反撃開始
ルーデリッヒ伯爵から参陣するのは、4艦隊で半個師団。1艦隊は、戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦8で編成されるのが、帝国の基本単位となっていた。
戦艦、巡洋艦には魔導騎士や戦闘機が搭載されていて、戦艦は分厚い装甲と大火力を備えた主戦力に対し、巡洋艦は一段落ちる装甲と火力になるが、その分機動力を持つ。
駆逐艦は正面火力に特化した軽装甲の船舶で、機動力も高めだ。
長射程を持つ戦艦同士で撃ち合い、その合間を巡洋艦や駆逐艦が打撃を与えて、雌雄を決するのが一般的な艦隊戦となる。
8艦隊で1個師団を形成して作戦行動を取る。特に目立った防衛設備のない星系なら1個師団あれば制圧できるという戦力だ。
防衛側だと大抵の星系は、2艦隊もあれば上出来って戦力が普通。後は居住可能惑星の他に、採掘などを行う小惑星群などの宇宙拠点がある場合や、空間転移ポイントに駅が設置されて防衛戦力が常駐している事がある。
そのため星系全体を占領するには1個師団というのが常道となっていた。
帝国本星に現れた王国軍は5個師団。さらに呪歌による攻撃で、要塞衛星や帝国艦隊をほぼ無傷で制圧されている。
もちろん、乗員がいなければ船を動かす事もできないので、帝国艦隊を丸々使われるという事はないだろうが、要塞衛星の要塞砲くらいなら遠隔で撃たせるくらいならできるかもしれない。
正攻法で攻めるのであれば、それなりの損耗を考えて編成が行われるだろう。
ヴェルグリード公爵の2個師団を中心に、各貴族が派遣した半から1個師団の艦艇が集まり、全体としては10個師団を超える大兵団となっていた。
ヴェルグリード公爵の旗艦は、遠目でもそれと分かる豪奢な装飾が施された大型戦艦だ。皇太子も同乗しているだろう。
ルーデリッヒ伯爵の艦隊は、先行部隊に配置される事となった。呪歌への対策を提供したとはいえ、まだ証明された訳でもない。
俺の言を信じたのは、ケルンのおかげでもあるだろう。
ただルーデリッヒ伯爵としてもチャンスではある。先行部隊に配されるという事は、真っ先に戦功を上げられるのだ。
「君の対策が上手くいくことを願っているよ」
「僕が知っている呪歌と違ってる可能性もありますが……」
一応、録音してあった歌も解析して、生成される術式が複雑になっていたが、対処方法としては変わりないのは確認した。
ただ俺が知るのは10年前の彼女。呪歌をより強固に進化させていても不思議ではない。
「どちらにせよ皇帝陛下を押さえられた今、我々が取れるのは奪還あるのみ」
ルーデリッヒ伯爵は決意のままにそう言った。
先行艦隊はルーデリッヒ伯爵を中心に、子爵以下の少数艦隊をかき集めた3個師団規模。帝国内での立場がそこまで高くなく、戦功を上げたがっている者達だ。
一番槍の誉れを将軍格が争うほど、戦乱の時代でもない。得体の知れない相手に危険を犯すくらいなら、格下の者に譲ろうという上位貴族が多かった。
元々軍閥貴族のルーデリッヒ伯爵はかなり乗り気ではあるようだが、無用な被害を出したくないのは当然で、そのための保険が俺なのだろう。
呪歌のおかけで薄れているが、国境星系で要塞砲が効かなかったという話もあったはず。
「そういえば要塞砲はどうするのでしょうか?」
「要塞砲に使われている術式は分かっているから、最適な防御結界を用意している」
勝手知ったる兵器であれば、対策は取りやすいか。要塞砲規模の施設だと、途中に魔法陣を入れて術式に改変を入れようとすると、無駄が多くて威力が拡散するか、下手すると要塞砲自体が爆発するらしい。
効率の良い防御結界を用意できるとはいえ、火力は馬鹿にならないので、何隻かの戦艦が集まって形成するとのことだ。
