探査競技開始
準決勝の2戦目、ケルンと魔導騎士1位の対戦は、魔導騎士1位の勝利で終わった。
俺と軍務科傭兵の戦いの様な奇手奇策の打ち合いではなく、純粋な剣とロッドによる近接戦だ。見ているものにも分かりやすく、互いの一撃が入る度に歓声の上がる熱戦ではあった。
ケルンが制御できる範囲を隠しながら戦っていたのも準々決勝で露見していたので、互いに全力を出し切っての勝負だった。
ただ明暗を分けたのもやはり魔導騎士の制御能力。攻撃を受けてバランスが崩れ始めた場合に、魔導騎士1位の方が対応が上手かった。
「まあ、俺は生身の方がいいよ」
「でも操縦技術の進歩には驚いたよ」
「それはメリッサのおかげだな」
話を向けられた赤毛の少女は、憮然とした表情で黙っている。敗北したケルンを励ましている所へ、俺が合流した際に俺とケルンの関係を簡単に説明したら、利用されたと思い至ったのだろう。
「魔力感知による周辺把握は良かったね」
「ああ。あれは武術家にも通じる技術だったからな」
自分を中心とした周辺把握は、心眼と呼ばれる達人技に近い。気配を察するというのは、色々な感覚を頼りに周辺の状況を把握する技術。
それを魔力で行うと、術式を構築しなくても感覚の延長の様に扱えた。
「ケルンは魔力の扱いを感覚的にしか理解してくれないから、どうやって教えたものかと悩んだんだけど、この短期間でよく上達したよね」
「ああ、メリッサが俺の魔力を感知してくれて、間違った流れをしたらすぐに指摘してくれてさ」
試合前に行っていた手を取り合って、2人の間で魔力交換をしていたアレだろう。傍目にはイチャついてる様にしか見えないが、魔力の流れに集中できるルーティンとなっていた。
「メリッサの魔力制御は凄いよ。それに感知能力もね」
ケルンのベタ褒め具合に、不貞腐れたメリッサの頬がひくひくと動くのが見えた。元々プライドが高かったメリッサは、褒められるのが嬉しいのだろう。
「明日の隠密探査競技、応援してるからな」
ポンポンと肩を叩いて励ましている。
「え、ええ。ギブアンドテイクですもの。私が応援してあげた分は返して貰わないといけませんわ」
どうにも素直に受けられないのは、俺がいるからなんだろう。俺としては明日の打ち合わせができればと思っていたが、とてもそんな事ができそうな雰囲気ではない。
俺とケルンの関係を知って、意固地になっているのだろう。
「じゃあ、ケルン。ロッドの試合も応援してるから」
「おう、任せとけ」
ロッドはこれから予選で、明日が決勝となっている。剣術などより参加人数が少ないので日程が短めに設定されていた。本来なら短期間で格闘技の試合とか無茶なんだが、治癒魔法のある世界なので試合中の負傷もすぐに治るので問題はなかった。
俺はメリッサの為にも早々に退散することにした。明日までに納得してくれるといいんだが。
クラス対抗5日目。午前中に隠密探査競技は行われる。校舎周辺にある林の中に隠れた諜報科、偵察科の生徒を見つける競技だ。
時間内で見つけられなかった生徒が優秀者として成績に加点があり、また見つかったとしても時間などで加点があるため、諜報科、偵察科の生徒はほぼ全員が参加している。
不参加なのはヨットレース参加者とかだな。
対して見つける側は治安維持を主目的とする警備科や伏兵を見つける必要のある歩兵科などが主流。見つける側にも偵察兵が欲しい所だが、隠れる生徒との談合などの懸念から、どちらか一方での参加しかできない。
科を越えての共謀もあり得るが、監視の目も厳しく、見つかった時のペナルティの大きさから、不正行為はほとんど行われていなかった。
「あの魔力増加方法。あなたの知識らしいわね」
「増加じゃなくて、持っているモノを使える様にしただけだけどね」
