サバイバル学習
俺は幼年学校に通いながら、当然のように分析も行われた。それによって胎児のうちに魔術に関する記憶水晶を埋め込み、それを元に人格形成が行われた結果、高度な術式を使いこなせる様になっていると考えられていた。
分析結果を全て俺に開示しているとも思えないが、魂の憑依までは分析できていないとは思う。胎児のうちに記憶水晶の移植手術を行うというだけで、かなり非人道的だしな。
もしかすると幼い頃より薬物投与で魔力量の底上げを計っていたのも何らかの痕跡くらいは残っている可能性もある。
ただ俺をバラしてサンプルを採っても得られる情報は少ないと判断して、人体兵器としての運用を考えているってところかな。
俺自身、俺に施された人体改造の全てを知っている訳でもないので、説明を求められても困るしな。
とりあえずGPSの様に居場所を特定できる魔道具をつけられて、自由な行動をさせてもらっている。
「で、サバイバル学習って何をするんだ?」
「生き残る!」
ケルンの返答はシンプルだった。生存術だから、そういう技能というか知識を試される課外学習なのだろう。
「どっか未開の惑星に送り込まれて、そこで2週間生き延びればクリアだ!」
「おいおい」
「もちろん、担当者が監視していて、ダメだと思ったら救助してくれるから大丈夫だ!」
まあ、軍学校に入学してくるのは貴族の子弟も多いので、安全確保はやっているか。しかし、授業で生存術とか習ってない気がするんだが、講習もなしにいきなり未開の惑星に送り込むとか無謀すぎないか?
「で、これを授与しよう」
「ん、何だこれは」
「知らないのか? 記憶水晶だ」
「それは見て分かる。何が入ってるのかって事だ」
「もちろん、サバイバル学習の注意事項だ。これを正しく行えれば、クリアは簡単だ!」
「本当かよ……中身を見たのか?」
「俺は武を提供し、お前は知を提供する。ギブ・アンド・テイクだ」
丸投げかよっ。
お貴族様であるケルンは、人を使うことを何とも思っていない。これだからボンボンはと思いながらも、裏表もない態度なので不思議と腹も立ちにくい。
やはりどこの者とも知れない俺という存在は、幼年学校に入った当初、どうしても浮いていた。貴族からは平民風情と思われていたし、庶民からは変に教養のある平民とは思えない子供だったからだ。
そんな中で平然と近づいてきたのがケルンであり、俺が魔法を使えると知ると是非見せろと絡み始めた。
ロッドの訓練中にこっそり身体強化を使って楽をしていたら、それを見つけて勝負を挑んできて、魔法を切ってやり合ったたら、そうじゃない、本気を出せと身体強化を迫ってきた。
その頃からロッドの名手になることを望んでいたケルンは、まともにやり合える相手を探していた。しかし、同年代では相手にならず、年上との勝負となるとリーチの差があって、普通の練習とは言い難い。
そんな折りに、自分と同じくらいの背格好で正面から打ち合える相手を見つけたので、これを逃すまいとしつこく食い下がってきたのだ。
ちなみに、公式のロッド戦では身体強化を含む魔法の使用は禁止されているので、俺がトップを目指すことはない。
それもまたケルンにとっては都合が良かった。
結果、何度も絡まれ、練習に付き合い、終わった後も、家に招かれたりするうちに、すっかり友達扱いになっていく。
ケルンに連れ回される内に、貴族にも庶民グループにも認められるようになって受け入れられた。
ケルンとしては自分がやりたい事に真っ直ぐなだけなのだが、それに巻き込まれるだけで輪が広がっていく。何とも得な性格をしていた。
そんなケルンから渡されたサバイバルマニュアル。俺が読んでおくしかないのだろう。なんだかんだ言いながら、ケルンに巻き込まれて遊び回るのは楽しかったのだ。
