2日目の魔導騎士対戦
2日目の朝一番の対戦が、俺と整備科2位の試合となっていた。魔導騎士の外見は、その名の通りフルプレートの騎士に似た姿をしている。基本的には余計な装飾はなく、シンプルな造りだ。
貴族の持ち魔導騎士になると、鎧の板金に緻密な装飾を施しながら、魔法陣を加えて付加価値を付ける。
軍学校で訓練に使う魔導騎士は、生傷が絶えないのでそうした装飾は行われない。
俺の相手となる整備科2位は、シャーリー・エリクトンと言い、その魔導騎士は体をマントのような外套のような板で隠されていた。昨日にはなかった装備なので、本気で臨んでいる証拠だろう。
俺の装備はハルバード、長柄の槍の先端に斧もついている大型の武器だ。遠心力で一撃の威力が高く、突きも払いもできる汎用性が高い。
欠点は大型だけに小回りが効かず、懐に飛び込まれると攻め手がなくなる点だ。
なので俺の攻撃は先手必勝狙いである。
『はじめっ』
審判の声がスピーカーから響き、俺は一気に前に出る。ハルバードを脇に構え、ランスの様に突進した。
シャーリーは慌てずしっかりと間合いを見切って避ける。その動きに無駄はない。が、無駄がないゆえにハルバードとの距離が近かった。
足を踏ん張り、急制動をかけた俺は、力任せにハルバードを振る。人間であれば不可能な動作も、魔導騎士の筋力ならやれてしまう。
ガゴンと鈍い音を立ててマント状の板にハルバードがぶつかる。シャーリーはハルバード諸共にマントを跳ね上げた。相手も魔導騎士なので、ハルバードを簡単に持ち上げる。
マントを構成する板はそれなりの厚さがあるようで、ハルバードの一撃に歪む事もなく、ハルバードを乗せたまま浮き上がった。
「むっ」
シャーリーの魔導騎士を包んでいたマントが10枚の板に分かれて、浮かび上がった。ハルバードを2枚で持ち上げ、残り8枚が魔導騎士から分離して飛んできた。
遠隔操作できるプレートでブレードらしい。
「フィン・ネルか」
思わず前世の記憶が蘇る。射撃してくる事はなさそうだが、中々の自由度、速度で迫ってきた。
俺はハルバードを手放し、腰の剣を抜き放ち、飛んでくるプレートを弾いていく。その動きを見ていると、前世のソレに比べると無軌道で鋭角な動きではなく、剣を振るう様な弧を描いている。
まあ、射撃武器ではなく、近接武器だからどうしたってそうなるか。
そして板同士もさほど離れず、同じ軌道で何度も斬り掛かってきていた。なので最初の一枚に剣を当てて軌道をずらし、続く板を半身になって避けていく。
人間、10枚の板を別々の軌道で動かす様な器用な真似はできないらしい。この辺、オールセンなら別々の軌道を記憶させて、連携させる攻撃に昇華してきそうだが、シャーリーは自分で動かす事にこだわってしまったのだろう。
「というか、オールセンならこの対抗戦中に作って来そうで怖い……」
などと別の事を考えられるくらいには余裕があった。整備科の生徒の弱点は結局の所、そこにある。
新しい発想で今までにない攻撃を編み出すが、それを使いこなすところまで突き詰めない。整備科の中ではそれで勝敗が決するのだろうけど、本当に戦える相手を倒すには足りてなかった。
同じ様な軌道で振るわれる10枚の刃。1枚1枚に払っていると、次々に襲われてジリ貧になるが、ちゃんと見切れてしまえば、払わずに避けて済ませられる。
そして整備科の生徒は、魔導騎士をスムーズに動かせるが、戦いの技術は持っていない。
なので互いの武器が振るえない距離に詰められると、そこから先の手がなくなる。
「自分ごと切り裂くくらいの覚悟があれば、まだ勝負は分からなかったかもしれないけど」
シャーリーの魔導騎士に密着して組み合うと、背中まで迫った刃はそこで動きを止める。俺はシャーリーの足を払うと、倒れる時に体重を相手の頭に集めて押しつぶす。
『勝負あり、勝者ユーゴ・タマイ』
