軍学校への入学
15歳になりました。
帝国の本星へと送られた俺だったが、そのまま軍へ編入される事はなく、学校へと入れられる事になった。
10歳で戦闘面で十分な能力があるとしても、軍服や装備類を始め、様々な事柄で体格が問題となるからだ。
なので当たり障りのない幼年学校へと放り込まれた。俺としても幼い外見で目立つのは避けたいところだったので、この対応は助かっている。
基本的な算数はもちろん、国語についても脳裏に刻まれた知識で問題がなかった。社会についてはとても助かった。この世界の歴史や帝国社会のあり方など、これから役に立ちそうな知識を得られた。
帝国は皇帝を中心とした貴族社会である。爵位の呼び方などは共通しているようで、公爵家が皇族の分家筋、侯爵が内務や広い領地を持つ社会の中心。伯爵家が星系持ちの領主。
子爵、男爵は領地を持たない社会の役職員といった感じだ。
商人などで一定の功績を収めれば、男爵位を授かる事もあり、そこから這い上がって子爵になれるのは極々一部。
強いて言うなら辺境を開拓し、星系持ちとなる事で陞爵されるケースなどが、比較的行われる。ただ男爵の場合は、子爵となり管理を任されるが、領地自体は伯爵や侯爵へと召し上げられる形となる。
俺が不時着したウルバーン星系もそうした陞爵を受けた子爵が管理をする伯爵領だったらしい。
そうして未知の空域を探索し、新たな星系を発見、統治するのが庶民レベルで望む大きな夢というところ。
商人で財をなし、未知の星系を開拓し、貴族へと加わる。そうしたサクセスストーリーを描いたドラマが図書室に多く残されていた。
現皇帝エバーミン・デルノート・エステロアは、第61代とされており、王国として建国されたのは今から千年ほど前とされていた。
元々は辺境のイチ星系だったエステロアを中心に、周辺の星系を平定。帝国として確固たる地位を築き上げていった歴史もまた、多くのドラマなどで語られている。
一度成人して一生を過ごし、転生した俺だったが、こうして学びの機会を得るというのは、思っていた以上に楽しかった。
子供の頃は暗記暗記で知識を詰め込んでいたが、一度社会に揉まれて生きた経験を持って、再び勉学を行うと、新たな発見が多々出てくるもので、それが面白かった。
そして、この世界では理科の代わりに魔法を勉強する。火の燃焼を学ぶ代わりに、火の術式を使用して着火する仕組みを習っていくのだ。
風が吹くのは気圧の差ではなく、風の精霊が舞うから。地震はプレートの引き込みで起こるのではなく、土の精霊の仕業。
全ての科学が魔法で説明される世界というのもまた面白かった。
そうやって改めてこの世界の理を学びつつ齢を重ねて、15歳となって軍学校へと入学する事になる。
帝国では貴族の子弟や軍人を目指す者、身体能力や魔法能力に長けたものなどを、率先して軍学校へと招き入れ、教育を施している。
軍学校が最高の教育機関として存在した。
そこから軍人になる他、貴族として領地経営を学んだり、あるいは宇宙を飛び回る商人になったり、政府高官となる者を排出している。
逆に軍学校に所属せずに成功を収める者というのは、かなり稀な存在であった。それだけ優秀な人材が集まってくるのだ。
中でも辺境の星系で優秀な成績を修めた者が集められる帝国本星の中央学府は、エリート輩出校として、卒業するだけで将来が約束されるような学舎である。
「まあ、ついていけなくて都落ちする生徒も多数いるらしいけど」
玉石混交で集められ、篩にかけていくスタイル。
「そんな事言って、全然そんな心配してないだろ、ユーゴは」
俺の肩を叩きながら話しかけてきたのは、幼年学校で知り合った伯爵の息子ケルン・ルーデリッヒだ。三男で家督を継ぐ可能性は低いので、軍属となって功績を上げると息巻いている。
身体能力が高く、明るくカリスマ性もあり、クラスのリーダー格であった。
俺は極力目立たないように彼には近づかないように避けていたのだが、その態度こそが彼を引き寄せてしまい、いつの間にかツレとして引き回される結果になっていた。
俺が実力を隠しながら、普通の学生を目指しているというのに、影の実力者はユーゴだとか持ち上げてくるので、対処に困ったものだ。
「僕の目標は宇宙航海士だからね、中央で生き残れなくても辺境を飛べたら十分なんだよ」
「そんな事いって、しっかり同期トップに君臨するんだろ。軍学校デビューを期待してるぜ」
「そういうケルンこそ、ロッドでトップを目指すんだろ?」
「おう、帝国一のロッド使いになるぜ」
ロッドとは2mほどの棒を使った近接格闘術だ。帝国で最もポピュラーなスポーツとされていて、そのチャンピオンは星系を跨いだ英雄として各メディアに取り上げられるほど。
身体能力を活かしてのし上がろうとする者は、まず目指す目標としている。
そして大半は井の中の蛙として散っていくのだが、ケルンは豪語するだけあってかなりの腕前。身体強化した俺と強化しないケルンがやったとしても、負ける可能性があるほどだ。
学生らしくそれぞれの目標に向かって進み始める。
軍学校は士官を育てる教育機関であり、人の上に立つべき人を育成する学校だ。ただ指揮の基盤となるのは、最終的には個人の能力。一通りの事ができない上司に従う部下はいない。
そんなモットーの元、ひたすらマラソンさせられたりするのが日常的にある。根性を鍛えられる学校だった。
銃器の整備、組み上げ、車両の運転など、指揮官が直接使う事はないかもしれない兵隊式の訓練を課されたり、肉体的、精神的にしごかれる。
多少の負傷は魔法で治療できると、結構無茶な練習をさせ、体に教え込む事も多い。
もちろん、知的なチェスの様な戦略、戦術を養うゲーム類での鍛錬などもある。多くの人と競う事を推奨され、個人間の戦績は情報端末へと記録され、そのスコアもまた成績に直結された。
ひたすら逃げていては、指導される羽目となり、居残りで勝負させられたりもある。
その他、数学や外国語、歴史など一般教養もきっちりと授業で叩き込まれる。
一年の一学期はそんな感じで、かなり厳しく詰められた授業カリキュラムをひたすら熟すだけで過ぎていった。
夏休みもあって無いような自由参加と銘打たれた課外学習が目白押しだった。その中の一つ、サバイバル学習と言うものに、俺はケルンに誘われて参加する事になっていた。
「先輩に聞いたんだけどさ、課外学習の成績で二学期以降に残れるかの裁定が下されるんだと。課外学習の中でもこのサバイバル学習は加点が多いから、ぜひやっとけって」
ロッドを部活でもやっているケルンは、先輩から色々と情報を仕入れてくれていた。一学期がひたすら詰め込み教育なのは、多く集まる学生をひたすら篩にかけるための授業で、成績よりもちゃんとついてこれるかを見ているだとか、授業後の生活もしっかりとチェックされているだとか、食事のとり方に至るまで、細かく査定されているとの話だった。
軍隊という組織に所属するなら、ひたすら耐え忍ぶ事を強いられるといえのは、分からなくもない。極限状態に置かれて、錯乱し始めるような輩は、いくら成績が優秀でも味方にするのはお断りしたいからな。
成績が優秀であるなら他の道もある。ただ軍人には向かない。まずは優秀な人材を集め、一番いい所を軍人に召し上げた上で、他の職種へと分配するような仕組みになっていた。
「国防を一番に考えるのは間違っていないとは思うけど」
とりあえずサバイバル学習とやらをちゃんとクリアしないとな。