サバイバル学習の当日。帝国本星から宇宙船に乗り、転移して辺境の惑星へ。ある程度の装備が積まれた脱出艇で、惑星に降下した所からサバイバルは始まる。
装備には、ナイフやロープ、寝袋や何食分かの食料など、実際に脱出艇に積まれていそうな品々が詰め込まれていた。
どうしてもウルバーンに不時着した時を思い出すが、隣にいるのは可憐なアイネではなく、ワンパク青年のケルンだ。
着陸した地点も砂漠ではなく、原生林と思われる場所。木々が立ち並び、ある程度見通しはきくが、死角も多く何か潜んでいる可能性もある。
「まずは探検だな!」
「バカ、拠点の確保だよ」
脱出艇は不時着というよりは、軟着陸という感じで、故障もなく装備品も不足はない。その代わり、生産用魔道具の様なオールマイティな便利道具もなかった。
そして魔法の使用も減点対象とされる。計測器に探知されないように離れて使用すれば……と思わなくもないが、脱出艇だけじゃなく、軌道上からも監視されてたらアウトだ。
まあ、サバイバル技術の習得を目指した学習で、魔法でなんでもアリだと楽すぎる。魔法を封じられた場合にどうするか、というのもあるのだろう。
「脱出艇の周辺を接近する獣なんかが分かりやすいように、下草などを減らそう」
「なるほど!」
ケルンのいい所は、納得できる理由を告げれば、労働を厭わない所だな。貴族の坊ちゃんだと嫌なことはしないとワガママを通そうとする輩も多いが、そういう事はない。
備え付けのサバイバルキットから、ナイフを取り出して下草を刈っていく。魔法が使えたら、下草を錬成して、食材に加工できるんたが、今は単なるゴミにしかならない。
一通りの作業を終えて、次のステップだ。
「次は水源の確保と薪拾いだな」
「探検だな!」
「あまり脱出艇から離れすぎないようにな」
水を確保できれば、ろ過装置は備え付けがあるので、腹を壊す心配はない……はず。魔道具のランタンなどもあるので、灯りは確保できているのも、サバイバルという意味では、結構甘い設定ではある。
あくまで便利な魔道具や魔法を制限した上で、生活できるか、忍耐力を問うための課外学習と言うことだろう。
脱出艇までのルートを確保しながら林の中へと分け入っていく。木に目印を刻みつつ、周囲の気配を確認しておく。
「生き物の気配は、鳥とか小動物だな」
ロッドの訓練を欠かさないケルンは、気配察知を得意としていた。まさに野生児である。その分、手綱を握っておかないと、どこに飛び出すか分からない。
「肉食系はいないか?」
「隠すのが上手いヤツがいなければ……だが」
本能に忠実な分、警戒心も強いのは良いことだ。下手な慢心はしない。
俺はその隣で水の気配を探る。この世界では水の魔力や精霊を感知する事ができるので、水源を探すのは比較的容易だ。
これは魔法の使用には当たらないしな。
「左手、300m先に湧き水があるな」
「おお、了解。獣の痕跡を探す」
水場には動物が集まる。それは肉食、草食変わらない。その足跡や草の踏まれ具合などで、どれだけの獣がいるかを確認できる。
足音を忍ばせ、ゆっくりと水源に近づいていく。
「でかいな……」
「爬虫類系かな、ワニとか、オオトカゲとか」
足跡を見つけてそれを確認する。体を引きずった跡や尻尾の感じ、体毛が落ちてない事から、哺乳類ではなさそうだ。
そこまで鬱蒼と茂っている訳ではないので、日光も降り注ぎ、そこまで寒くはないので、爬虫類でも問題なく行動できるのだろう。
ただ足跡の大きさから結構、大物である可能性が高かった。惑星ごとに生態系も違うからあまり決めてかかるのも危険か。
「恐竜とかいるかな、強いかな」
「そこまで大きくはないけど……」
ラプトルクラスの方が、人間としては危険かも知れないが。一応、四足歩行で腹を擦った跡から手足は短そうではある。
「とりあえず、水を汲むから周囲を警戒して」
「了解」




