同部屋との夕食
同室のルイスとローガンが戻ってきた。この二人は早くも打ち解けあったらしい。魔導騎士は戦場の主力として運用される兵器だ。火力のある銃器類を扱え、堅牢な防御結界を持ち、かなりの高機動を誇る。
ただその運用に必要な魔力量も多い。以前、俺が無理矢理動かした開拓船のパワードスーツよりも更に高消費なのだ。
更には数多の魔法陣が刻まれ、大量の魔力を通わせないといけないため、こまめなメンテナンスを必要とする。
メンテナンスを行うのは整備科の仕事ではあるが、補充する魔力の管理は軍務科であった。軍務科は主に兵站の維持管理、補給路の確保といった後方の雑務一般を引き受ける部署。
大規模な戦闘になれば、その分、消費される魔力や食料、水などの確保が、戦線の維持に重要になってくる。
いくら前線で魔導騎士に乗って活躍できようが、魔力切れで動けなくなれば待つのは死。後方の人間ときっちりとした絆を築いておくことが、生存率の向上に繋がったりする。
この辺りは戦史を習っていると、ちらほらと出てくる内容だ。前線で戦うものはどうしても視野狭窄に陥りがちで、自分達の活躍で戦に勝ったと思いがちだが、後方支援が途切れて敗れた戦訓なども交えて、補給路の確保がいかに大事かを教えていた。
そのため、魔力食いの魔導騎士のパイロットが、補給を担当する軍務科の生徒と懇意にするというのは良いことだろう。
「お、今日は俺達が最後か。ならこのまま食堂に行こうか」
「少し待ってくれ」
マットが声を上げると、手早く銃身を組み上げてメンテナンスを切り上げる。それをロッカーに入れて席を立った。
俺も読んでいた情報端末の画面を消して、ベッドから這い出す。
寮の食堂はかなり広い。4人がけのテーブルが並んでいるのは、部屋単位での行動が義務付けられているからだ。
それほど混雑はしていないので、外が見えるテラス席を確保して、それぞれに食事を取りに行く。
この世界は栄養バランスなどを考えない食生活で、基本的に味付けが濃く、スパイスが多めだ。ジャンクフード感の強い味付けは、毎日食べてると飽きてくる。
団体行動の基礎を作る学校ではあるが、食事に関してはそこまでの制限はないので、俺は少し自分なりの食事を用意して食べている。
サバイバル学習の際に狩った鹿っぽい肉などはまだまだ残っているので、地道に消化していっている。
携帯用コンロをテーブルに置いて、金網を置き、スライスした鹿肉を焼いていく。
「食費の節約ですか?」
「いや、以前サバイバル学習で入手した素材の消化」
「なるほど。匂いはいいですね」
「食べてみる?」
「タマイさんが良ければ」
ローガンは軍務科に配属されるだけあって、金銭感覚がシビアだ。軍学校は授業料やその他の教材など学ぶことに関する費用は、国の負担で個人が払う必要はない。
食堂の利用に関しても、基本的には無料。
ただ嗜好品に関するものなどは、有料なのでその辺りで生まれの差が出てきて、貴族のルイスなどは、食後のデザートを堪能していたりする。
俺は幼年学校の頃からバイトで小遣い程度は貯めていたが、豪遊できるはずもなく、慎ましやかな倹約生活である。
大きく稼げたら自分で宇宙船を……と思った頃もあったが、やはり自家用船は高く、並の仕事では手が届かない。
運送会社などに何十年と務めて、長年愛用した輸送船を譲ってもらうくらいが、一般人の限界だ。
大きく稼ぐには軍功をあげるか、未開拓の惑星を発見、発展させるか、新製品を開発して利益を独占するといった歴史に記されるレベルの活躍が必要だ。
(後は廃棄される船を集めてジャンク船を作るかだけど……)
ウルバーンでやろうとしていた古代船のレストアだが、やはり俺の技術では不足箇所が多い。生産用魔道具もあの時の小型用では到底足りないので、やはり工業生産用が必要となってくる。
