魔法の実験
翌日、授業が始まる前に少し実験してみる事にした。酸素を抽出する方法として、空気から窒素を取り除く事で、酸素を残す形だ。
問題となるのは、魔力同士は干渉しあうという事。術式を発動する過程でそれが織り込まれていたら、火と風の魔力を使って炎の竜巻を生み出す事はできる。
しかし、新たに魔法を作ろうとして、2種類の魔力を混ぜるのは難しく、干渉し合って打ち消し合う。
炎の魔法に対抗するために、水の膜を張る魔法があるが、それは火を水で弱体化させるのもあるが、魔力同士で打ち消し合ってる部分もあるらしい。
なので炎に対して、風で吹き散らしたり、土壁で防ぐという方法もある。
「水の膜を張る魔法に風魔法を撃つだけじゃダメだよな」
水の膜より風が弱ければ手前で消えるし、風が強ければ突き抜けるだけ。均衡する様に調節しても、風が消えて終わる感じだな。
オールセンの様に魔法陣を組み立てられれば水と風を融合できるのだろうか。
でもまだオールセンに頼る段階じゃない。自分なりに色々と試してからだな。
リアはあくまで風の魔力だけを扱って、酸素と窒素を分離していた。かなりの感性と集中力を要する方法だ。
それを化学の知識を利用して分離できるかが勝負である。
「風の塊を撃ち出す魔法がベースだよな」
攻撃用術式の一つ、風弾は風の塊を撃ち出す魔法。非殺傷な攻撃手段として、銃の弾として使われる事もある。
これに誘導の術式を加えてホーミング弾として放ったり、込める魔力を増やして威力を高めたり、アレンジは色々と設定があった。
魔法で作った水の膜ではなく、池の水に撃ち込むとどうなるか。池の水もそれ自体が水の魔力を持っているので、干渉自体はなくならない。
「ただ水に溶ける気体はあるよな」
この世界にも炭酸水というものはある。あれは二酸化炭素が溶け込んだ水。
「確か冷たい方が気化しにくいんだっけ?」
ぬるい炭酸水ではさほどシュワシュワ感がないものな。冷気の魔法は水の魔力に分類されるが、これで窒素も吸えるのか?
二酸化炭素と窒素で同じ考え方でいいのだろうか。
氷の術式を使用して、氷の塊を生み出し、風の術式をぶつけてみた結果は、水の膜と大差ない結果に終わる。
「いっその事、窒素や酸素が液化するまで冷やせば分離できるか?」
俺の脳裏には氷を撃ち出す魔法などはあるが、極端に冷やす魔法の術式はなかった。この辺は図書館に行けば調べられるかもしれない。
この時、酸素の抽出方法を変更したのは結果的に正解であった。
そもそもおぼろげに記憶していた理科の実験。空気を水に通して酸素を得ていた訳では無い。あくまで過酸化水素水を二酸化マンガンにかけて発生した気体を水槽に入れたビーカーに集めていたのだ。
なので窒素が水に溶けやすいというのは、記憶違いであった。
アクアリウムで水槽にエアを送り込んでいるのは、酸素が水に溶けるから。魚は水から酸素を取り込んでいるのだった。
朝の検証を終えて、教室へと入る。いつも通り最前列に座り、授業の準備を行う。
授業自体はテキストに沿って、先生の説明を受けていく形で、前世と大差ない。テキストが情報端末にインストールされているのも、転生前にはそんな感じになっていたように思う。
ノートも情報端末に記録するスタイルでも良いのだが、手で書いて覚えるという記憶が残っていたので、手書きで書いていた。
ちなみに先生の方はスライドを映し出す様な形で、黒板に書いたりはしていない。
今日の授業は魔法の基礎理論。魔力の反発についてで、なかなかにタイムリーな話題だった。
魔法の威力を高めるためには、魔力の純度も大事になるとの事。自分の魔力を各属性に変換して使用する術式は、影響を受けにくいがその分、消費魔力は多くなるし、プラスアルファの威力を得ることはない。
環境の魔力を使用すると、自分の消費魔力を抑えられて、威力にプラスを得ることもできる。