「だからおぬしの言う呪歌さえ何とかなれば、我らが負けることはない」
先行部隊は空間転移を使って、帝国本星系の外縁部へと出現する。空間転移が発動したことは、王国も察知しているだろう。すぐに防衛体勢を整えるはずだ。
空間転移で乱れた隊列を組み直す。
艦隊戦の基本は、戦艦の防御結界を盾として彼我の距離を詰める所から始まる。巡洋艦や駆逐艦は戦艦の後方に控え、交戦距離に入れば展開して打撃を与える様に動く。
戦艦の防御結界は、前方への集中展開と全方位を平均的に守る形とを使い分ける。遠距離からの砲撃なら前方集中。
巡洋艦や駆逐艦が展開し始めれば、多角的に狙われるため、全方位に防御結界を張る。
もちろん、相手の艦艇に入り込まれないように、互いの巡洋艦、駆逐艦同士での戦闘も行われる。
数的有利をいかに作るかが艦隊戦の肝だ。
しかし、王国はそこに呪歌を持ち込んだ。戦艦同士が長距離砲で牽制し合う中、相手の姿を捉えた時に、歌姫の映像を見せる事で術を発動させてくる。
対処法がなければ、一方的にやられる展開となっただろう。
「乗組員を直接狙う呪歌の効果は、相手の戦艦を無傷で拿捕できます。王国は侵略した星系の物資を奪って、国力を増してきました。それを考えるならば、無抵抗な相手を殲滅するよりも、無力化した戦艦を奪おうとするはずです」
ルーデリッヒ伯爵付きの参謀官が、作戦の説明を行う。
「なので相手の呪歌が始まった後、こちらは死んだフリを行い、相手をギリギリまで引き付けます」
呪歌により乗員が戦闘不能状態となれば、接舷して船を奪おうとするだろう。その際に互いの防御結界の内側へ入ってしまえば、艦砲が直接打撃を与える事ができる。
待ち伏せるこちらと違って、相手は無防備なままの接近だ。初手で致命的な打撃を与えられる公算は大きい。
しかし、途中で相手に気づかれてしまうと、インファイトでの殴り合いになってしまう。いかに引き付けつつ、バレないタイミングで仕掛けるかが勝負となる。
「光術式による合図を待ち、一斉に攻撃を開始してください。勇み足は他の仲間の危地を招くと肝に銘じろ」
戦功を焦っての勇み足やギリギリまで引き付ける事による恐怖から、一部の部隊だけが攻撃を開始すると、相手を殲滅する前に立ち直り反撃してくる危険がある。
いかに同時に叩けるかがだった。
「星系内の索敵を完了、本星の衛星軌道上に3個師団。衛星要塞付近に展開する部隊が1個師団。外縁部に待機しているのが1個師団となっています」
「初撃で多くの敵を沈めたい所だが、本星についている奴らを引っ張れるか?」
「無理でしょうね。外縁部に待機中の2艦隊が向かってきているだけです」
こちらの3個師団に対して、2艦隊でも制圧できるという自信があるのだろう。
「仕方ない、2番衛星要塞へ向けて侵攻する。途中で呪歌が来たら、死んだフリを徹底させろ」
隊列を組み終えた帝国艦隊は、最寄りの衛星要塞へ向けて進軍を開始した。一箇所を押さえてしまえば、本星への進路も開ける。
ただ戦艦に足並みを揃えているので、要塞にたどり着く前に、外縁部の艦隊が追いついてくるだろう。呪歌映像を見せるだけなら巡洋艦で事足りるので、機動力重視で向かって来ていた。
互いの距離が縮まっていき、やがて歌が聞こえ始める。
『この世は退屈で 幻滅するほど
全て奪ってあげる 愛も 夢も 歌も 希望も』
まだ映像は出ていないが、声が届いてくる。通信に割り込んでいる様子はないので、別の方法なのだろう。
ただそうした場合にも対策はしていた。
耳に装着していたインカムから打ち消す音を流して、術式を成立させない仕組みだ。オールセンにこういうのができないかと相談したら、実現してくれた。
「ここからが勝負だ。こちらを行動不能にしたと思わせて、油断を誘うぞ」
ルーデリッヒ伯爵の声に一同は息を呑んで頷いた。




