vsルイス
ルイスは両手の剣の切っ先を下に下げたまま、間合いを詰めてくる。そこから右へとステップを踏み、盾の無い方から斬り掛かってくる。下方からの切り上げをタイミングをズラしながら、2撃連続で放ってきた。
1つ目を間合いで見切り、踏み込んできた2撃目は剣で払う。すると最初に見切った1撃目が、上空で反転して斬り下ろされてくる。重力が乗った一撃は、最初のものより速い。ただこちらの盾が間に合った。
思っていた以上に斬撃が速い。肩から上腕、前腕から手首と、順番にしならせて最後の切っ先で最大速度になるように動かされている。
そのため、肩の動き、上腕の動きでこのくらいの速度と予想するより、速い斬撃になっていた。
帝国式剣術の1つだったはず。俺も幼年学校時代に授業の1つで、基礎剣術というのを習ったので、その仕組は知っていた。
ただ知っているものに比べて、圧倒的に速度差を感じる。単に斬っているだけなのに、フェイント要素もある斬撃は、人間より遥かにパワーのある魔導騎士に、比較的軽いサーベルを持たせる事で、1つの完成形になっていた。
それを二刀で行うには、かなり精密な制御を必要とするはずで、ルイスの努力を垣間見せている。
「なまじ知ってるだけに、その差が厄介だな」
予想通りに動くのだが、予想より速い。そのギャップが反応を鈍らせる。しかし、それを把握すれば、埋めていけるはず。
盾を動かした事で遮られた一瞬の間に、ルイスは左側へと回り込む。そのまま背後から連撃に入った。バックモニターでその動き自体は見えていたが、振り返って受けるだけの時間はない。
前方へと回避を試みるが、ガガンと背中へと斬撃を受けていた。スラスターで移動しながら振り返り、構え直す。致命傷には程遠いが、クリーンヒットされた事は脅威だ。
「ケルンは良く、モニターに対応できてるな」
メインモニター上に四角く映されている背後カメラの映像は、どうにも距離感が掴みにくい。今回の様に遮蔽物で視界が途切れると、一瞬相手を見失うこともある。
魔導騎士として日常的に訓練していれば、そうした死角もフォローできるのであろうが、そこまでの練習をしている時間はなかった。
それはケルンも同じはずなのに、追加腕の攻撃すらあっさりと防いで見せた。それは天性の戦闘センスによるものか……。
「あの魔力か!」
ケルンが試合開始から周囲に展開していた魔力。魔導騎士を動かすには必要のない魔力の放出。あれで周囲の気配を感じていた……?
試しに周囲に魔力を広げてみる。すると相手の魔導騎士の防御結界に触れて、魔力が消されていくのを感じた。
この所、かくれんぼに備えて魔力感知に精を出していたおかげで、この手の探査方法の修練は積めている。
これをメリッサがケルンに教えたとなれば、彼女の探査能力は期待できるかもしれない。
などと考えている間に、ルイスが動き出していた。
「うひょっ、なにこれ、見えるっ」
今までモニターで視力を使って確認していた相手の動きが、肌感覚で追える様になっていた。キュピンって電流が走るまでもなく、どこから攻めようとしてるか感じられる。
ルイスの加速しながら伸びてくる太刀筋も、魔力が徐々に削られて迫ってくるので、的確に掴めた。
「ただ見えてるだけで、ちゃんと受けなきゃ食らうんだけど」
ルイスの攻撃を剣で受けようとすると、ルイスも攻撃の軌道を変えてくる。各関節を使って加速させる剣術は、その段階ごとに軌道を操作もできるらしい。
今までのカメラによる確認だと、その僅かな修正には気付けなかったかもしれないが、魔力によって察知できればこちらも修正はできた。
しかし、ルイスの攻撃には隙がない。二刀をバランス良く振るい、連撃と離脱を巧みに行ってくる。こちらが盾の重さで鈍いところを的確に狙われた。かといって、盾を捨てれば1本で2本を捌かないといけなくなる。
人間だと重さに振り回される部分も出てくるだろうが、魔導騎士にそれはない。後は制御の仕損じを突くくらいだが、ルイスはそんなミスをしなかった。
「この状況を変えるには……」
サブウエポンに頼っていくべきだろう。という事で、煙幕作動。俺の周囲が白煙に包まれていく。当然、俺の視界も塞がるのだが、今の俺なら相手を捉えられる。
ルイスに向けて剣を繰り出すと、ルイスは難なくそれを受け止めた。ルイスも見えているのか……と思ったが、俺の魔導騎士のモニターも自動的に視界が切り替わり、ルイス機のシルエットが見える状態になっていた。
単なる煙幕では、魔導騎士のデフォルト機能で対処されてしまうらしい。
とはいえ見えているのはシルエット程度。攻撃の動きは見えても、詳細は掴めないはず。そのまま連続攻撃で押し込んでいく。しかし、ルイスは両手の剣でしっかりと弾いていた。
さすがは魔導騎士クラス3位、煙幕程度では崩せない。ならば、魔術師クラスらしい戦いをしてやろう。
対していたルイスの構えが急に崩れる。足元に開けた穴にハマったのだ。煙幕で視界が確保できない中、地面に開いた穴に気づくことはできなかったようだ。
転倒するまではいかなくても、姿勢制御に時間を要して、こちらの攻撃への対処が遅れる。盾を押し込む様にして突進。ルイスも下がろうとするがこちらの方が速い。
盾で押さえ込みながら、更に剣を突き入れる。それを防ごうと腕を動かすが、一撃目で左手を失い、続けての二撃目で頭部を跳ね飛ばした。
『勝者、ユーゴ・タマイ!』
「剣術が見事だったので、魔術師であることを忘れていたよ」
ルイスは苦笑いしながら握手を求めてきた。
「いや、魔法を使わないと全く勝てる気がしなかったからね」
「魔導騎士クラスとして剣術で負ける訳にはいかないからな。でも次は魔法込みでも勝って見せる」
「こっちだって成長するよ」
互いの健闘を称えつつ、次への闘志をみなぎらせた。
残る一戦は、軍務科の雇った傭兵が勝ち上がってきた。他校の3年らしく、魔導騎士クラスの2位をしっかりとした立ち回りで撃破していた。
軍学校から押し出された生徒だが、しっかりと2年間の訓練を積み重ねた結果、軍学校でも通用する技量を身に着けたという事だろう。
明日はこの上級生との試合となる。動きを見ていると魔導騎士1位に匹敵しそうな雰囲気だ。対戦経験も豊富そうなので、苦戦は必至だな。
ケルンは魔導騎士の1位との勝負だ。今日の動き、魔力を使った空間把握を見ていると、勝ち目はあるかもしれない。
「傭兵さんと戦うには、やっぱり魔法をどう使うかが鍵なんだろうな」
魔導騎士には防御結界が張られているので、直接魔法を打ち込んでも決定打にはならない。今日やった様に、足元を崩すなどの間接的な使用が基本。しかし、相手が3年で経験豊富となると、そうした基本戦術では通用しそうにない。
煙幕や閃光といった視覚への攻撃もポピュラーなので、魔導騎士自体に対策が積まれている。
後は炎の壁で視界を塞ぐ方法だ。視界と共に熱源もあるので、サーモグラフィーなども誤魔化せる。しかし、これもサブウエポンとして割とポピュラーな部類。凍結弾など即座に相殺できる装備もあった。
「何か意表をつけるといいんだけど」
正統な剣術で勝てるとは思えない。搦め手を色々と思索するしかないな。