遠隔操作する刃。それを操る事に特化して、もっと正確に自分の手の延長の様に2枚くらいで攻められたら、相手に中々近づけずに苦戦した可能性はあった。
しかし、派手さを求めたのか、操れる限界数に挑戦したかったのか、10枚同時に動かそうとして、複雑には動かせずに武器としては失敗に終わった。
前世のアニメの様に射撃での攻撃であれば、もう少しやりようはあったかも知れないが、魔導騎士には基本的に銃器が効かない。
装甲に銃器などの攻撃から守る魔法陣が刻まれており、魔導騎士の動力源からマナを供給されていれば、自動的に防御できるのだ。
それを破るレベルの銃を使うには、戦艦の主砲クラスの威力が必要になるだろう。
なので白兵戦の武器として使う方が魔導騎士には通用するはずだが、動きが単調になってしまえば避けるのは楽。
風の魔法で制御しているのか、そこまで鋭い動きでもないので、軌道も読みやすかった。
これが見えていても重心を崩すように、受けにくいタイミングで、様々な角度から斬る動きになっていれば、捌ききれずにダメージを受ける事になるだろう。
「そのうち実用化されるんだろうか」
ただ金属の塊を魔導騎士にダメージを与える速度で動かそうとすると、それなりに魔力を食うはず。持久力かランニングコストに割と深刻な問題を抱えてそうだ。
個人の対戦という限られた状況でしか使えないかもしれないな。
俺の次の相手となるのは、ルイスとヘンドリックの勝者という事になっていた。専用機を持ち込み、しっかりとチューニングされたヘンドリック機は、正統な剣術も使えて一回戦を難なく突破できていた。
しかし、相手はずっと魔導騎士の練習をしているルイス。同じく正統な剣術を習得してきていた。シンクロ率で言えばヘンドリックの方に分があったが、魔導騎士クラスで行われている対戦の経験分、ルイスが上回って勝利を収めていた。
ケルンは軍務科の3位と対戦。まだまだ生身のケルンの動きを知っていると違和感のある動きだったが、戦闘での駆け引きで相手に無理攻めさせた所をカウンターで撃破していた。
オールセンも順当に勝ち上がっている。予め組み込んでいる動作を格闘ゲームの様に繋げていく事で、魔術師クラスの生徒とは思えないスムーズな連続攻撃で相手を圧倒していた。
他は魔導騎士クラスの1位、2位が残り、軍務科1位、参謀科1位が残っている。やはり魔導騎士クラスが強そうだ。次はオールセンとあたるので、面白いカードとなるだろう。
「やあ、ユーゴ。対戦を楽しみにしているよ」
「お手柔らかに頼むよ」
部屋に戻るとルイスが笑みを浮かべながら待っていた。
「ヘンドリックから君を倒すように依頼されたからね。本気でいかせてもらうよ」
「魔術師クラスの点数を考えろよ……」
クラス分けの時から何かと絡んできていたヘンドリック。その向上心は認めるところではあるが、大局を見る目はなさそうだ。
この分だと俺の使う手なども漏らしている可能性すらある。俺が負ける所を見たいのだろう。
元々魔術師クラスと魔導騎士クラスが抜けている対戦だが、1位が3位に負けるのは結構なマイナスを受けそうだ。
まあヘンドリックに見せた手なんかは特に大したものじゃないが、オールセンとの対戦をチェックされていると面倒な事になる。あいつのコンボ攻撃を捌くのは、かなりギリギリの勝負になるからな。俺の限界値を見極められかねない。
表向きの対戦ではないが、魔導騎士が借り物である以上、隠れて練習はできなかった。それなりにギャラリーがある中でやってきたから、魔導騎士クラスの生徒にも分析されてる可能性はあるか。
じゃあヘンドリックの裏切り行為はそんなに意味はなさそうだ。貴族としてどうかとは思うけど、そもそも貴族って足の引っ張り合いをしてるイメージだから、ある意味貴族らしいのか。
何にせよ、まだ負ける訳にはいかない。




