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 アルストレーナ手製の料理は、レイナ直々に仕込まれただけあってとても美味であった。

 規則正しい生活を心がけているため、母の手伝いである家事が終わると早々に入浴を済ませて彼女は寝てしまった。

 それを確認してから、トゥオーフは学校に入学させる件をレイナとトールの二人に提案した。

 入学させる先は、完全実力主義で有名なエリート学校。

 【天空第一総合学校】である。

 その名の通り、空に浮かんでいる学校で、様々な魔法でその姿を隠し見つけるところから入学試験となっている。

 全寮制で、入学すれば決められた日以外、基本学校の外に出ることは出来ない場所だ。

 平民が文字の読み書きを習うための学校とも、貴族の力関係が反映される学院とも違う場所である。

 通う者達も、その種族は実に多様である。

 広い人脈と、卒業後には各分野でのエリートコースが約束されている。

 二人はとても難しい表情で考えこんでしまった。


 「あの子にとっても、良い話だと思うのだが」


 「それは、そうなんですが」


 歯切れ悪く、レイナが返す。

 トールも、何かを話そうか迷っているようだ。


 「金のことなら心配しなくても、条件付きだが補助制度がある。

 あの子の実力なら特待生になって免除ということもーー」


 「いや、金の問題じゃないんだ。レイナ、話しても良いか?」


 静かに、レイナが頷いたのを確認して、トールはアルストレーナの出生に纏わることをトゥオーフに説明した。

 他言するような人物ではないし、何より今日までアルストレーナを一緒に育ててくれた一人である。

 だから、トゥオーフにも説明しておこうと思ったのだ。

 話を聞き終えて、トゥオーフは納得する。


 「なるほど。王族の落胤か。

 で、あればなおのこと、それが何らかの形でバレる前に更なる実力をつけるべきだと思うのだが」


 「はい。それは私達もいつかはーーいいえ、あの子が成人する時には話すと決めています。

 ただ、少しだけ不安なのです。私たち以外の者から、何かの運命の悪戯でこの事を知ってしまうんじゃないかと。

 その時に、あの子がどう思うのか。それが怖いのです」


 「だから、それまで手元においておこうとしているのか。

 しかし、それでは」


 「わかっています。それでは、あの子のためにならないと。

 私たち家族やトゥオーフ先生以外の人とも触れ合わなければ、きっとあの子は成長できない、と」


 今のままでは、人間関係だけは学べない。

 大人になって、ここでは何処かに行こうと決めて出ていった時、一般常識を知識で知っていても経験していなければ集団の中で浮くことは容易に想像できる。


 「あの子が、友達というものに対して興味を持ち始めてることも知っています。

 そろそろ頃合いということも、わかってはいるんです」


 それでも過保護に、手元に置いておきたいという感情がレイナにもあるのは事実だ。

 ただ彼女にもアスターの面影を、色を受け継いだあの子を誰にも取られたくないという、仕方ないといえば仕方ない、そんなどうしようもない感情があるのだ。

 きっと今までの事情を知らない者が、彼女の話を聞いたならこう言うのだろう。

 甘えるな。子供を縛るな。子供はお前の人形ではない、と。

 人は他人に対してとても残酷になれる生き物だ。

 レイナもその罪悪感があるからこそ迷っているのだ。

 出来る限り側で守ってやりたいという考えと、このままではあの子のためにならないという二つの考えの間で、もうずっと迷っている。

 

 「でも、だからこそわからなくなってるんです」


 そう呟くように言ったレイナに、トゥオーフは努めて軽く言った。


 「簡単、とはいかないが。あの子を信じる事くらいは出来るだろう?」


 そして、優しくレイナを見つめる。


 「あの子の料理はとても美味しかった。貴女の手伝いや、トールの手伝いをしているところを見て、儂は思ったよ。

 この子はきっと一人でも生きていくことは出きると。

 しかし、生きていく上で他者との関わりは決して外せない。

 だから、その練習のためにも今はちょうどいい時期なのではないかと思うのだが」


 諭されるように言われて、レイナも考えてしまう。

 もう何度も考えていたそれを。

 まだ時間はあるから、と先送りにし続けていたそれを。

 やがて、レイナはもう一度トゥオーフを見て口を開いた。


 「学校の件、話してみようと思います」




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