メリッサ
メリッサのクラス内順位は26位。ヘンドリックに抜かされた後は、ほぼ変動がない。貴族家として基礎教育をしっかり叩き込まれてきたのは確かなのだろうが、その分授業での伸びもない印象だ。
俺が初めて対戦した相手でもあるのだが、圧倒して撃破させてもらった。まあ、工夫させる事もなく一気に決着をつけにいったので、本来の実力は出せなかったと思う。それでも技術力に差があったので、リベンジされる事もなかった。
男爵家は領地を持たない貴族で、主に国の役人になったり、他の上級貴族に雇われて領地の代官を勤めたりする事が多い。
後は軍人などになるパターンもあるが、そちらはどちらかというと平民から軍功をあげて、騎士爵を貰うパターンの方が多いので、男爵家から軍人となるのは家格が下がるイメージとなる。
これが指揮官などの士官となると別だが、そちらへ男爵から抜擢される事も少なかった。基本的に領地に私兵で軍団を作って、それを軍の一部として運用する形になるので、領地を持たない男爵では無理なのだ。
メリッサの実家は国政に関わる役人の家系のようだ。かつては商才を認められて爵位を貰ったようだが、代を重ねても目立った功績は上げられずにそのまま。野心もないので、爵位を失う事態にもならず数百年経っているらしい。
メリッサ本人は長女ではあるが兄が3人いて末っ子。多少甘やかされて育った部分はあるが、裕福では無い事も理解しているので、軍学校で好成績を修めてより高位の貴族に嫁ぐ事を狙っているとか。
ちなみにこの手の情報は、諜報科の生徒から購入する事ができる。ガセを掴まないように信頼を築けるかも加点ポイントだ。
メリッサが伸び悩んでいる原因は、魔力量だ。息子ばかりだったメノン家でようやく生まれた娘は、両親から溺愛されていたため、結構辛い魔力量を増やす訓練で手加減されていたのだ。
行く末を考えたらそこで手を抜くのは悪手なのだが、苦しむ娘を見ていられなかったというのも分からなくもない。
ただそのツケが今に跳ね返ってしまっていた。
ヘンドリックより技術力はあるのだが、スタミナ切れをしやすいので対戦成績が上がりにくい。そして明確な弱点が簡単には克服できないとなれば、対戦相手もそこを突き、守りを固めた持久戦で撃破されてしまう。
魔導騎士の扱いは上手い部類に入るのだろうが、魔導騎士を持っている様な家ではなかったのでスタートラインが平民と同じ。他の貴族の幼い頃から触れてきたアドバンテージを覆せるほどではない。
更に言うなら、戦闘訓練もほとんどやってないので、上手く動かせても戦えないというのもあった。
あと貴族意識が高いので、平民とは馴染めず、また貴族の中では地位が低いので、自分から積極的に動くこともできずに孤立しがち。
その中でどんどん自信を喪失している状況だった。
弱ってる所を優しく接してやればチョロインになりそうだが、平民である俺への敵意は高い。それでいて敵わない事も自覚しているので、初対戦から噛みつかれる事もなかった。
「さて、どうしたものか」
ぶっちゃけ、放っておいてもいいんだが、魔術師クラスとして点を稼いだ方が、総合的な成績を稼げる。広い探索範囲、一人で探せる範囲が限られてくるので、彼女にも活躍してもらった方がありがたいのだが……。
メリッサは赤髪をセミロングにして肩口で揃えた髪型で、同じく赤い瞳を持っていた。初期の勝ち気な様子は消えて、全体的に暗いイメージを纏ってはいるものの貴族としての教育の賜物か、立ち振舞は優雅でピシッとした印象を与える。
上位貴族を射止めるためか、そもそもの気質なのか美容にも気を使っているらしく、白い肌はきめ細かく、髪の艶も整えられていた。
一見、スレンダーに見えるが、年相応に起伏もあり、やや小柄ではあるが人目を引く出で立ちだろう。
まあ、覇気を失っていてその魅力も半減して映るかもしれないが。
