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とある転生者の宇宙放浪記  作者: 結城明日嘩
動乱期

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思わぬ収穫

「これは……知ってた、と言うべきか」


 格納庫まで呪歌を流しながら歩いて行くと、通路のあちこちで崩折れる警備兵の姿があった。抵抗した素振りもなく、インカムをしたままでも倒れている事から、呪歌対策がインストールされていないと見るべきか。


「歌姫は帝国に来ていたかもわからないし、今後の帝国はダメかもしれんね」


 ロクに対策を考えないまま、俺に責任を押し付けて排除しようとした帝国の首脳陣。あのヴェルグリード公爵や皇太子殿下の決定なんだろうが、何を思っての事だったのか。

 未知の技術を持つ魔術師というのは、確かに畏怖すべき存在に感じるかも知れないが、軍学校の様子を知っていたら、俺に翻意があるとは思わないはずなんだが……実際、俺は帝国で功績を上げて船を手に入れるつもりではあった。


 それが一方的に貶められて、苦痛を味わう羽目になった。目立ち過ぎたというのはあるかもしれないが、有能な部下を使ってこその上司だろう。

 有能な奴は自分の地位を脅かす存在としか認識できないのは、結局のところ自分がそう考えてるってだけなのか。


 それならそれで後腐れなく仕留めてしまえばいいのに、欲をかいて絞れるだけ搾り取ろうと拷問を加える……帝国の歴史も長いし、皇帝に次ぐ公爵という地位にいる人間は、搾取するのが当然と考えているのだろうか。


 帝国が栄えていられるのは、そうした上層部が腐っていても、各地方貴族がちゃんと統治してるからなんだろうな。ルーデリッヒ伯爵もまともではあった。今は憎まれているんだろうが……。


 格納庫まで抵抗らしい抵抗もなく、大気圏外まで飛び出せる飛翔艇もあっさりと入手。特に未練もないので、そのまま惑星を飛び立つ事にした。




「こっちも予測の範囲内ではあるが……」


 衛星軌道に上がり、所長の脳裏に浮かんだ座標へとやってきたが、そこに密航船はなかった。読み取り装置を誤魔化す技術を持っていたのだろう。本来ならそこに罠を仕掛けて、俺を捕らえる算段だったかもしれないが、牢獄の兵は軒並み呪歌に倒れている。

 この手の施設は定期連絡が途切れたら、調査隊が派遣されるだろうから、それまで生きていられれば救助されるだろう。


 問題は密航船がどこにあるかだな。

 衛星軌道といっても飛ばすものの規模によって、その高度は変わる。宇宙船をそのままとも思えないから、ドックと共にあるとは思う。外装は小惑星などに擬態してるか。

 しかし、飛翔艇自体はそれほど強固な作りではない。小惑星群に置いてあると、行き着くまでに事故を起こす危険がある。


「とか考えると、単体で飛んでる小惑星かなと思うんだが」


 飛翔艇にも恒星から光魔力を吸収する帆があるので、燃料切れは気にする事はないが、時間が掛かれば外から帝国軍がやってくる。

 早めに見つけないとな。

 とは言え衛星軌道、特に高軌道であれば一周数百万kmにもなり、密航船は空間転移機関を積んだ外洋船とはいえ、駆逐艦ほどもない。スペックデータで見たら全長30mほどか。

 どの高さで飛んでいるかも分からない船を、探し回るというのは現実的ではない。


 という事で俺は飛翔艇のコックピットの下にある基盤を開く。この飛翔艇は、密航船へとジョイントする為の小型艇なので、密航船に関する情報が多く詰まっている。

 その中から船固有の機関魔力を抽出した。これで衛星軌道に存在する人工衛星と区別する事ができるだろう。同時に宇宙船のドックの機関魔力も抽出できたので、この二つが寄り添ってる場所を見つければいいはずだ。


 飛翔艇のアンテナに意識を繋いで、広域の魔力感知を行い、航行術を習った際にやっていた構成の位置を記録する天球図へと、人工衛星の場所を記録。その機関魔力を記録と比べていく。


