放課後の過ごし方
オールセンの競争心を焚き付けた俺は、自分のための行動を開始する。軍学校で優秀な成績を修めて、希望の配属先を選べる立場になるには、単に魔術師として実力を示すだけでは足りない。
俺が目指すのは宇宙を自由に旅できる立場だ。
そのための航行術も鍛える必要があった。
普通に宇宙空間で旅をするなら、基本的に計器頼りでも問題はないのだが、未開の宇宙などを目指すなら、それだけでは足りない。
恒星の位置を立体的に捉えて、そこから現在地を把握する必要がある。もちろん、その手の計算をしてくれる魔道具も存在していて、基本的にはそれらの機器を扱えれば、問題はない。
しかし、機器が故障する時もあれば、それらを狂わせる空間が存在する可能性もある。そうした状況に対応するためには、個人でもある程度の状況把握をできる技術を習得している必要がある。
この辺は、航海術士の講習で教わる技術なのだが、他のクラスでも学ぶことはできた。
軍学校としては優秀な人材を欲している。
自ら学ぼうとする生徒は、歓迎してくれた。
「便利なものだな、魔法は」
「魔道具を使う方が便利で精度も高いですけどね」
俺はプラネタリウムの様に恒星の配置を立体的に映し出す魔法を起動しながら、魔道具で表示させている恒星の位置と照らし合わせている。
航海術士の教員を捕まえて、航海術を学びながら、恒星の位置などから現在地を把握する術を学んでいる最中だ。
この世界でも宇宙の形は変わりない。ビッグバンに相当する宇宙の始まりから、銀河が生まれその大きな渦の中に数多の恒星、星系が存在している。
宇宙自体も外へと拡張を続け、大きな渦を巻く銀河では、それぞれの恒星がすごいスピードで位置を変えていた。
それでも渦の中心はほぼ変わらないので、前世の記憶の北極星の様に、銀河の中心を軸に現在地を把握するのが基本だ。
ただそれだと中心からの距離しか分からないので、周辺の恒星の構成を調べて、状況を把握していく。
その組み合わせは無数にあって、中には空間自体に歪みもあり、見えたままが正解とも限らない。
それらを補完しつつ、現在地を把握する訓練を行っていくのだ。
その際に魔術師である俺は、天宮図を魔道具なしで表示できるので、データ入力などの手間を省けるため、速度などのメリットがあった。
もちろん、情報の正確性に欠けるとデタラメになる可能性もあるが、それは魔道具を使う場合にも起こり得るし、データ入力のミスも考えられるため、やはり術式を使える事にメリットはある。
現在地で確認できる恒星の位置を視認しながら、術式起動することでかなりの部分は自動的に座標取得してシミュレートできた。
魔道具を作る際にも、こうした座標計算の術式を作る必要があるので、ベースとなる術式がどこかのライブラリーに保存されていて、生まれた時のインプラントで刷り込んであったようだ。
(研究所の魔導士はどこまで想定していたのか。それとも考えナシに、どこまで刷り込めるか容量のテストをしただけか……後者な気がしてきた)
おかげで楽ができる訳だが、少し切なくなる。
刷り込みが行われて15年。その間に術式の最適化が進んで、魔道具の観測機の方が精度も高くなっていた。
また魔道具自体に現在地を特定する機能がついている物も多い。俺が頑張ったところで、最新の魔道具には敵わない。最新の術式を覚え直せば精度を上げられるが、そこまでする必要性もない。
あくまで今習っているのは、魔道具が故障した時の保険。ある程度の精度があれば、最寄りの居住可能惑星にたどり着くくらいはできる。
「なかなか筋がいいな。本格的に授業を受ければ、一端の航海士になれるぞ」
「ありがとうございます。でもまだ魔術師クラスの方にウェイトを置いてますので」
