クラス内の順位
俺は教壇に近い最前列の席に座る。さすがに正面は威圧感がありそうなので、少し扉から遠い側だ。
侯爵の息子は教壇正面の少し離れた教員を見下ろせる席を取ったみたいだ。その後方に息子に絡んでいた令嬢。より見下ろせる場所を選んだみたいだな。
侯爵の息子の魔法に自らの魔法を隠して放った奴は、教壇からかなり離れた窓際の席。
無関心を決め込んでいた奴は扉に近い3列目。
オドオドと周囲を気にしていた奴は、扉寄りの最後列に座った。
全体を見渡すとかなりバラけた配置で、人気のない講義みたいな状態になっている。
「さて、これから約3年、クラスメイトとして過ごしてもらう訳だが、別に仲良し小好しになれとは言わない」
担任は教壇に手をつきながら話し始める。
「どちらかと言えばライバルとして、切磋琢磨して欲しい」
競争心を煽って、能力を高めあってもらいたい方針らしい。
「なので、明確にクラス内でランク付けを行う」
バンと黒板を叩くと、右端の方につらつらっと名前が並んでいく。最上位に俺の名前があるのが恨めしい。
最下位はやっぱり侯爵の息子だな。後は名前が分からないのでよく分からなかった。
「下が最高位か」
「そんな訳無いだろう。一番上が当然一番優秀な奴だ」
「なんだと、この俺様が最下位と言うのか! 他の奴だって何もできなかっただろうが」
「その理由が分からないから最下位なんだよ。安心しろ、魔力量だけならそこそこの順位にはなる。制御を覚えればすぐに順位を上げられるだろう」
「偉そうに言うな」
「それが教師の務めだからな。さて、では一番から自己紹介していけ」
そう言って担任は俺の方を見た。順位をつけたんだから顔と名前は一致している。仕方なく俺は立ち上がって自己紹介する。
「ユーゴ・タマイです。ウルバーン星で推薦を受けて軍学校に来ました。番付されてるので、隠す必要もないと思いますが、それなりの魔力と術式を使えます。実戦的な方かとは思います」
侯爵の息子はフンと鼻を鳴らしてこちらを見下ろしてくるが、口を開くことはなかった。不意打ちで攻撃魔法をぶつけてくるくらいはあり得るかと思ったが、そこまで無茶苦茶ではなかったらしい。
俺はそのまま着席する。
「じゃあ、次はオールセン」
「はは、はいっ」
呼ばれて立ち上がったのは、オドオドと周囲を見渡して怯えていた男だった。特に担任へ仕掛けた様子もなかったのだが、俺では感知できないレベルで仕掛けていたのだろうか。
「ニック・オールセン、です。え、えっと、魔術技士を目指して、ます。なので、その、強くは、ない、です」
途切れ途切れに聞き取りにくい声で言った。どうやら魔道具を作る技士を目指しているらしい。道理で魔道具を色々と持ってる反応が出ていた訳だ。
それも護身用の防御結界などではなく、加熱用のコンロや遠見のレンズ、魔導式のノコギリといった雑貨的な物ばかりで戦闘向きの物はなかった。
まあ、武器は感知されない様に隠蔽している可能性は十分に考えられるけど。
身につけている物が自作かどうかまでは分からないが、担任が番付上位にするほどの技量か知識があるのだろう。
「次、メーテルア」
「ん、リア・メーテルア……」
始終無関心に見えたそいつは、立ち上がる事もなく名前を言っただけで終わった。無愛想というか、マイペースというか、必要最低限の関わり合いしかしたくないってオーラが出ているな。
声のトーンから少女だとは思うが、かなり幼く見えるので変声前の少年かもしれない。
それからも順番に自己紹介をしていくが、特に気になる様な存在はいなかった。あわよくば俺と同じく帝国に流れ着いた研究所の子供がいるかと期待していたが、そんな事はなかった。
ちなみにヘンドリックの魔法に自分の魔法を隠して放っていた奴は、18番目とさほど順位は高くなかった。
