vs軍務科の傭兵
4日目となると、クラス対抗も終盤に差し掛かったと言える。整備競技に参加したオールセンは優秀賞を獲得していた。
今回の競技は、ドローンの積載重量を競う競技であった。高度5m以上で、100mの距離を運ぶ。途中で墜落すれば当然失格。運ぶ量が少なければ、順位が下る。
いかに運べる量を見極めるかが大事だ。
また着陸地点も指定されているので、コントロールも重視される。
この世界のドローンは、魔力で動く。風の魔石で浮くか、土の魔石で反重力を生み出すか。現在の技術では、風の術式の方が省魔力にはなるが、反重力だと荷物の重量も軽くでき、制御がし易いというメリットがあった。
オールセンはより難易度の高い反重力を利用して、そこそこの量を運び、ピンポイントに着陸を決めて、上位に食い込んでいた。
そして俺は軍務科に雇われた傭兵との魔導騎士対戦を行う。ある程度の仕込みはできたが、それが通用するかは分からない。やはり軍学校の外からきた戦力だけに、何を知っているのかが未知数なのだ。
こっちでは当たり前の事を知らない可能性もあれば、外ならではの戦法があるかもしれない。
機体自体は俺達と同じく貸出品。3戦を経てチューニングも行き届いているだろう。相手の武装は大剣。魔導騎士として最も使用される武器だった。特に目立った追加兵装もない。
俺の機体には、幾つか追加兵装を加え、今日は武装をハルバードに戻している。未知の相手には、リーチを取れる武装が良いかとの判断。
盾も欲しいところだが、重量が増えるのも避けたかった。
『はじめっ』
相手は見からはじめる様で動かない。こちらは右手側から大きく回り込む。相手の様子を伺いつつ、1つ目の仕掛けを撒いていた。
傭兵はこちらを見ながら向きを変えて、常に正対を維持している。こちらは螺旋を描くように周囲を周りながら、距離を詰めていく。
リーチで言えば、こちらのハルバードの方が長い。なのでこちらから仕掛けさせて貰う。横向きの移動による慣性も乗せつつ、左側から大きく振るう。
ハルバードの戦斧部分が、傭兵機を捉える直前で、大剣で上から叩かれた。しかし、助走を付けて振るっている分、俺の一撃の方が重い。そのまま傭兵機を薙ぎ払うが、打ち付けた大剣の打点を軸に乗り越える。
こちらがハルバードを取り回して、反転する間に、傭兵も着地して構え直していた。大雑把な一撃じゃ、さすがにどうにもならないか。
ならば隠し手の第一弾。ただの鉄球を見よ。
手首のアタッチメントに内包していた魔導騎士の握り拳ほどの鉄球を投じる。射撃術式は防御結界で防がれるので、投擲を試してみたら防御結界では防がれなかったのだ。
しかし、傭兵は大剣を振りかぶり、打ち返してきた。奇襲にはならなかったか。後に知った事だが、短剣などを投げるのは戦場では普通の戦法だそうだ。魔導騎士で弓を射るなんて事もあるらしい。
ならばと複数を投じてみたが、しっかりと避けられた。魔導騎士のセンサーと反応速度があれば、対処可能らしい。
さすが上級生、戦い慣れている。もっと意表をつかないと崩せないか。
考えている間に、傭兵の方から攻めてきた。大剣を振りかぶって斬りつけてくる。しかし、やや間合いが遠い、下がれば避けられる……と思った瞬間、大剣が分解した。
刀身がバラバラと分かれ、ワイヤーで繋がれている。蛇腹剣とか言われる奴か。ムチの様にしなって、俺の機体を回り込むように伸びていく。
「切っ先の動きが正確だな、魔力で制御してるのかっ」
魔力感知を利用した視界で周囲の動きは分かるが、逃げ場はもう上しかない……訳でもない。俺はその場で伏せると、魔法で地面に穴を開けて潜り込む。そして、囮を空中へと射出した。
