部外者達
降下してきたであろう4人組は、一定の速度で原生林の奥へと向かっていく。まだマッピングしていない範囲なので、そこに何があるのかは予測できない。
ケルンに付けているマーカーをこいつらにも付けようか迷う。マーカーを付けるという事は、こちらへも魔力の経路ができるという事。逆探知される危険があった。
ただこいつらを見失うのも怖い。
本来なら衛星軌道上に待機している教員に報告して終わりにしたかったが、こちらからの魔力リンクが邪魔されているらしく連絡が取れない。
もっと強力な救難信号などを発すれば、邪魔している術式を越えて発信できるだろうが、4人組やそれが乗ってきたであろう船にも伝わる。
「そもそもこんなジャマーが発動してたら、監視船の方も行動を開始しているか?」
俺達をモニターしているはずだから、それを受信できなくなれば、相応の対応を行ってくれるだろう。
「となると、アクセスしてくるのは、俺達の拠点かな」
地上を監視できなくなり、直接降下してくるポイントとして、拠点にしている岩山は分かりやすい。
俺は観察を諦めて、拠点へと戻る事にした。
「で、どんなヤツなんだ?」
「分からないよ。姿は見てないしね」
光学迷彩というのもあったけど、そもそも視認できる距離まで近づけていない。魔力の残滓の様なものを肌で感じて、走査して見つけただけなのだ。
「でもいい装備ではあった」
「そんなの分かるのか?」
「魔導具の術式にも格があるからね。軍隊並のレベルじゃないかな」
「軍隊!? 帝国軍なのか?」
「いや、一昔前のモノだから払い下げ品だと思う」
軍事利用されていた装備が型落ちになった際に、民間に払い下げられる事がある。光学迷彩とかは犯罪にも利用されやすいから、管理を厳しくしているはずだが、金策に困った貴族が闇ルートに流すのは止められないらしい。
「お前、よくそんな事、知ってるな」
「まあ、今の目標は軍人だからね」
ウルバーンを出る際に結ばされた契約で、帝国軍に所属するのはほぼ確定。後は自分の望む宇宙を自由に行動できる権利を得るために、少しでも点数を稼ぐ必要がある。
様々な装備に通じておく事も、宇宙を飛び回る任務につきやすい偵察部隊への所属を狙っているからだ。
「じゃあ、相手は何者だ?」
「そうだね、考えられるのは……」
拠点に戻ってくる間、相手の想定には思考を巡らせていた。払い下げ品とはいえ、一級の品を扱えるのはそれなりの組織力が必要だ。
考えられるのは、有力貴族か星系を股にかける犯罪組織。辺境の惑星に何を求めているかを考えると、貴族の方が怪しいか。
帝国所有とはいえ、綿密な調査が行われたかは不明。居住可能惑星ではあるが、帝国本星からかなり距離があり、目立ったレア鉱石の産出もないとなれば、開発されないケースも多い。
特にこの惑星はかなり独特な生態系をしているみたいだから、無理に開発するよりも保護しておこうとなっていそうだ。
そんな惑星に求めるのは、生物だろう。希少な生物というのは、好事家の間で取り引きされる事も多い。
ただそれよりも可能性が高いのは薬物だ。主に幻覚作用のあるような、中毒性のある心身に異常をきたすようなモノ。
しかし、この世界では治癒魔法があるので、中毒患者も治せてしまう。そのため、麻薬などを規制していない。
なのでより強い効能を求め、一瞬でトリップできるようなかなりヤバい薬物を求める傾向が強い。あまり強いと治癒する前に倒れそうだが、それでも求める者はいるらしい。
錬金術で錬成するモノは多いが、より好まれるのは天然物。複雑な効果が重なって、錬成した物では出せない風情があるとか。
俺は前世の記憶があるので、どうしても忌避感が拭えないが、貴族の中には嗜みとする風潮すらあったりする。
そのため、貴族にとって他では提供されない薬物を持っているというのが一つのステータスにすらなっているのだ。
