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とある転生者の宇宙放浪記  作者: 結城明日嘩
青年期

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五日目の夜

 普段の練習よりも魔力を大量に消費したケルンは、満足気に寝入ってしまった。

 まだ武術家として魔力の使い方を感じ始めたばかりのケルンは、その制御も甘く、魔力量も少ない。ゲニスケフの領域に達するにも、かなりの修練を必要とするだろう。


 魔力量を伸ばすには、筋力を伸ばすように己の限界まで使用して、魔力回路を一度壊し、筋繊維を修復するように、魔力回路を修復してやるのが一般的だ。

 魔導具の起動さえできれば、そこまでの魔力量は求められないが、武術家や魔術師として魔力を直接使用する術者にとっては、その容量の差は力量の差に直結する。


 魔力を制御しつつ、正しく限界へと挑戦し、修復させて伸ばす。その繰り返しが大事なのだ。

 ただ筋力を伸ばすのに筋肉痛が避けて通れないのと同様に、魔力を伸ばす際も魔力痛というのが存在した。

 損傷した魔力回路に魔力が流れると、神経が刺激されてピリピリとした痛みがある。損傷度合いが大きいほど痛みがあるので、途中で挫折する人も多い。


 ちなみにこの世界の筋肉痛は、治癒魔法で治せるが、そうすると元の状態に戻るので筋力も伸びる前に戻ってしまう。

 なので正しく筋力を伸ばそうとすると、自己修復能力を向上させる魔法を使わないといけないのだが、それをちゃんと理解している人は少なかった。


 なので軍隊などでは、練習後の治癒魔法は傷に限るなど、筋肉痛を治さない通達が出ている。人体の仕組みまでは探求されておらず、経験則で治癒魔法をかけると力が伸びないと伝えられているからだ。

 ケルンには自己修復を促進する魔法を掛けて、寝床に放置。俺が見張りをすることにする。




 魔法を使って手合わせをしたが、あの程度なら元々観測しているか、すぐ近くにいなければ魔力を感知される事はない。

 もっと派手な地形を変えるような魔法だと、さすがにバレるだろうが、個人攻撃用の術式を遠距離で検知するのは難しい。


 それは魔法が発動していなくても、自然界にも魔力は存在するので、距離が離れれば離れるほど、自然界の魔力か魔法による魔力かが判別しにくくなるためだ。


 そのため、こちらからあの4人組を観測する事も無理となっている。どこに行って何をしているか、気にならないといったら嘘になるが、己の分を越えて好奇心で行動していて、気づいたら死地にいたなんて笑えない。


 夜になり、またタカアシガニが闊歩かっぽする時間へと突入。カニは旨いが、アレはどうなんだろう。足の一本でも落とせれば、普通のカニの何十匹、何百匹に相当するのか。

 重力が地球の0.7〜0.8倍くらいの惑星とは言え、あれだけの巨体を支えるにはしっかりと筋力があるはず。かなり身は締まっているだろう。

 反面、胴体部分は軽いかもしれない。ミソとか詰まってないのかも。いや、体を動かすのに必要ならミソの量は変わらないか。


 そういえば巨体を持つ生物には複数の脳を持つ奴もいるとか聞いたことがあるな。脳が一つだと、末端に指令が届くまでに時間がかかり過ぎてまともに歩けなくなるとか。

 そのため、関節などに判断を行う神経の塊みたいなのが、脳の代わりを行うとかなんとか。

 そうすると足の中にもミソがあったりする?


「脚一本くらいもげないかなぁ」

「ぶっそうな事を考えているね」


 その声に振り返ると、中年の男性が立っている。ジャージの様な活動しやすい服装で、中肉中背。鍛えてるってほどではないけど、あまり隙は感じない佇まいだ。


「娯楽が食くらいしかないですからね」

「そうでもないだろ。あんな派手に打ち合っといて」


 中年男は苦笑しながら告げてくる。


「イレギュラーが発生したから、今回のサバイバル学習は終了だ」

「単位は?」

「これまでの内容で審査されるが……まあ、魔法を使った減点入れても十分だよ」


 まあ、ここで不可と言われて、じゃあもっと粘るとごねられても困るから、教員としてはそんな評価をするだろう。

 実際に戻ってどうなるかは別問題だが、ここでごねる方が減点になりそうだ。


「そうですか。でも、無事に脱出できるんですか?」

「連中も帝国は敵に回せないだろう。私達が降下してくる間もパッシブのみで、レーダーを向ける事すらしてなかったよ」


 降下するポイントを見定めて一網打尽にするっていう線もなくはないが、それならこんな悠長に会話できてるはずもない。


「じゃあ、ケルンを運んできますね」




 ぐっすりと寝たままのケルンを抱えて、教員達の船へと乗り込む。全く起きる気配を見せないケルンの様子で、警戒する対象が近くにいないことが分かる。


「ケルンをレーダーとして積み込めたら、かなり高性能になりそうだな」

「人体を使った兵器開発は認められないよ」


 表向きはそうなっているけど、実際はどうなんだろう。地球で読んだSF小説なんかだと、人の脳をロボットにぶちこんで操縦させるとか、割とある。魔法科学でも似たような事はできそうだ。

 クローンの代わりにホムンクルスを使って、生体兵器とかの開発が行われていても不思議はない。


 まあ、俺とは縁なく開発しててくれてる分にはいいんだが……自身がかなりイレギュラーな成り立ちだけに、この広い宇宙でどれだけの極秘開発が行われているのかは気になる所だ。


「君も休むと良い。母船に戻れば、そのまま休眠ポッドに入れておくよ」

「はい、分かりました」


 変な連中を見つけてから、それなりに緊張を強いられて疲労はある。お言葉に甘えてさっさと寝ることにした。

 休眠カプセルは生命維持機能をもった魔道具で管理された安眠装置だ。長距離移動で時間が掛かるような場合に、起きている乗員を増やすと諸々の損耗率が上がるので、役目のない者は眠らせて運ぶようになっている。


 辺境の惑星から帝国本星までは丸3日はかかるので、寝てていいならその方が楽だ。

 結果、俺達のサバイバル学習は5日で終わる事になる。往復で6日掛かってるから、移動の時間の方が長かったな。




 軍学校の宿舎に戻った俺達は、サバイバル学習のレポートを書いていく。あまり現地生物の生態調査などはできなかったので、食レポみたいになってしまった。

 そういえば食材が幾つか空間収納に入ったままだな。これは一緒に提出しちゃう方が良いかな。検疫とかやらないとだろうし。


 当初の予定より1週間短くなった分、追加の課題とか出るかと思ったが、そんな事もなくレポートも無事受領して貰えたので、多分単位は大丈夫だろう。


 ケルンは魔力痛を数日引きずり、泣きながらレポートを書いていた。俺には報告していない生物との遭遇戦もあったらしく、現地生物での訓練カリキュラムの提案といった感じでまとめていた。

 脳筋かと思っていたが、体を動かす事を真剣に考えているらしく、技術向上に余念がない。アスリート気質なのだなと評価を改める。


 ただ魔力痛が治まると、手合わせをせがんでくるので定期的に魔力を使わせて、魔力痛へと追い込む作業を繰り返す羽目にはなった。

 知的な分析ができるのに、行動は子供なんだよなぁ。精神年齢を引き上げるにはどうしたらよいものか。


 とはいえケルンに勧められたサバイバル学習のおかげか、元々俺を逃がすつもりはなかったのか、無事に夏休みの選定を終えて、軍学校に残れることが確定。

 本格的な学園生活のスタートとなる。

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