海賊の追跡
「か、海賊の追跡?」
「ああ、ビーコンみたいなのを仕掛けて、追尾できるような魔道具を作れないかと思ってね」
あれから調べてみたら、やはり追跡用発信機の様な魔道具自体は存在した。しかし、バレない程度に魔力を抑えたものは、短距離でしか検知できず、遠くまで信号を伝えるものは消費魔力が大きく、バレやすい。
海賊に奪われたコンテナにもつけられている場合もあったが、効果は出ていなかった。
「だ、だったら無理、なんじゃ……?」
「魔力を使わない装置を作れないかと思ってね」
「???」
この世界は魔法によって発展してきた。そのために電波などの研究は進んでいない。なので検知する技術も当然ないのだ。
それならば、強力な電波を発信して撒き散らす様な発信機をつけてもバレる危険は少なくなる。
ただ問題となるのは、電波の速度だ。電波は光速で移動するが、星系間移動が可能なこの世界では遅いのだ。
太陽から地球まで光が届くのに8分ほど、冥王星までは5時間以上掛かってしまう。
星系を跨いで逃げられたら、年単位の時間が掛かる訳だ。それでは追いつくことはできない。
空間転移で移動する相手を捕捉するには、電波も空間転移させないと無理となる。しかし、空間を飛び越える魔法というのは、消費魔力も大きく電波を飛ばすために空間転移を使っていては、その魔力を検知されてバレるという本末転倒具合。
「その、電波? を届けるための、装置を、作る?」
「そうだ。まずは空間転移が発動したら、その時点で電波を発生させたい」
電波を届けるために空間転移を行うとバレるならば、海賊船自体の空間転移を検知して電波を飛ばす様にすれば、ひとまずはバレない。
ただ飛んだ先で電波を発信しても、それを検知する装置がその星系にあったとしても、それなりのタイムラグが発生する。
ならば転移に利用している空間で電波を検知することで、転移先が分かったりしないかというのを実験してみようかと考えた。
「い、色々と、調べてみないと、分からない」
「そうだね。まずは電波がどういうものか、それを発信、検知できる装置を作ってみるよ」
とは言ったものの電波を飛ばすってどうやるんだっけ?
受信するアンテナなんかはまだ分かるものの、発信機となるとどうなっているか分からない。そもそも電波ってなんだっけ?
電流があると磁場ができて、磁場が変化すると電流が流れる、フレミングの法則なんかが関係していたと思うんだけど……アマチュア無線とかやってたら分かったのかもしれない。
「……ダメだ。知識が足りなくて、電波に関する装置は作れそうにない」
「挫折が、早いよ。分かる範囲で、電波を、教えて」
俺はオールセンに電波について知っている事を話す。確か電波には周波数があって、そこに情報を乗せる事で運ぶ技術だ。
周波数は電流と磁場が切り替わっていく長さのはず。情報は、オン・オフの切り替えで伝えられる……モールス信号みたいな物か。
電波は目に見えなくて、離れた場所に向かって飛んでいって、それを受信する事ができる。
「ふ、ふむふむ……魔法の念話、なんかとは、違いそう」
「電気を使って情報伝達ができれば、魔力感知には引っかからないはずなんだ」
「分からなければ、実験」
問題はそこだ。電流を流せば磁界ができるから、発信できるのかもしれない。アンテナはそのオンになって発生した電流と磁場の変化を受け取る事ができる。
ただその微弱な電流と磁場の変化を調べる事がでにるのかどうか。
「で、電気は、風の魔力、だよ」
「そうだね」
「風の魔力の、微妙な変化が、あるかも、しれない」
「ふむ……そうなのか?」
「分からなければ、実験」
雷を誘引する避雷針をオールセンは持っていた。俺との対戦で使用した奴だな。これは通電性が良くて、雷を引き付けるという事は知られている。
「離れた、場所に、伝わる、なら」
2本の避雷針を立てて、一方に電撃を打ち込んだ際に、もう一方にも変化がでるのではないか……という仮説だ。
風の魔力は風の動きだが、そこに電気の動きも含まれているんだろうか。それとも自然の雷が空中の摩擦によって静電気が蓄えられて、一定量が溜まったら一気に放電される仕組みが、風に属するからか。
俺がつらつらと思考を巡らせているうちに、オールセンのセッティングが終わる。
「こっちに、電撃を、打つよ」
「ああ、こっちの避雷針に何か伝わるか、感知してればいいんだな?」
コクリを頷いたオールセンは電撃を放つ魔道具を起動させた。すると激しい火花を放つ電撃が、避雷針へと吸い込まれる。
その魔力はそれなりに大きく、感知がそっちに引っ張られそうになるが、自分の近くに置いた避雷針にも僅かな魔力が伝わってきたのを感じた。
リアとの訓練で風の魔力に敏感になっていたのが活きたな。それほどの微量だ。普段生活していても、気付かないだろう。
「来た。直接流れ込んでない避雷針にも、極微量の魔力が伝わってる」
「なる、ほど。じゃあ、次」
オールセンは魔力感知ができる魔道具と避雷針を俺に渡す。極微量の魔力を検知できるらしい。魔法陣内で魔力の干渉を起こさないように検知するための物らしい。それを避雷針に付ける。
「部屋の外、少し、離れた所」
「ああ、森の方まで行ってみる。情報端末で繋いで報告すればいいな?」
「うん」
魔力によって干渉が発生すると魔法陣の作成にも影響が出るため、工作室は魔力の遮断がされている。
なので俺が森の中へと受信用の避雷針を持って行き、オールセンは校舎の外で避雷針に電撃を放つ事で、離れた位置で、他に魔力がある中で検知できるかを調べるのだ。
「なるほど、確かに」
魔力感知の魔道具に記録された数値を確認しながらオールセンはコクコクと頷いた。俺達は情報端末で会話しながら、魔力を感知したら連絡しつつ移動を繰り返してデータ取りを行い、その結果を持ってオールセンの元へと戻った。
「この、校内だと、ほとんど、ラグなし」
「だろうね。ただ距離がもっと広がると、徐々に遅れてくると思う」
電波も光の速度……というか電波も光も同じ電磁波の一種だから速度は変わらないって事だな。この近距離というか、惑星内くらいならラグは発生しないだろうが、星系内となると無視できない時間差が生じる。
更に星系間での伝搬となると年単位の時間を必要としてしまう。なので次は転移に乗るかの実験が必要だ。
転移魔法は2点間の距離を空間に穴を開けて繋げるという魔法らしい。ワープというよりは、ワームホールを利用した距離跳躍に近いだろう。
つまり魔法が発動している間は、2つの宇宙が繋がった状態となるので、ならば電波も飛ばせるというのが俺の予測だ。
「転移の実験はどうするか……対戦で審判をする教員に頼むか?」
「あの、魔法陣なら、起動、できる」
「え?」
「仕組みは、解析して、ある」
ニヤリと笑うオールセン。教室から運動場などへと伸びる転移陣を解析して、自由に使えるようにしているらしい。
やはりこいつはただの臆病者ではないよなと改めて思わされる。
その後、運動場と教室前で電波を飛ばす実験をして、転移陣を通った電波と直接飛んできた方向の違う電波を2つ、観測する事ができた。
これで星系間を跨いでも電波を使った追跡に少し希望が出てくる。
ネックとなるのは、電波へ乗せられる情報は極わずかだという点。星系間の検知はほぼ不可能な点。電波を飛ばすための電流をどうやって確保するかなどなど、様々な課題が残っている。
ただオールセンにはある程度の道筋が見え始めているらしい。やはり自分の至らない点をフォローしてくれる仲間の存在は貴重だ。