「ま、そりゃそうだな。そっちでも1位なんだろ。でもこっちも興味あるならいつでも来ていいからな。やる気がある奴を育てるのは教師冥利に尽きる」
笑顔で肩を叩く教員に礼をすると、俺は寮へと帰った。
軍学校の生徒はほとんどの場合、寮生活となる。基本的に軍学校は、軍人の育成を行う機関だ。共同生活に馴染ませるために、学生時代から宿舎に入り、決められたルールの中での生活に慣れさせる目的があった。
ごく少数の例外は、皇族などの高位貴族など、軍に入っても従軍する事もない一部だけ。
寮の部屋は4人部屋になっている。その組み合わせは、他の科の生徒から学校側で決められ配属されていた。
軍属は任務によって人員が入れ替わる事も多々あるため、今まで面識の無い者とも共同作戦を行う可能性もある。そんな環境に慣れさせるための措置なので、ケルンなど幼年学校からの知人はいない。
歩兵科のマットは、辺境惑星の兵士の息子で、いかにもといった感じの巨躯をしている。
騎兵科のルイスは、男爵家の嫡男で魔導騎士のパイロットとなるべく勉強しているとのこと。魔導騎士は宇宙でも活動できるパワードスーツで、戦場の花形ともいえる兵科だ。
軍務科のローガンは、会計士の息子で経理など、内務の職種を目指していた。
いずれも二学期に残っただけはあって、やる気は高く、鍛錬や他の科の課外授業、図書館通いなどを行っていて、寮に戻ってくる時間は遅めだ。
「今日は俺が一番か」
魔灯も消されていた部屋に入り、鞄を置く。二段ベッドが2台と、それぞれで使える簡素な机が4台、小さな本棚と貴重品を入れる金庫も備えられている。
ただ寮に持ち込める物はほとんどないので、貴重品と呼べるような物はない。情報端末は登録者の魔力でしか動かせないので、盗まれる事は考えなくても良いし、そもそも軍学校に入る際に配給された品なので、盗まれる心配はない。
ペンダントなどの多少の貴金属の所持は認められているので、その辺を持ち込んだ者が使うのだろうが、同室の中にはいなかったので金庫は常に空の状態だ。
クローゼットを開けて部屋着を取り出すと、制服から着替え、二段ベッドの下の段に潜り込む。幼い頃から鍛錬を続け、食生活にも気をつけていた俺は、マットには及ばないが平均よりは恵まれた体躯に育っている。
顔立ちは可もなく不可もなく、全体的に特徴がなく、印象に残りにくい雰囲気だ。茶に近い金髪にこげ茶の瞳。ヒゲも生え始めてはいるが、濃くはなさそうだ。
幼年学校でも目立つケルンの添え物として影にいたので、モテ期などはなかった。まあ、学校でモテたいとも思わないが。俺はアイネ一筋なのだ。
情報端末にはアイネの写真を忍ばせている。もう外見年齢も追いついてしまったな。
アイネの記憶を宿した水晶は、空間収納に入れてあるので金庫を使うまでもなく、強固な守りの中にあった。
航海術のマニュアルを呼び出し、今日習った事のおさらいをやっていると、歩兵科のマットが帰ってきた。
鍛錬を終えてシャワーも浴びてきたのか、さっぱりとしている。基本無口なマットは、特に挨拶もなく、自分の机へと座った。魔道具の銃のメンテナンスだろう。カチャカチャという音を出し始める。
魔道具の銃も基本的には前世の銃と変わらず、正面に弾を撃ち出すだけなので、照準と合わせておいたり、術式を通す銃身を磨いておくのは、大事な作業だった。
術式にホーミングなどの自動追尾を組み込む事もできるが、消費魔力も上がるし、戦場ではジャミング環境がデフォルトなので、自分で狙って撃つ技術が求められる。
そして狙って撃つためには、まっすぐ飛んでもらわないと困るので、メンテナンスが欠かせない。今日も歩兵科では射撃訓練があったのだろう。完全にばらして、個々の部品を確認し、組み立てるという作業を行っていた。




