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とある転生者の宇宙放浪記  作者: 結城明日嘩
青年期

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研鑽と再会

 追跡装置は俺の手を離れた。後は時間が経たないと結果はでない。他にも工夫できるところはあるかもしれないけど、俺ができる範囲は狭いので、本職の技術者に任せるのが一番だろう。


 なので俺は低温術式の記憶に励む。一応、発動できるようにはなってきたが、参考書を片手に図形を覚えて、その場で発動するのがギリギリといった感じ。

 感覚としては100ピースのジグソーパズルの凹凸を全て覚えて書き出す様なもので、ずっと覚えておけるものではない。


 やはり個々の図形の意味を理解して、それを組み立てて覚えるのが必要なのだろう。

 極低温を作るには、まず周囲を断熱の結界に閉じ込め、外気との接触を断つ必要がある。ここは風の術式だな。真空を作って熱伝導が発生しない空間を作り出すのが目的らしい。


 そして冷却。気体を冷やすと体積が減っていく。ここは水の術式で行われている。

 そこから重力操作で気圧を下げる。元々体積が減ってるので、下がっている気圧を更に下げる事で、内部の温度が下がるらしい。ここは土の術式だ。


 この辺、術式の開発者は全く物理を理解した訳では無い。水の魔力を使えば冷気を生み出せるというのは常識としてあって、重力操作の過程で温度が下がるという現象を発見した。

 ならば組み合わせたらもっと冷えるんじゃ……程度の感覚で組み上げられた術式なのだ。


 単に重力を下げただけでは冷えなかったが狭い部屋なら冷めた。ならもっと狭い空間に限定すれば、より冷えるだろうと、小さな部屋を作るために断熱した空間を定義したのが、最初の風の術式となる。


 元々魔法を使おうと魔力を扱うと、それぞれに干渉して打ち消し合う現象があって、普通に魔法を行使したら何も起きない。

 それを術式という範囲や効果を厳密に規定して、それぞれに干渉しないように組み合わせる方法が確立されてから、様々な魔法を組み合わせる実験が行われる中で、より冷える術式が生み出された形なのだ。


 おかげでいらない術式も混ざっているので、これを取り除きたいところなのだが、電子回路で単純にICやらコンデンサを抜けば、まともに動かなくなる様に、回路同士の繋がりは無視できない。

 で、術式同士の距離感が変わると、そこに魔力干渉が発生したりするので、まさにパズル状態。


 この辺は魔道具に刻む魔法陣と考え方は似ているので、オールセンに改造のコツを聞いたりするのだが、才能でやってる部分も多いので、要領を得なかったりする。


「い、色々と、覚えていくと、変な場所が、み、見えて、くるよ」


 なんだろう……ベテラン刑事が捜査をしている時に、勘を頼りに真相に近づく的な感覚なのだろうか。過去の捜査経験から微妙にズレた行動をしている人が分かる的な?

 何にせよ、各術式を理解せずに、単に図形として発動してきた俺にとって、その違和感に気づくだけの土壌がないのは分かった。


 とりあえず極低温術式で分離できた液体酸素を使って火の術式に絡めてみたら、大爆発を起こしたり、鉄を酸化できるんじゃと掛けてみても、何も起きなかったり、細々とした実験を試して過ごした。




 魔導騎士を使用した対戦が活発になりつつある。魔法理論を学んで術式の効果を高めるよりも、強くなった実感が得られやすいのだろう。

 ルイス達、専門科の生徒達は乗ってる時間も多いので、運動場での対戦でその動きの進化がよく分かる。

 それを見て魔術師クラスの生徒達もやる気になって訓練していた。


 ただ専門科と違って練習に使える機体がなかなか回ってこないので、権利の取り合いなどが発生している。

 俺はそこへは参加せずに、魔力操作の訓練に重点を置いていた。リアとやってる外部魔力の操作は、魔導騎士の操縦にも通じるものがある。


 その割にリアの操縦は伸びていないのだが、それは『風の魔力じゃないと分からない』との事。その代わり、風の魔力の分離速度はかなり早くなっている。このままいくと、大気が激しくかき回される中でも分離できる様になりそうだ。

