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 謹慎は一週間程で解かれた。

 事実上は疑いが晴れたわけであるが、しばらくアルストレーナへの嫌がらせは続いていた。

 しかし、それも本当にごく一部の者によるもので彼女は特に気にすることは無かったし、レンに言われたように証拠集めもしていた。

 そして、その日は唐突に訪れたのだ。


 朝、教室にやって来るとざわついていた。


 アルストレーナが教室に入るや、そのざわめきが止んだ。

 何事だろう、と思いつつクラスメイト達を見回せば、八割の生徒が戸惑っているようだった。

 残りの二割がアルストレーナを睨みつけている。

 睨みつけている生徒の中心には、そこそこ可愛い顔立ちの少女が泣いていた。

 そして、彼女より後に編入してきた授業でも活躍している少年がつかつかと怒りにまかせて歩みよってきた。


 「彼女に謝れ!」


 いきなりアルストレーナはそう怒鳴られてしまった。


 「はい?」


 「君が彼女をイジメているのはわかっているんだ!」


 「いや、身に覚えないですけど」


 「いくら推薦人が賢者トゥオーフ様だからって、調子に乗るな!」


 「いや、話聞いてくださーー」


 言葉の途中で、アルストレーナにはそれが見えた。

 普通だったら、やっと反応できるという早さで放たれた平手打ち。

 もちろん放ったのは少年である。

 優秀であり、一部の教師からの覚えもめでたい少年の平手打ちだ。


 「良いから、こっちにこい!

 見ろ!」


 無理矢理手を引かれて、泣いている少女の前へーー結果的に教室の中央へと引き摺り出されてしまう。

 そんなアルストレーナの心情はと言えば、


 (トール父さんより、若くて力もありそうなのに全然痛くない!

 え、怒ってるんだよね?

 それともフリとか?)


 こんな感じであった。

 そして、引っ張り出されたアルストレーナが見たものは、典型的なイジメの現場であった。

 悪口などで落書きされた机には、花瓶が置いてあり葬式に使われる花の一つが活けてある。

 その机の周囲には切り裂かれた教科書やノート、鞄が散乱している。

 事態を把握しようと必死に頭を回転させていたアルストレーナだったが、いきなり足払いをされ、頭を押さえつけられてしまう。





 さて、この光景を隣の校舎から眺めている者がいた。

 エステルである。


 「おーおー、こんなにあっさり引っ掛かるとは!

 噂を流してた一部は、あの小娘とその取り巻きだな」


 「バレたらエステル先生のクビが飛びますよ」


 エステルの横にいたエルドがそんな事を言う。


 「大丈夫。飛ばねーよ?

 だって、俺あのバカに一応全権を任されてるこの学校の真の支配者だし」


 「そう言うのは職権乱用って言うんですよ」


 「あーあー、あんな小さな子に土下座強要してるよ。

 この学校も生徒の質が落ちたなぁ。

 って、うわ、顔面に蹴りまで入れやがった!

 あいつら外道だなぁ。地獄に落ちれば良いのに」


 楽しそうに言う台詞ではない。


 「先生も大概ですからね」


 「アハっ、いやいやあのアルストレーナさんも中々いい性格してるぜ?

 これが一区切りついたら、委員会に誘おう!

 何せ彼女、誰にも気づかれることなく教室に入ってから魔法で全部記録してる。

 経歴を見たらかなりの山奥で暮らしてたみたいで、性格も世間知らずな農家の娘だとばかり思ってたのに!」


 かなり嬉しそうにそして興奮気味に言う女教師に、エルドは浮かんできた疑問を口に出してみた。


 「あの正義感溢れる少年はダメなんですか?

 かなり優秀だと教師達の間で話題だそうですが」


 「あー、アレはダメだな。

 手にした正義と正論をあんな風に使う人間は、ろくな事をしない。

 現に今、アルストレーナさんを疑うための明確な証拠は何一つ無い。

 あの少年は、被害者面してる性悪女の言葉だけを鵜呑みにして行動した。

 それだけじゃなくて、自分達が正義の、正しさの名の下に何をしているか自覚がない」


 「それは、まだ子供だからでは?」


 「相手が悪人だからと、好き勝手にリンチしていい理由にはならないんだよ。そこに、大人も子供もない、ましてや彼の場合はある程度の教養と教育を受けてきた人間だ。

 分別ある存在として扱われるし、そうでなければこの学校は年齢で生徒を差別、あるいは区別しなければならなくなる」


 この舞台を設定したのはエステル達だ。

 と言っても、エステルとエルドは花瓶と花を用意して、調べた上であのクラスで一番怪しそうな生徒の机にセットしただけである。

 涙を流している生徒は、それを逆手にとって利用したのだ。

 彼女が誰よりも早く登校して、露骨になりつつあったイジメの仕込みをしていたらしいことは調べあげていた。

 しかし、確証を手に入れることが出来なかったのでこのような手段を使ったのである。

 机の落書きも、散乱した教科書も彼女の自作自演である。

 彼女がイジメをしていなければ、戸惑って容疑者止まりだったアルストレーナを糾弾するだけだっただろう。

 しかし、そうではなかった。

 あのクラスの首謀者である彼女は、その舞台にわざわざ手を加えたのだ。

 そして、その証拠も手に入れることが出来た。


 「これで少しは膿を出せると良いんだけどな」


 そう呟いた直後、エステルの姿が消えた




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