「うん、ないな」


 過去の地球ほど多くはない人工衛星の1つ1つを確認して、密航船がない事を確認した。やはり存在を秘匿されている密航船、魔力をだだ漏れにするような事はなかったようだ。

 となれば次は衛星軌道を周回する物体の中から、人工衛星を除外していくと数は絞られていく。

 その中から30mの船が隠れられそうな大きさの物となれば……これだろう。

 俺は静止軌道で周回する小惑星に向けて、飛翔艇を動かしていった。




 小惑星へと接近し、起動コードを通信するとドックの隔壁が開口したので、中へと入っていく。起動コードは本物だったみたいだな。あの時はまだ読み取り術式が使えるとは知らせてなかったし、痛みを与えて動揺もさせていた。誤魔化す事はできなかったのだろう。


 隔壁を閉じて、気密状況を確認。風の術式が起動して、ドック内の酸素を確保。飛翔艇を出る。


 密航船はそれなりに年季の入った船だった。製造から50年ほど経っている。しかし、目立った外傷もなく、航行に支障はないらしい。

 航行時のステルス性能は、最新式に叶わないが民間船のレーダー程度なら視認できる距離まで近づかないとバレないレベル。


 魔力タンクは船体に対してかなり大きく、連続的に空間転移を起動できる容量があるらしい。これは敵国内などへも侵入し、要人を拐うなどの状況も考えられた作りだろう。

 反面、武装はかなり貧弱だ。民間の商船レベル、交戦というよりも障害になる小惑星を破壊する用途の小型砲が付いているだけ。

 見つからったら逃げろという分かりやすい構成だな。


 その点で考えるとやや機動性は低く、直進加速に能力が割り振られている。操縦技術で避けるよりも、アクセルベタ踏みで引き離せというこちらも分かりやすい性能だ。


 船内設備は個室が6つに食堂、ちょっとした運動施設、コールドスリープのカプセルも6機備えられていた。長距離航行も考えられた作りで、食料などのストックも多く積める様になっている。


 そして汎用型の作成用魔道具も積まれていた。小物の作成はできそうだ。造船時に据え付けられた物らしく、脱出艇にあった物より型が古く、あまり性能に期待はできない。

 それでも日用品を作る程度ならできそうだ。ドック内に素材のペレットもあったので、食器類は作成できるだろう。


「食料は……1人での長期航行なら十分だな」


 保存食というか、作成用魔道具で加工できる食料用素材がコンテナに揃っていた。レーションほど不味くはないだろうが、安物のインスタント食品レベルだろうか。

 新鮮な野菜などは望むべくもなく、ビタミン剤で補う食生活になりそうだ。


 とはいえ心は沸き立っている。

 長年夢見た外洋船だ。しかも古いとは言え軍用で、人目を避けられるステルス仕様。望外な代物と言えた。


 これなら国境線を越えるのも難しくない。まあ、広大な宇宙に明確な線などないので越境自体はそこまで難しい事ではないけど。

 ただ不審船は見つかれば追手がかかる。国境警備に配置されている様な監視艇は、機動力が高く複数回の空間転移でも追ってくる。

 直接攻撃される事がなかったとしても、逃げ切れなければ戦闘艦に追いつかれる羽目になるだろう。


 なので密航船の様なそもそもレーダーに映りにくく、見つかっても転移を重ねて逃げられる船は民間では作らせない。海賊なんかだと攻撃力も乏しく、積載量も小さい船は無用の物だろう。

 なので軍用の偵察機とか、要人輸送のためとかでしか作られない。


「それじゃ、早速里帰りと行きますかね」


 密航船の機関に魔力タンクから魔力を供給し、出力を上げていく。特にタービンを回すとかする訳じゃないから、エンジン音が高鳴るみたいな事はないが徐々にコックピットの風景が背後へと流れていく。

 隔壁が開いて星空が広がり、俺はその中へと飛び出していった。

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