競技前の待機時間中に、メリッサから話しかけられた。ケルンが自分の魔力を増やすために使った方法をメリッサに伝えており、それを教えたのは俺だったのだ。
帝国では魔力を胸の辺りに集める感覚が主流だったが、俺は共和圏の研究所で様々な実験を施された中で、複数の箇所に魔力を蓄えられる事を知っていた。
特にヘソの下辺りに魔力を蓄えるというのは、前世の丹田という言葉を思い出して納得できていた。
他にも頭頂部から正中線に沿って、魔力溜まりの箇所があり、それら全てを活性化すると今の帝国魔法理論よりも多くの魔力を引き出せる。
チャクラとかのイメージに近いのかも知れない。まあ、俺はヨガとかやってないから聞きかじりの知識だが。
最終的に全ての魔力溜まりを利用できるようになれば、胸だけの状態の2.5倍くらいには拡張できる。ただあくまでもその人の持つ魔力を使える様になるだけなので、絶対量としては増えてる訳では無い。
なので、帝国でも行われている基礎魔力量を増やす訓練は続ける必要がある。
丹田1つを利用するだけでも5割増しくらいになるので、強くなったと勘違いして基礎魔力量の増加をおざなりにしてしまうと、伸び代がなくなってしまう。
「基礎的な訓練は続けた方がいいよ」
「……なんでそんな事、教えるのよ。強者の余裕って奴?」
「学校内の順位なんて気にしても仕方ないんだよ」
軍学校はエリートの集まりで、更にその中での順位は、その学年内の優劣、就職先から生涯年収などに直結はする。
しかし、実社会に出ていけば、他の学年の同じ様な成績を修めた者との競争となっていく。
学校内で踏ん反り返っていては、井の中の蛙になるだけだ。
更に言えば、帝国内だけでなく共和圏へと戻る事も考えれば、人との競争なんかより、自分が何をできるかを突き詰める必要があった。
「それなら恩を売ってでも人脈を広げておくほうが利になるんだよ」
「あなた何者なんですの? 同学年の生徒より教師達みたいに思えますわ」
中々に鋭い。前世の記憶を持つ俺は、教師なんかよりもっと人生経験は豊富だがね。
「今はそれよりも競技についてだ。恩を売るにしても実績がないと、信憑性が薄れるからね」
メリッサがどれくらい魔力制御ができて、魔力感知でどれだけ探れるかを確認した後、役割分担を決めて競技へと挑む。
メリッサは挫折を味わい、ケルンとの交流で多少持ち直し、俺との会合で投げやりというか諦めモードになっていたので、俺の指示に従ってくれそうだ。
実際、魔力制御の技術は俺よりも精緻な気がする。魔力不足で伸び悩んでいた部分も丹田の魔力を回せる様になって人並みにはなれていた。
それに振り回されない様に気を付けなくてはいけない。魔力が急に増えた事で管理が雑になり、枯渇してしまう例は多い。特にメリッサは好戦的というか、自分を過信しすぎる可能性が高いからな。
それを嗜める為に近くにいては、探索範囲が狭くなって点数が稼げなくなる。適度に管理しつつ、能力を発揮してもらう運用が必要だ。
「かえって僕の行動に制限が掛かりそう……」
などと考えながらも探索を開始する。場所はリアと共に色々と歩き回った校舎周辺の林。それなりに見知った場所である。
かといって岩の形一つ一つを覚えている訳ではないので、擬態した人が隠れているかまでは分からない。
魔力感知に引っかかる距離までは動き回るしかないか。しかし、周囲には他科の生徒もそれぞれに探索の魔道具を使い始めているので、隠蔽用の魔道具か探索用の魔道具かを判別する必要に気づく。
街の雑踏の中で、自分に必要な会話を聞くような感じだな。近ければ分かり易いが10mも離れたら訳が分からない。
特に隠蔽の魔道具は小声で囁くレベルだろうからな。
「ひとまず他の生徒から離れるか」