砂漠の様な乾燥した暑い中では、火の魔力を扱いやすく、威力も高まる。逆に水の魔力はまず期待できないので、自分の魔力で生み出すしかなくなるのだ。
そして自分の魔力を使って生み出した魔法でも、周囲の環境により、魔力干渉を受けるので先の砂漠で氷の魔法を使えば、火の魔力干渉を受けて威力が減じる事となる。
「環境に合わせた魔法を選ぶことが大事だ」
担任の説明にフンフンと頷きながらノートに書いていく。水の中では火の魔法は使いづらいとか、当たり前だろと思いながらもちゃんと聞いておく。
環境に合わせた魔法を使う際に大事なのは属性を理解する事だ。例えば氷や冷気は水の魔力、雷などの電撃系は風の魔力に属する。
重力などは土の魔力に紐づいていた。
見た目を変える幻影は光の魔力で、相手の精神などに作用するのは闇の魔力と、四大元素魔法に光闇を加えた6つに分類するのがこの世界の法則らしい。
死霊術の多くは闇に属している事になるが、洗脳なども含まれる精神魔法など闇の魔力については、取り扱いが厳しく、下手に研究している事がバレると色々な機関に目をつけられる事になりやすい。
魔法を使う時は、環境の魔力にマイナスの影響を受けないように属性に気をつける。昨日、リアが森の中で風の魔力を集めていたのも、他の魔力に影響されにくい環境を求めたがゆえなのだろう。
そして、授業の中で忘れていた点を思い出した。それは風の魔力は、風が起きてないと発生しないのだ。
つまりは空気の流れの中に魔力があるのであって、空気に含まれている訳じゃない。風力発電は風が吹かないと発電しないのと同様に、風が起こっていなければ魔力は生じない。
それは今朝の失敗を思い出させる。2つの魔法をぶつけ合ったら干渉しあって打ち消し合う。風の成分を水で分けるのは無理だと思っていたが、風さえ起きていなければ、水の魔力を利用して空気を分解する事ができるはず。
そもそも空気に魔力があるのならば、空気の中で他の魔法なんて使えっこないのだ。それこそ水の中で火の魔法を使うのと同じ。風の魔力に干渉されて火や水の魔法は発動できない。
しかし、実際は普通に火の玉も水球も飛ばすことができる。干渉は受けていない。
冷気を使って空気を冷やすとしても、風の魔法を使う必要はない。どころか邪魔でしかない。それを教えてもらえたのは助かった。
授業を終えた俺は、図書館で冷気の魔法を調べた。各種エネルギーの代わりに魔力を使用できる世界だが、空気を極低温に持ち込むのはかなりの魔力を要する。
術式自体も温度を下げようとすればするほど、複雑に込み入った物になっていく。これは簡単に記憶できるような代物ではなさそうだった。
水の魔力を表す記号にどう方向性を持たせているのか、複雑な模様が重なり合うような図形だ。バラしていけば、魔力の制御用の記号などを見つける事もできるが、分からない模様もかなりある。
術式の記憶は各模様の作用を知った上で発動する方が効果は高くなるので、分解した術式の意味を調べていく。
水の魔力をただ増やすだけじゃ冷気にはならない。水量が増えるなり、氷の塊が大きくなるなりするだけだ。
火の術式でも単に魔力量を増やすだけだと威力が上がらないのは、担任に放った大きいだけの火になったヘンドリックの魔法の通り。
火力を上げるためには、やはり酸素を多く送り込む、風の魔力と複合した式にする必要がある。普通に火と風の魔力を合わせたら干渉し合って威力が落ちるのだが、術式の中で無色の魔力であるマナをどこで変換して、火に変えていくかのバランスで威力を上げていた。
その術式の意味を紐解くには、色々な参考書を調べる必要がある。
冷気の魔法も同様に、水の魔力だけでは上手くいかず、土の魔力で重力を掛けたり、抜いたりする事で冷却を行うようだ。
この辺りの仕組みはしっかりと調べていかないと理解できないだろう。
魔法の世界も歴史を重ねて、かなりの深淵に至っていると感じさせられた。




