オールセンとの対戦
オールセンに魔法の理論を教わる約束をした俺は、早速今後に向けた対策を話し合うことにした。
俺が提供するのは戦闘に関する知識。ウルバーンでの実戦経験もあり、この前のサバイバル学習での経験もある俺は、このクラスでもそれなりに経験を積んだ生徒の1人。
そこを過信すると痛い目を見そうだが、今のところアドバンテージと思っている。
このまま戦闘に不慣れなオールセンと対戦しても、俺はともかくオールセンを簡単には勝負をしたくない強者と見せるのは厳しいかもしれない。
なので簡単な戦闘のレクチャーを行うことにした。
「オールセンの得意なのは魔術具で、戦闘も当然魔術具を使う。この認識に間違いはないよね?」
「う、うん。そうだよ」
「メインウェポンとなりそうなのは、やっぱりそのライターかな」
俺はオールセンの左胸辺りを指さしながら問う。その指摘にオールセンはビクリとする。
「な、な、なんの、事かな?」
「僕は魔力感知にそれなりの自信を持ってるんだよ。君の装備品がそれぞれに魔術具として高度な技術が使われているのは分かる」
俺が感知できている内容を教えていく。魔道具の術式は、魔力に反応して起動する。それは起動に満たない魔力であっても反応を示すとも言えた。
魔力感知にも能動的と受動的があり、発動した魔法を感知するのが受動的で、隠された何かを探す時に能動的な感知が使われる。
俺は基本的に受動的な感知を発動させていて、探知したいモノがあれば能動的に探すため、魔力を薄く飛ばす。
それは受動的に感知している者がいれば感知されてしまうが、魔力に反応するモノがあれば感知する事ができた。
音波探知のソナーの考え方に似ている。
魔術具に薄く魔力を浴びせれば、起動しないまでも魔力回路に合わせて魔力が走り、そこにある術式を浮かび上がらせるので、何に使う魔道具なのかを知ることができた。
それを隠蔽する魔法陣なども存在するが、オールセンはそこまでの対応を行っていない。今まではその必要がなかったのだろう。
「で、でも、その術式を、判断できるなら、魔法の理論も、しっかりと分かってるんじゃ?」
「理解しているというよりは、判断ができるって感覚なんだよ」
感知に使う魔力は属性を薄めたマナに近いもの。それを術式に流すと、起動しなくても発動する魔法の色に染まる。火の玉を生み出す魔道具なら火の魔力、風を起こす魔法なら風の魔力といった具合だ。
後は術式が撃ち出す形か、範囲を指定する形かなど補助する術式を判断して、どんな魔道具かが判明する。
まあ、俺が理解する訳じゃなく、脳裏のライブラリーが勝手に照会して答えを出してくれる感じなのだが、ここは説明が難しい。
「何となく属性が分かって、それをどう使うかっていうのを感知できるから、それならこんな術式だろうって憶測を立ててる感じかな」
「それにしては、正確、だよ。確かに、ボクのライターは、火炎放射の様に、大きな火を出せるんだ」
射出ではなく、継続的に前方へと効力を発揮する噴射の術式で、生み出された火を放つ魔道具。そこに魔力タンクと一度に使える魔力量を高める術式なんかも感じられる。
ただ俺の知識ではそんな大きさで収まるはずがないんだけど、拳銃サイズの魔道具だった。
「僕の知識だと、そんな大きさに収まらないと思うんだけど、反応としてはしっかりと威力のある炎を出せるとは分かる」
「そ、そうかな……パズルを組み立ててる感覚で、隙間をなくしていけば、誰でも作れるよ」
そこが才能なんだが、なかなか自分では実感できないのかもしれない。
「僕は魔道具を作ってこなかったから、その辺を教えてもらえると嬉しいかな。ただ、まずは他のクラスメイトを退けるための対戦プログラムを立てよう」