有り体に言えば美少女から美女へと移り変わる過程で、成績の伸び悩みという憂いを抱えた彼女は、ある種の魅力を持ってはいた。
捜索技術向上の為に、クラス内を常時観察していた中で、彼女の男子人気はかなり高い。
なので彼女の望む少し爵位の高い男子。まあ、嫡男は身分差を考えないといけないので次男以下で目ぼしい人材を見つけて、彼女をフォローさせるのはどうかと考えた。
「それで俺に相談か」
俺が頼れる先はそんなに多くない。魔術師クラスでトップとなったが、クラスの貴族連からは避けられている。平民に上を取られているというのが、彼らの誇りに抵触するのだろう。
そうなるとクラス外の知人を頼る事になり、ルームメイトのルイスかケルンとなる。
そしてルイスとはまだそこまでの仲ともいい難いので、困った時のケルン頼みと相成った。
ケルン自身、肉体鍛錬を重視しすぎて、魔力の扱いが不慣れ。武術家として身体強化を用いる事を考え始め、魔導騎士にも乗る様になってきたが、成長途上であり、そういう面でもメリッサと共通点がありそうだった。
「でも俺はロッドの試合と魔導騎士の特訓で忙しくてな」
「それなんだけど、メリッサ嬢は魔力制御の技術は上手いんだよ。ただ魔力量が少ないから伸び悩んでるだけで」
ケルンは制御が苦手で、魔力はそこそこ。ただその魔力の成長の仕方が特殊だった。俺と出会うまで魔力を重視していなかったケルンは、魔力量も魔道具を使えればいいというレベル。
しかし俺が身体強化を駆使してケルンを打ち負かしたものだから、そこから魔力の大事さに気づき、武術家という存在を知って、一気に魔力量を伸ばしてきていた。
「君達はお互いに足りないものを補完しあえるかなと思うんだよ」
「うう〜ん……ユーゴの言うことは基本、正しいからな。ただ俺は女の子を慰めるとかできないぞ?」
ケルンは幼年学校でもクラスの中心で、寄ってくる人が多かった。そのため自分から仲間を増やすという事をあまりやっていない。
女の子にもモテてきたが、それも相手から寄ってくるのに合わせていただけで、自分からアプローチするという事はやる必要もなかっただろう。
「そこは変に策を打つと失敗しそうだからさ、ケルンは普段通りに過ごしてくれたらいいよ。ただ彼女の近くにいることを意識してくれたら」
「それでいいのか?」
「ああ、昼食で食堂を利用する時に近くの席に座るとか、そんな程度から始めてみたらいいと思う」
「まあ、それくらいなら……」
普段の生活にプラスアルファ程度で済むならとケルンも了承してくれた。
正直、まどろっこしい手法だが、ケルンはプレイボーイという訳でもないので、変にアクションを掛けると失敗する危険が高い。ケルンの魅力は自然体でいる方が発揮されるだろう。
そしてケルンは日課で、日常的に魔力の制御を練習している。それこそ廊下を歩いている時や食事をしている時、仲間と話している時まで、極力意識せずに常に魔力を制御する様に勧めた。
これは魔力の練習開始が遅かったケルンの時間を稼ぐ意味もあるが、武術家として身体強化を常態化するのに必要な事でもある。
戦闘中に身体強化に意識を割かれる様では、反応が遅れてしまうのだ。
術式で掛ける身体強化は、一定時間分の魔力を先払いしているので、維持に気を使う必要はないのだが、武術家の身体強化は常に魔力を巡らせる事で維持しなければならない。
その練習を課している訳だ。
一般生徒ならその練習を感じる事もないだろうが、魔術師クラスの生徒なら自然と感知してしまう。
ケルンはまだまだ精度が粗く、安定していない。
魔術師の本能として、魔力には敏感にならざるを得ない。そこに不安定な魔力制御を続ける奴がいれば、意識せずにはいられないだろう。
吊り橋効果ではないが、常に意識を向けさせられる相手が側に居ることで、勘違いが発生しないかに賭けるしかない。
クラス対抗まで時間はないが、魔力量を増やす方法をケルンからメリッサに伝えられるかが勝負となる。