そして人の手が入っていない未開拓な惑星というのは、そうした他では手に入らない薬物の原料が採れたりする。
貴族直属の密偵部隊が出張ってきても不思議はない。
「ケルンの家はどうなんだ?」
「家は軍閥に属してるから、そっち系統はあんまりだな。汗を流している方が性に合ってる」
「さすが脳筋。確かに事前情報だと、内務閥や外交閥の方が、その手の薬物を集めてるみたいだったな」
嗜好品を手土産に融通を利かせてもらったりは、交渉の基本でもある。高級な酒、タバコ、菓子などに並んで、幻覚作用を持つ薬物がもてはやされる。
「まあ、そんな訳で貴族子飼いのプロ達が仕事をしてるとすれば、俺達学生がどうこうできるもんじゃないからな。接触しないように離れているのが得策な訳だ」
「ううーむ。折角のサバイバル学習なのに水を差された感じだな」
「仕方ないさ。予想外の出来事に対応するのも、サバイバルの一環と思うしかない」
それに今日はしっかりと鹿肉をゲットしているからな。ケルンも満足の一品が作れるだろう。
「目的地も決まってるみたいだし、2、3日の辛抱さ」
「後でロッドに付き合えよ」
「仕方ないね」
鹿肉のステーキを夕食として堪能しつつ、ケルンの方は何をしていたのかを聞く。
ケルンの担当は原生林のマップ埋めなので、原生林の中を適当に探索しつつ、どんな生物がいるか、その生息域はどの程度かを観察してもらっている。
「やっぱり虫っぽいのは種類が多いな。戦いに長けてそうな特異な手を持つヤツとか」
地球でも虫の姿は千差万別。環境に適応するように進化して、多種多様な姿を持つものが多い。この惑星でもそうした一芸に特化した様な不思議な姿の虫がいるらしい。
「手が網状に広がって獲物を捕まえるヤツとか、紐の様になって相手を絡め取るヤツとか、相手にすると動きが予測しにくいヤツがいたな」
「そういうヤツとの接近戦は避けたいところだな」
「いい練習相手になってくれそうだぜ」
「無謀な事はやめとけよ。いつでも退路を確保しておくのは、優秀な指揮官の務めだからな」
「分かってるって。確実に倒せるヤツにしか手はださねぇよ」
この惑星の生態は過酷だ。地球の白亜紀、恐竜が跋扈していた頃よりも多様性に富んでいそうだ。あのタカアシガニが頂点としても、あのサイズが生存できるだけの餌もいるという事になる。
ノミっぽい丸みのある影だけが餌という訳じゃないだろう。草食の生物、それを捕食する生物。地球よりも全体的に大きいのは、重力が小さいからか。
「確かに多種多様な敵と戦うにはいい惑星なのかもしれないけどね」
「侵入者から離れてたら戦っててもいいんじゃね?」
「この惑星で仕事をしている事自体を秘密にしたい人達だと、この惑星にいると知られただけで抹殺対象にされるかも知れない……」
「それって、上の人達は大丈夫なのか?」
教員達の監視船、その監視をかい潜ってこの惑星に降りるより、確実に黙らせて降りてくる方が確実だ。
ただ軍学校は帝国の権威の象徴。そこに手を出すというのは、かなりのリスクだ。バレれば雇い主自体が潰される。
「帝国全体を敵に回す覚悟がなければ大丈夫でしょ」
帝国に所属する貴族であればもちろん、犯罪組織だったとしても、帝国に目をつけられて本気で潰しにかかられたら逃げおおせるものじゃないだろう。
少なくとも帝国圏内には居られない。
「でも惑星に降りてる生徒なら、現地の生物にやられる可能性もあるからね」
「事故死で片付けられるのか……大人って怖いな」
こうやって大人がやりそうな事がつらつらと出てくるのは、俺が一度大人になってたからなんだろうな。
もしかしたら、この世界だとそこまで酷くないかもしれないし、逆にもっと酷く、帝国の権威すら無視して教員を殺せる可能性もある。
「だから僕にできるのは、目立たないように過ごしてやり過ごすって事かな」