などと宇宙への旅に向けたプランに考えが流れていると、ローガンの声に現実へと呼び戻された。
「ほう、確かに美味しいですが、味が弱いですね」
そう言って何やらスパイスを追加している。鹿肉は脂も乗っていて、かなり旨味があるのだが、この世界の食事に慣れた者にとっては物足りないらしい。
俺はシンプルに塩のみで食べている。
「僕の育ったところは、調味料がほとんどなかったから、こっちの料理は味が濃すぎるんだよ」
「そんなものですか。そっちの方が安上がりでよさそうですが、私には物足りなく感じて無理ですね」
俺の前世で蓄えた様々なレシピは、素材の味を活かすものが多い。四川料理やインド、タイなどの香辛料をふんだんに使う料理なら、こちらでも通じるんだろうが、似たような食事も多かった。
味覚の違いから前世の知識チートで、レストランを繁盛させるのは難しそうだ。
デザート類なら前世の物で食い込めるのかもしれないが、俺のレパートリーはそちら方面が疎かった。
「そういえば、ローガンの実家は貿易系の商家だっけ?」
「家は単なる会計士ですよ。父の所属している企業が貿易系ではありますが」
「星系間の輸送を商いにしているんだよね?」
「はい」
「宇宙船の調達とかってどんな感じ?」
と、ローガンに尋ねてみたが、やはり星系間貿易を行う企業でも、宇宙船の購入というのは一筋縄ではいかないらしい。
新造艦を買おうとすれば、何年、何十年の長期計画で予算を組まないと利益がだせず、その際に現在の艦を下取りに出して予算に組み込む必要もあるという。
「個人で星系間を移動できるような船を持つのは宝くじに当たるより難しい幸運が必要でしょう」
「だよね……」
「ただ前例がないわけでもありません」
「え?」
最もあるケースとしては、海賊船の拿捕だ。これでもかなりハードルが高い。まず海賊を見つけて、相手を撃破しないように無力化する必要があるのだ。
当然、海賊船は武装しており、また艦自体が老朽化しているのが普通。色々な船を継ぎ接ぎして作られている事が多いので、打たれ弱いらしい。
海賊船の戦術は、一方的に先手で攻めて、輸送艦の航行能力を奪い、乗り移っての制圧、強奪だ。その初撃で満足な打撃が与えられなければ、近づいてくる事もない。
また海賊船はその行為から常に帝国軍に追われる身の上、逃げに特化した船が多いので、追いつくのも困難。軍は大きく包囲網を作って誘い出し、逃げ場をなくして撃破する戦法が多い。
ただその場合は海賊船を沈める戦い方なので、宇宙船を手に入れる事はできなかった。
「海賊狩りのキラービーが有名ですね」
「え、あれって実話だったの?」
「映画なんかはかなり脚色されていますが、ベースとなるモデルは実在しましたよ」
輸送艦に戦闘機1機を積んでもらい、襲撃してきた海賊船を返り討ちにした物語。海賊船よりも高機動の戦闘機ではあるが、その火力は低い。
そして海賊船自体の攻撃力はかなり高いので、1機で撃破という話はかなり盛っており、現実には不可能だと思っていた。
「キラービーのモデルとなった部隊は企業の私兵で……」
実際は4機編成で、輸送艦に偽装した小型空母だったらしい。海賊被害が増えていた頃、とある企業が航路の確保のために、そうした船を仕立てて海賊狩りを行ったそうだ。
結果として、4機のうち3機は撃墜され、生き残った1人をキラービーとして、海賊を討ち取った功績を大々的に公表し、海賊抑止を狙ったのだ。
その際、海賊船の艦橋部分のみを破壊して、海賊船をほぼ無傷で手に入れる事ができていた。
「結局は、コストが掛かるって話だね」
「そうですね。一攫千金の伝説は、結局のところ、ちゃんと下準備をしてそれなりの投資の上に成り立っています」
『楽して儲けられる訳が無い』と貿易系企業の教訓として、幼い頃から叩き込まれてきたらしい。
何にせよ、話自体は面白かったので、有意義な夕食となった。




