験教官へと報告に行く。
その時でさえ、直球にレンは別のグループへ入れと言われてしまった。
どうやら、こちらに配属された教官達もアルストレーナにあまり良い感情を持っていないようだ。
疑いがある者達を一纏めにして、証拠を集めさせるつもりなのだろう。
生徒達と違い、試験官は各学年担当の者と科目担当の者とランダムに割り振られているが、三組には集中してエステルに対しても反抗的であり、選民意識が強い者が配属されているようだ。
なにせ、三組担当の教官達全員から、何がなんでもアルストレーナとは組まない方が良いと言われ、班としての許可が貰えなかったのだ。
班が作れなければ、その時点で失格となるためだ。
許可が貰えなければ、試験には参加出来ない。
「俺が許可する。二人で良いんだな?」
ここで、どこから現れたのか、いつの間にかいたエステルがそう助け船を出してくれた。
突如現れた上司を憎々しそうに睨み付けて、しかし三組担当の教官達は何も言わず、他の生徒達が班を作ったのか確認に行ってしまった。
この前の教室での騒動を話では聞いていても直接見ていない生徒達ばかりだったのか、不思議そうにエステルを、遠巻きに見ていた。
「ありがとうございます。エステル先生」
アルストレーナがペコっと頭を下げた。
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だ。
あ、そうだ、お前らには教えとくな」
レンが聞き返す。
「何ですか?」
エステルは、指を軽く振る仕草をした。
それだけで、他の生徒達には声は届かなくなる。
ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべて、エステルは言った。
「この試験な、魔法の使用禁止なんだわ」