 対戦で使われだしたら対処が厳しくなるだろう。


 リア自身が対戦に興味がないので、俺が挑まれる事態にはなっていない。リア自身が挑まれる事はあるが、大抵は圧倒的な風魔法で決着をつけている。

 リアの魔法は昔ながらというか、術式に頼らず環境の魔力操作で発動させるので、発動が早く、威力も高い。やはり、個人で抱えられる魔力量では大自然の魔力を覆すのは難しい。

 俺としても対抗策を練っている所だ。

 基本は火の術式で大気をかき回して操りにくくする方向だが、突風で吹き散らされる可能性が高い。

 何とか考えないとな……。




「よお、トップ魔術師」

「やあ、トップ闘士」


 運動場で対戦を観戦していると、久しぶりにケルンに会った。彼はマットと同じ歩兵科に属している。ただクラス内順位ではトップを取れていない。射撃の腕が足を引っ張っているようだ。

 ただロッドでは有言実行の学年トップを勝ち取っていた。これは夏休み明けに行われたトーナメントで優勝した結果だ。


「まだ身体強化なしのルールだけだからな。幼い頃からやってきた技術の勝負なら負けねぇ」

「大人の部でも身体強化なしが基本だろ?」

「いや、それがさぁ。見た目の派手さから身体強化ありの大会の方が盛り上がってるんだわ」


 ロッドによる戦闘技術の研鑽は、身体強化なしの大会の方が権威があるとされている。ただ素人目には、身体強化ありで超速で動いて、飛んで跳ねての戦いの方が見栄えがいい。

 魔力量によって技術差が覆されるので、純粋な技術で勝っていても、試合に負けてしまうのだ。


「どっちのトップも取ってこそ真の闘士を名乗れる」

「そのためには身体強化を鍛えないとね」

「そうなんだけどなぁ……」


 伯爵家の生まれであるケルンも、幼少から魔法に関する教育は受けているが、体を動かす事が大好き過ぎたために、そちらを疎かにしていた。

 魔法が、身体強化が、ロッドにも意味があると気づいたのは、俺と出会った時、10歳の頃だ。

 そこからは多少真面目に取り組む様になったが、理論はやはり苦手。

 天然の魔術師である武術家は少なく、指導できる者となると更に限られてしまい、幼いケルンが師事できる者が見つからなかった。


 仕方なく俺が手解きをしてやったのだが、幼い頃からちゃんとやってきた者には及んでいない。

 歩兵科は魔道具で戦うのがメインのクラスなので、身体強化を練習する事もないので、放課後に魔力の扱い方を学んでいるのが現状。

 俺よりも指導に長けた教員を見つけたらしく、それなりに伸びつつはあるらしい。


「どうしてもお前という例を知ってるだけに、そこにたどり着くビジョンが見えねぇ」

「まあ、僕の身体強化は特殊だから、そこを追っちゃうのはまずいね」


 俺のベースは魔術師で、術式によって身体強化を行っている。しかし、武術家は体内の魔力を自分で操作して身体強化を行う。

 本来なら魔術師が戦えるレベルまで身体強化を行うことは稀なので、武術家の身体強化を上回る事はないのだが、俺は幼い頃からの特訓に加え、前世の漫画知識なども合わせて戦闘技術に昇華しているため、そこに引っ張られると変な育ち方になるだろう。


「今の先生にしっかり教わることだね」

「そうだな……でも手合わせはしてくれよ」

「ああ、そこは僕にもメリットはあるから、やらせてもらうよ」


 じゃあ早速と俺達は校舎の外にある森へと向かい、手合わせをした。リアの邪魔はしないように、離れた場所だ。

 魔力の使い方を矯正中のケルンは、動きにぎこちなさはありつつも、新たな形を掴みつつもある。

 かつてウルバーンで戦った作業服やゲニスケフといった武術家とはまた違った成長を見せていた。


 我流の剣術と道場の剣術の差。

 なんか物語だと我流が強い場合が多いけど、やはり歴史を重ねた剣術はちゃんと強い。

 体の動かし方からして、体幹を意識して崩れない捌きから、しっかりと攻撃へと繋げる動き。無理なく、それでいてフェイントがあったり、途中で可変できる動きは、洗練されている。


 魔力量の差で何とか凌げてはいるが、ここに身体強化をしっかりと身に付けていけば、俺を遥かに上回る戦士になるのは想像できた。

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