ヘンドリックに突っかかっていた令嬢は、メノン男爵家の長女で、メリッサと言うらしい。男爵家で侯爵家の息子にあれだけ絡んでいたら、不敬で罰せられても仕方ないと思うのだが、ヘンドリックは特に騒ぐつもりはないようだ。
メリッサが25番手だった。
周囲に魔術師がおらず、才能を持て囃されてきた様な貴族出身の生徒は順位が低い傾向が出ていた。
上位の者は平民が多く、魔法を自力で使いながら生きてきた連中だと思われる。そういう者の方が制御が上手く、自分なりに使い方を探りながら生きてきたのだろう。
表立っての攻撃はせずに、探る様に担任に仕掛けていた。2番手のニックなどは、魔道具により担任の周辺の魔力を調査していた。何らかのセンサーに掛かっていた感触はあったが、どこまで情報を取られたのかは分からない。
3番手のリアは何もしていないと思っていたのだが、その順位的に何らかの仕掛けは行っていたのだろう。それを探らせない技術はニックよりも警戒しておいた方が良さそうに思う。
「さて、この順位はこれからの授業やテストの成績によって上下するが、より明確に上位を狙うなら直接対戦を行ってもよい。ただその際は軍学校の教員に審判を依頼することを条件とする」
奇襲で勝ったとしても認められないという事らしい。実戦を考えれば、奇襲ありの方が正しいと思うのだが、教員が見ていない所で事故があるといけないという事だろう。
「基本的に下位の者から申し込みを行い、一定期間内の回数制限に達していない上位者は対戦を受けてもらう。どうしても受けられない事情があれば、審判の教員に告げるように。もちろん、大した理由もなく拒み続けているようなら、順位は下がるから注意しろ」
その後も細かいルールが担任から話されたが、大まかなルールとしては、下位の者が上位の者へ挑戦し、上位者は基本的に拒否権はないと。
トップの俺は絶えず狙われそうだが、1週間での最低対戦数を上回れば、拒否も可能になるらしい。
仕掛けられる側も防衛に成功すれば加点があり、順位の変動もありえるので、逃げ続けるのは得策ではないと説明された。
そうやって生徒間で切磋琢磨させる事でより実戦能力に長けた人材を育成するという狙いか。
「あんまり飛び級で上を狙っても良い事はないぞ。得られる点は多いかもしれないが、撃退されると減点だからな」
俺に向かって魔力による監視を見せるヘンドリックに対して、担任は釘を刺してくれるがあまり意味はないだろう。
一度は実力を示さないと、本人は納得しないはず。そして最下位を撃退したとしても、あいつは最下位だしとより上位の者が襲ってくる可能性はある。
何にしても狙われる立場で、より多くの対戦を申し込まれる可能性は高いと見積もる。新学期早々に登校拒否したくなってくるな。
「それでは3年間の学生生活を堪能してください」
担任はそう言って締めくくり、教室を出ていく。俺はどうしたものか。まずは図書館かな。帝国の魔術について調べるなら、この学校で一番知識が集まってる場所に行くのは必然。
ただその前に用事を済ませないといけないらしい。
「おい、ユーゴ・タマイと言ったな。お前に対戦を申し込む!」
振り返るとそこには予想通りにヘンドリックが……居らず、メリッサがいた。まあ、ヘンドリックが目立ってはいたが、それの相手をしていたメリッサも大概、喧嘩っ早そうだったから仕掛けてくる可能性はあったか。
「まあ、僕には拒否権がないんだよね」
最初の1回目なので、当然規定回数に引っかかる事もなく、断るに足りる理由も見当たらない。であるなら、ある程度は実力差を見せつけて、無用な対戦を避ける様にプレッシャーを与えておくべきか。
教室の生徒はまだほとんど動いておらず、この対戦に注目している。順位の上位と下位にどれだけの差があるのか、それを知りたいと思う面もあるだろう。
「審判役の教員を呼んでよ」