すると傭兵は飛び上がった囮に左腕を向けてショートランスを射出。見事に貫いていた。
もし俺が飛び上がっていたら、アレを食らっていたのだろう。
囮のバルーンは、弾ける際に煙幕を周囲にばら撒いた。視界を塞いだ中で、俺は立ち上がって穴を出る。周囲に展開されていた蛇腹剣は、スルスルとワイヤーを巻き取り回収されていた。
そして傭兵機を中心に風が起こって、煙幕を吹き散らす。さすがに対応が早いな。
俺は再び傭兵機に対して投擲。それを大剣で防がれる。しかし、今度投げたのは単なる鉄球ではない。球が弾けて、白い煙が上がる。それは先程の煙幕と違ってすぐに薄れていく。
その間に距離を詰めた俺は、ハルバードで攻撃。横薙ぎの一撃は、ジャンプで避けられ、大剣がこちらを向く。
そのまま切っ先を射出……することはできなかった。
「ちゃんと凍ってくれたな」
俺が投げたのは液体窒素が封入された球だった。断熱結界で包まれたそれは、大剣に当たった所で弾けて凍らせていた。正確には蛇腹の継ぎ目を接着した様な感じだろう。
魔導騎士の関節でも凍らせられればと思っていたが、より軽い蛇腹剣には効果的だった。
「そして次はっ」
火炎魔法を放つ。それは魔導騎士の防御結界に触れると魔力の収束を乱されてかき消えた。
「ああっ、さっきの煙幕かっ」
思った様な爆発が起こらずに俺は失敗を悟る。試合開始から散布していた液体酸素、この舞台にまんべんなく流しておいたので、多いに爆発するはずだった。
しかし、さっき煙幕を散らす為に風の術式が使われた為に、高濃度の酸素状態も一緒に吹き散らされていた。
冷却した大剣を一気に加熱することで、ヒートショックを起こさせ、武器破壊をする目論見が外れてしまった。
蛇腹剣を見せられてから、かなりかき回されてしまっている。付与術式でいけるか?
ハルバードに術式展開、炎の属性を付与する。大剣で受けてもらえれば、凍結状態から一気に加熱することで温度差によるダメージが大剣に入るはず。
しかし、蛇腹状にするために打ち出そうとして凍結している今の大剣は、傭兵にとって信頼できない武器になっている。
なのでハルバードを大剣で受け止める様な真似はせず、間合いを外して回避された。
その際、焦りから踏み込みがやや雑になり、ハルバードを振るった体勢が僅かに流れる。そこを見逃してくれるほど準決勝の舞台は甘くなかった。
傭兵機の刺突が迫り、俺は右腕を離して盾にする。致命傷は回避したが、片手は半壊。重さのあるハルバードを十全には使えなくなってしまう。
蛇腹の関節を凍結していた氷も刺突の衝撃で弾け、大剣の状態が良くなっていた。
片手でハルバードを振り回しつつ、反撃の機会を伺うがそんな隙は見せない。逆に囮を撃ち落としたショートランスを大剣攻撃の合間に放って、こちらの姿勢が崩される。
閃光術式も魔導騎士のカメラフィルターで不発、氷結術式で生み出した即席の盾も魔導騎士のパワーの前には簡単に砕かれた。
攻防の中で蛇腹剣の凍結が完全に効果を失い、ハルバードの間合いの外から攻撃できるようになると、こちらに打つ手は残っていなかった。
「まだまだ実戦経験が足りなかったな」
破壊された魔導騎士を整備科に渡して反省する。魔導騎士に対抗できる術式はほとんどなく、生身で戦ってきたセオリーがなかなか通じない。
装備もかなりアレンジされて、相手の戦法を予測しきる事は不可能。後はその場その場で対応するしかないが、それには経験がモノを言ってくる。
クラス対抗で魔導騎士の対戦がメインに据えられるのも、単なる派手さを求める以外に、様々な戦闘を見せる意味があるのだろう。
「来年はもっと上手くやって見せるさ」




