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「じゃあ、まず、なんでイジメが起こると思う?」
そんなレンの問いに、アルストレーナは勢いよく手をあげた。
「はい!」
「はい、アルストレーナさん」
「面白いから!」
「なんで面白いと、イジメが起こるのかな?」
「イジメの加害者がわの性格がサディスティックだから、かな?あと優越感に浸りたいから? それと征服欲が満たされるから?」
「なるほど。まぁ、それも正解、かな。
他には憂さ晴らし、ストレス解消ってのもあるかな。
ここだけじゃなくて、集団生活っていうのはなんだかんだとストレスが溜まるからね。
あと、これ、答えは一つじゃないんだよ。
有名な言葉を引用するなら『何故戦争が起こるのか?』という疑問に対して『どちらも自分が正しいと思っているから』なんてものがある。
この場合、起こるのはイジメじゃなくて国家間の戦争、まぁ喧嘩だね。
でもイジメと異なるのは、イジメっていうのは一方的な嫌がらせをすることで喧嘩にはならない点かな。
私の個人的な考えを言うと、面白いからイジメが起こるんじゃなくて、自分の常識とずれていたり違っている人を排除、または更生させるためにイジメが起こることがある、かな。
自分の常識が正しくて、それ以外は違っている、違っていることはすなわち悪っていう極端な考えが根本にあるように思う。片方だけが自分が正しいと思っていて強制的に相手の考えを変えさせようって意思が働いて結果的にイジメになってしまうこともある、と思っている。
もう一度言うけど、これは考えの一つね。
アンの言うように、楽しいからっていう理由でやる奴もいるだろうし、優越感や征服欲、承認欲求なんかを満たすためにイジメをするやつもいる。
人の数だけ性格や考え方が違うように、加害者の数だけイジメる理由が存在するわけだ」
「それじゃあ、ボクが巻き込まれてる現状は?」
「嫉妬とストレスによる排除目的のためのイジメ。
それも自覚のないやつだと思う。
あと、たぶん複数の人間が絡んでる。個人でイジメをしてる奴もいればグループでイジメてるのもいるかな?
それも、十代。
二十歳以上のやつもいるかもだけど、圧倒的に社会経験の足りてない十代が多い気がする。
さっきも話したように、種族は違っても人類のそういった部分は結構同じで、自分の基準に合わせようとするか、選民意識が強かったりすると相手を叩いていいんだと考えるようになる。
で、誰かがやり始めるとそれに便乗して色んな理由で同じ標的を、生け贄をイジメ始めるってわけ」
「色んな理由で便乗?」
「そ、たとえば『皆がやっているから』とか、『自分が標的にされたくないから、話を合わせるため』とかね」
「ヒトって怖い」
「うん、怖いね」
「でも、その話を聞いてちょっと疑問が」
「何々?」
「そもそもボク、お師匠様と一緒にいたって事以外とくに注目される要素がないと思うんだけど」
編入試験の成績に関しては、個人情報ということもあり明かされていない。
これが、新年度の入学であったなら首席かどうかで他の者も知り得ただろうが、逆に言うなら首席以外の成績は基本本人以外に知らされないようになっている。
そして、編入してくるものは頻繁と言うわけでもないが、この学校では珍しくもない。
取った授業で、そこまで目立ったかというと実はそうでもない。
体育は、チームプレーをする実技が今のところ殆どだし、怪我をさせてはいけないとアルストレーナも試験の時のことを踏まえてとても気をつけていた。
まずは、周囲に慣れることを目的にして、だいぶ苦労していたのだ。
座学は、当てられれば難なく答えていたが、それは他の生徒も同じだった。
というよりも、アルストレーナの後に編入してきた少年の方がかなり目立っていた。
魔法の実技の授業では、設備であり備品の的や体育館を焦がしていた。
座学の授業でも、おそらく大学などで習うだろう知識を披露していたし、そこにアルストレーナの存在は隠れてしまっていたので、とくに悪目立ちはしていなかったと思うのだが。
しかし、そんな疑問にレンが答えた。
「それ、知りたい?」
「知りたい!」
「理由は、私は大きくわけて二つあると思っている」
「何々?」
「一つは授業で目立っていないから。
もう一つは、アンが可愛いから」
「はい?」
「一つ目について。推薦人のわりに、普通。自分達とそんなに変わらないのに何で賢者様が推薦したのかわからない。
この『わからない』ってのがミソね。
知らない、わからないことに人は自分を納得させるために理由を考えるわけ。
たぶん今回は、それが悪い方の考えになったんではないかと思うわけですよ」
「悪い方?」
「大した実力のない者が、賢者トゥオーフ様に無理を言って推薦してもらったんだとか、試験でもズルをしたんだとかそんな感じかな」
「じゃあ二つ目は?」
「女のこわーい部分。
女はたぶん、男より矜持を傷つけられたりすると始末が悪くなる」
「どゆこと?」
「アンの容姿はかなり良いんだよ。
貴族のお姫様みたいに整ってるし。
でも、それを認めたがらない、良く思わない女子が存在するってわけ」
「そうなの?」
「そうなの。現にイジメのやり方が女のやり方だしね。
男は直球でマウントを取りに来るけど、女の喧嘩のやり方はかなり陰湿だから。
噂を使ってる時点で、八割の確率で首謀者は女の可能性が高い」
「え、じゃあ、まさか」
恐る恐るという風に、アルストレーナはレンを見た。
その視線の意味を正確に汲み取って、しかしお茶らけてレンは返した。
「ふっふっふ、よくぞ気づいた勇者よ。そうこの私が首謀者だ!」
「んな?! なん、だと!」
レンのこうした茶番に付き合うのにも慣れてきたので、アルストレーナもごっこ遊びの要領で付き合う。
しばらくくだらない会話だけのやり取りが続き、やがてレンが、
「女はね、男と違ってじわじわと首を絞めるようにイジメ、というか攻撃してくるから怖いんだ。
だから、アン、アリバイだけでも証明出来るようにしておきなよ。
まぁ、しばらくは謹慎のままだし。外に出てるのを見られないようにね。
私と少しでも授業が被ったり今日みたいに午前で授業が終わればいいけど、そうじゃないし」
「アリバイ? 推理小説に出てくる不在証明のことだよね?」
「そう。自覚のない。自分のためだけのイジメの場合、虚言を虚言と気づかないやつが多い。
嘘を平気でつくし、証拠の捏造だってやる。
でもそれが悪いことだって気づけてないことがある。自覚がない。これの自覚がある場合はただの確信犯だけどね。
利己的で自分勝手な理由、仮にそれを『正義』と呼ぶけど。
どんな正義でも、どう正義を使うかで人間性は出るものだから」
「でも、それと不在証明がどう繋がるの?」
そこで、レンは真剣な顔になって言った。
「言ったでしょ? 証拠を捏造するって。
私はここに入る前、これをやられて職場のお金を横領した、着服したって冤罪をかけられて首になったことがある。
だから、それと似たようなことにならないように言えるのは一つ。
相手を社会的信用の無い状態にするほどの、客観的な証拠を集めておくこと。
そうすれば、校内でごたついてもなんとか出来る。
言った言わないに持ち込ませないで、徹底的にそれはいつのこと?って聞いて、アンは相手の言質を取った上で矛盾を突きつければいい。
幸い、アンは映像を記録できる魔法を持ってるしね。
この学校には、それを分析できる特技講師もいる。捜査委員会に提出してもいいしね。あの委員会の担当の先生はかなり変わってるけど映像を分析できるし、信用もできるから」




