14
各教室、特別学科棟、実戦演習場、クラブ棟、と説明されながら回り、いく場所いく場所でトゥオーフが生徒達に取り囲まれる。
そして、それに巻き込まれつつもなんとか説明が終わり、応接室へと戻ってきた。
「お師匠様って有名人だったんですね」
ぐったりとしながら、アルストレーナが呟くと校長が驚いた顔をした。
「アルストレーナさんは、ご存知ないのですか?」
校長の意外だ、と言わんばかりの口調にアルストレーナは首を傾げた。
「賢者トゥオーフ様と言えば、生きる伝説の一人ですよ。
仲間とともに上級魔族を倒して、エリア王国を救った英雄です。
今から十年近く前にも、剣神と称えられたトール様とともにフェイルート帝国を魔王の侵攻から救ったのですが、ご存知ないのですか?」
「はぁ、すみません。ずっと山奥で両親とともに暮らしていたので、そういったことに疎いんです」
それだけ有名な人なら小説のネタにもなっていそうなものだが、トゥオーフに今までもらった本の中にはそれに関するものは皆無だった。
そして、父も凄かったんだなぁと思った。
ただ、娘だとは口にしなかった。
師匠であるトゥオーフもそのことは黙っていたようだし。
「そうなのですか?
編入試験の成績は我が校始まって以来、とても優秀な成績でしたので。
よほど優秀な教師が他にもいたのかと」
「あ、はい。ええと一応父が剣や格闘術を嗜んでおりましたので、父からもたくさん教わりました」
どうやらトゥオーフの生徒、というよりも弟子ということは伝わっていたようで、彼以外にも師匠がいたのだと推測されていたようだ。
そうして、雑談を交わした後トゥオーフに女子寮まで送ってもらう。
師匠である彼ともしばらくお別れである。
「儂にも手紙を書くのだぞ?」
「はい! もちろんですよお師匠様」
そうして寮のなかへ入ると、これからの事に不安を抱きつつも自室へ向かったのだった。
それから、なんやかんやと数日が過ぎた。
そんな、アルストレーナに友達は残念ながら出来なかった。
やはり、編入ということが少しだけ関係していた。
すでに出来上がっている人間関係ーー異種族関係の輪の中に入りたくても
入りにくい空気が出来ていたのだ。
そして、アルストレーナもそういった時、どう話しかけて中に入っていけば良いのかわからず、ただ、仲良く教室で談笑する同級生達を眺めていた。
一日の中でも一番長い休憩時間ーー昼休みになると彼女は寮母さんが作ってくれたお弁当を手早く、しかし、しっかりと噛んで食べると図書室に行くようになっていた。
そこには、お喋りもなくただ静かな読書をする空間が広がっていて、とても落ち着いたのだった。
同級生達も、アルストレーナに話しかけたいとは思っていた。
しかし、彼女が必須科目の授業の一つである体育ーー実技の授業で見せた圧倒的な力量に、一歩引いてしまったのだ。
この学校に通うものは、一定以上の能力が認められた者達だ。
しかし、そんな者達の中にも暗黙の了解ならぬ暗黙の常識が存在していた。
その常識からもアルストレーナは外れてしまっていたのだ。
まず、推薦が地域や国などの自治体や組織では無かったこと。
個人からの推薦はやはり珍しい方に入る。
そして、その推薦人がこの学校でも憧れる者が多い【賢者トゥオーフ】だったこと。
更に、これはアルストレーナのそういった特殊性とは違う話なのだが、近年、女子に下手に話しかけただけでセクハラだなんだと一部の女子が騒いで、話しかけた男子が謹慎、あるいは転校、人間不振になって自主退学するというトラブルが起きていたのだ。
近づいただけで、体に触られたと騒ぐ者もいたのだ。
もちろんこれは極々一部の女子の話である。それもでっち上げである。
冤罪をかけられたのは、生徒だけでなく教師も同じだった。
対策もいくつか考えられたが、実用性を問題視する声が多くいまだ学校側は後手に回っている状況だった。
実力があるからと言って、人間性に問題が無いとは言えないのである。
しかし、アルストレーナが無視をされていると言うわけでも無かった。
ちょっとした連絡など、必要最低限の会話をする分には困っていなかったのだ。
寮生活も二人部屋だったので、同室の人とはそれなりにうまくやれていた。
と、一ヶ月を過ぎるまではアルストレーナは思っていた。
しかし、徐々に彼女のことを、諸々の嫉妬で歪んだ感情を持ち始めたとある女子グループが動き始めたのだ。
連絡が滞ったり、わざと遅刻や失敗をするように仕掛けをしたのだ。
特に酷かったのは噂だろう。
情報操作とも言うが、あることないことーー圧倒的に身に覚えの無い噂が流されていたのだ。
それは、ついに生徒指導の教師が出てくるほどにまで尾ひれがついて話が膨れ上がっていた。
「そんな話が出ているんですか?」
ある日の昼休み、放送で呼び出されたアルストレーナは生徒指導の教師のもとにやってきた。
いわゆる事情聴取をされたのだ。
話は不純異性交遊をしていると言うところまで大きくなっていた。
しかし、そんな事は身に覚えが無かった。
なので、彼女はきっぱりと訊かれた事実を否定した。
しかし、家族以外とほとんど交流したことが無かったことがここで裏目に出てしまった。
それは彼女の大人しそうな外見も相まって、生活指導教師の一人である、その者にかなりの不快感を与えてしまったのだ。
今まで常識というか、処世術を多かれ少なかれ身に付けているものばかりその教師は相手にしていたものだから、まさか反論されるとは考えていなかったのだ。
アルストレーナの反論は、間違ったものではなかったが、それが口答えであり指導を受け入れない態度と取られてしまったのだ。
そのため、一部の教師からの当たりがキツくなってしまったのだ。
推薦人が誰であれ、こう言った場合関係ない。
そういった意味でこの学校は実に平等だった。
そして、ますますアルストレーナと他人との距離が開いてしまったのだ。




