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 「お師匠さまぁ! これ見てください!

 こっちがこの前仕留めたドラゴンの皮で、こっちが昨日剥いだビックフットの毛皮です!」


 誉めて誉めてと、まるで犬のように生徒アルストレーナは言ってきた。

 今年で十歳になったばかりである。

 その顔に浮かぶのは貴族令嬢にも負けず劣らずの可憐な笑みである。

 銀色に輝く髪も、太陽のような黄金の瞳も彼女の美しさをより際立たせている。

 ただ、本来の貴族令嬢はドラゴンを仕留めたり、ビックフットの皮を剥いで意気揚々と見せびらかしたりはしない。

 しかし、それを指摘するものは残念ながらこの場にはいなかった。


 トゥオーフの横で彼の父親であり、もう一人の師匠でもあるトールも自慢げだ。


 「この前一人で狩らせたら、成功してさ」


 「うーむ、そうか」


 トゥオーフは、なにやら難しい顔で考えているようだ。

 悩んでいるようにも見える。

 それでも、愛弟子を誉めることは忘れない。


 「すごいのぅ」


 「えへへ、最近はお母さんに料理も習って色々作れるようになったんだ。

 お師匠様にも、今日は御馳走するので楽しみにしててくださいね」


 「そうかそうか。それは楽しみだ」


 そこからは今日の授業に入る。

 夕食の支度のこともあるので、トゥオーフには授業を早めに切り上げるようにトールの方から伝えてもらった。

 そして、トールは仕事に戻りいつも通りの授業が始まったのだった。

 この大陸の主要な国の言葉はほぼすべて覚えてしまっていたので、最近は魔法言語の元になったという古語を教えている。

 まるで勢いよく水を吸い上げるように、アルストレーナは全てを吸収していった。

 礼儀作法も中々様になっている。

 聞けば、料理だけでなく刺繍などの裁縫も上達しつつあるようだ。


 しかし、だからこそ残念だ。

 そうトゥオーフは思っていた。

 アルストレーナには、才能がありその容姿も貴族に負けていないと言うのに、活かせる場この山奥だけなのだ。

 同年代の友人もおらず、そろそろ年頃だと言うのに、恋の一つも知らないままだ。

 友人と切磋琢磨しあえば、きっともっともっとアルストレーナの才能は磨かれ伸びることだろう。


 「ねぇ、お師匠様」


 現代の小説を古語に訳すと言う授業中のことだ、アルストレーナが珍しく訊いてきた。


 「どうかしたかの?」


 「お師匠様って、恋人いるんですか?」


 「こんな爺を好きになる物好きなどいやせんよ」


 「そうですか」


 どこか残念そうに呟くアルストレーナに、逆に聞き返してみる。


 「どうしたのだ、急に?」


 「この前の誕生日の時に、お師匠様からもらった本の詰め合わせのなかに恋愛小説が入ってたじゃないですか」


 「そう言えば入れたのぅ。それが?」


 「人を好きになる感情がよくわからなくって。

 そう言えば、古語で書かれた手紙を訳す授業の時もそうだったんですけど、あれ、かなり熱烈な恋文だったじゃないですか。

 で、ちょっと気になったんです。

 お父さん達が好きあっているのとは、別の恋愛感情ってどんなのだろうって。

 お話の中だと、その感情に振り回されて登場人物達が苦しんだり泣いたり、幸せになって笑ったりしてました。

 それが、どういうものなのかいまいちよくわからなくて。

 亡くなった方のお父さんが、お母さんのことを大好きだった気持ちに近いとは思うんですけど、やっぱりよくわからなくて。

 あと」


 「あと?」


 「友達って、どんな存在なんですか?」


 その答えを師匠なら提示してくれると、期待してアルストレーナは翻訳していた手を止めてトゥオーフのことを見た。

 やはり、そう言ったものに興味を示すようになってきたようだ。


 「アルストレーナは、友達や恋人がほしいのかの?」


 見つめ返されて、アルストレーナは何故か気恥ずかしそうに俯いてしまった。


 「わから、ないです」


 彼女も年頃である。

 早い者だとそろそろ体に性別の違いが出てくる頃だ。

 

 「そうか、まぁ、それを知るには学校に行くのが手っ取り早いのだが」


 「学校」


 学校については知っている。

 同年代の者達が同じ場所で勉強をする場所だ。

 興味はあるが、イジメというものがあるとも小説で読んだ。

 イジメ、おそらく父のトールの神クラス特訓よりもキツいだろうと想像される、排除目的のそれ。


 「いや、たぶんボクはイジメの標的になると思うんで、今のままで良いです」


 「儂の勝手な考えを言うなら、お主は学校というか集団の中で入って色々勉強したほうが良いと思うんだがのぅ。

 出会いもあるしの」


 「イジメられるための出会い、ですか?」


 「いや、そう言うことではなくてだな」


 そんな感じでいつものように緩く授業は進む。

 正直、これ以上教えるには学校に行く方が効率が良いのだ。

 どうしたって人間関係の難しさは、今のままでは経験できない。

 それに、学校に行けば他の進路も見えてくる。

 このままここで父親の仕事を手伝い、それで一生を終えるのは正直もったいない。

 だから、夕食の後にでもトゥオーフはトールに提案をしようと考えていた。

 才能を伸ばすためと、将来のために学校に行かせてはどうか、と。


 

 


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