魔道具の作り方は、一朝一夕で片付く問題じゃないから、落ち着いた時間を確保するために、派手な対戦をしなければならない。
見た目に派手なのは、ライターで火炎放射を軸に戦う事だろう。扇風機と組み合わせて、炎の渦を生み出したりすると、更に派手さを演出できそうだ。
他にも密閉した空気を熱して、熱膨張させる事で小さなクラッカーにして、音なども利用できる。
そうした実戦というよりは、音や光で派手に見せる戦い方をアイデアとして出し合い、一つのエンターテインメントとしてプログラムを組み立てていった。
翌日の昼休み、俺はオールセンから申し込まれるという形で対戦を行うことになった。
前回同様、運動場へと転移して、他の生徒が観客としている中での試合だ。
まずはオールセンがライターを使って大規模な炎を放ってくる。これを土壁を立てる事で防ぎつつ、死角になった状態で移動。
回り込みながら放った氷の矢は、オールセンのマントが生み出した気流により、軌道を逸らされた。
オールセンは、クラッカーをばらまき、ライターで引火。単に空気を封じた玉ではなく、火の術式を仕込んだので、空中で派手に煙と音を出しながら弾ける。
その爆風に押される形で、俺は距離を取った。
「やるね」
「タマイくん、こそ、すごい、よ」
交わす言葉に、周囲の生徒達からもどよめきが起こる。いつもオドオドしているオールセンが、ここまで戦えるとは思っていなかったのだろう。
戦闘再開、俺が術式で電撃を放てば、オールセンは避雷針を立てて、それを誘導して流される。続けてオールセンの扇風機が地面の砂を巻き上げて、俺の視界を覆っていく。
その後、その風に乗せてライターの炎を放つと、渦を巻く炎が俺に迫るが、視界を奪われている俺は、熱の接近でそれを察知。地面に伏せて何とかやり過ごす。
しかし、オールセンの追撃は続く。空へと投げた杭が、加速しながら地面へと降り注ぐ。地に伏せた状態の俺は回避不可能。
風の術式で、自分中心に空気を爆発させて、杭の勢いを削いで凌ぐ。
お?
プログラムで進行してきたここまでと違う箇所に気づいた。防いだ杭が誘電性のモノを使っている。そう気づいた時、避雷針で逸らしたと見せて、電撃を蓄えていた魔道具から電撃が放たれる。
周囲に散らばった杭をたどって、包囲するように電撃が迫ってきた。これはアレンジしてきたね。
俺自身が放った派手な電撃が、俺を中心に暴れまわる。防御結界では無力化しきれずに、直撃された。さすが俺の魔力。
しかし、電撃というのは電子の動き。きっちりと絶縁してやれば止められる。魔力を少なく絶縁を生み出すには、真空状態を作るのが一番だ。
風の術式で自分の周囲の空気と、外の空気に隙間を作り、電流を通す媒介をなくすと、真空を越えて電撃は届かなかった。
パリパリと紫電が走る中、俺は攻撃に転じる。光の術式を起動して、レーザーを発射した。光は真空状態でも直進できる。しかし、鏡で反射させる事が可能だった。
オールセンはこちらの攻撃が分かっていたかのように、大きめの鏡の盾を展開させてこれを俺に返そうとしている。
これは俺も予測できていたので、光を曲げて盾を迂回。オールセンの肩を撃ち抜いた。プリズムを氷で生成して、光を屈折させたのだ。
「うわっ、あっ、あつっ」
肩への痛みで体勢を崩すオールセンに、氷の塊をプレゼント。患部を冷やしつつ、押しつぶす事で、戦闘不能へと追いやった。
「ちゃんと勝つ気があったみたいで何より」
終盤、プログラムを変えて、俺を倒しに来たのは予定外ではあったが、予想の範囲内。俺に勝ちを譲らない姿勢は、今後を考えると悪くない。
俺は審判役の教員に、勝利宣言を受けつつ、オールセンを押しつぶす氷を溶かしていった。




