集団任務の結末
小型宇宙船で海賊達の拠点へと向かうと、既に戦闘は終わっているようだった。帝国でもそうだったが、対策できていない時の呪歌は圧倒的だ。対策されると無効化できるので、1回限りではあるがその1回を使う場面だったのだろう。
呪歌によって体内に作られた無駄に魔力を浪費する魔法陣により、被害者は強制的に魔力枯渇を起こして昏倒する。
戦闘中に意識を失えば当然、その場で戦力外だ。
呪歌は歌い手ではなく、聞いた側の魔力を使うので音声を届ける通信によっても伝搬するので、広範囲に被害が及ぶのも厄介だった。
「傭兵にトドメを刺すことなく逃げに徹したようだな」
輸送艦がいた事といい、討ち漏らしに未練を見せない所といい、訓練された組織つまりは正規軍だったのだろう。
「転移ジャマーがあるからすぐに星系外へ出ることはないだろうけど、元々この星系を荒らすのが目的なら別の場所へ移動しただけか」
今回は王国の装備に釣られた外様海賊だけではなく、ある意味当たりを引いた訳だがそれに応じた構えができてなかった。
船跡を追えてたらいいがそんなヘマは期待しない方が良いだろう。正規軍がいるという情報だけでも収穫とすべきか。
「とりあえずこっちで拾える船があったら対処するから、リリアはドヴェルグの軍に呪歌の情報を回すのを優先してくれ」
『了解だよ』
拠点近くの宙域には戦闘中に呪歌にやられて意識を刈り取られたらしき戦闘機が漂っている。パイロットが反応しなくなった事で安全装置が作動し、自動操縦で母船を目指す船もあるようだが戦場に残されたままの機体もそれなりにある。
「外様の海賊には呪歌の存在を伏せてたっぽいな」
漂う戦闘機の中には海賊の物も多かった。装備に釣られて集まった海賊だと、情報漏洩もしやすいだろうし妥当な判断だな。
『アイネ様、こっちについたら海賊船の回収をお願いします』
見つけた海賊船にはタグを打っていき、開拓船で回収してもらう事にした。割とボーナスタイムだぞ、この状況。
リリアによる呪歌の説明により、外縁部の管制官が納得するまでそれなりに時間がかかった。帝国で使われた呪歌について、王国を挟んで反対側で距離のあるこの星系には全く伝わってなかったらしい。
戦闘中、情報を密にやり取りしていた前線の管制官も軒並み呪歌にやられて通信途絶。幸いなのは司令塔を失い混乱しそうな前線もまた意識がなかったので、被害の拡大は免れた事だろうか。
小惑星帯とはいえ小惑星同士の距離は数十、数百kmの隔たりがあるので、意識を失ってそのまま衝突という不幸な者はほとんどいない。
壊れている船もちらほらあるが、呪歌の被害者かその前に戦闘でやられていたのかは不明だ。
回収できるものは開拓船で拾っていき、格納庫を一杯にできた。昏倒していた海賊は捕縛してドヴェルグの治安部隊に引き渡している。それぞれに報酬を出してくれるらしい。
「一気に懐が温まりそうだな」
パイロットが昏睡していた海賊船はコックピットもそのままで状態がいい。拠点近くにいたという事は、装備も良い物がついていたし良い値がつくだろう。
そのまま中古市場に流すよりは、修理工房に掛け合った方が喜ばれるか?
自分達で仕留めた24機と拠点近くで回収した17機。コンテナ船はなく、輸送艦には逃げられた訳だが、開拓船の修理費用には十分だろう。
型落ちのパーツを入れ替える費用も出るかもしれない。
この辺はまた交渉だな。
「んー、そうですねぇ……」
修理工房へとやってきた俺は、金融部門のトルネオへと捕獲した海賊船のリストを提示した。しかし、その反応はイマイチだ。
「どれもメンテナンスが十分でなく、耐用年数が削られて商品価値がほとんどないですねぇ。まあ、鋳潰して素材くらいにはできそうですが……鋳潰すにも費用が掛かりますしねぇ。コンテナ船から素材を確保してくれていたら丸々稼ぎになったんですが、クズパーツばかりだと……こんなもんですかね」
それは開拓船の修理にギリギリ届くかという様な金額だった。
「先の集団任務では活躍なされたようなので、少し足りない分はこちらで負担しましょう。整備艇と回収艇を送りますので、停泊座標をこちらへ入力してください」
「いや、いい。正直、今回の稼ぎがそんなに少ないなら直ぐに修理してる場合じゃなさそうだからな。パーツバラして運転資金に回すよ」
本格的に戦ったのは下っ端で腕も悪い海賊達だったが、それでも無傷とは言えなかった。高速戦闘中に弾速の遅い実弾を当てられる距離まで詰めた。少し予想外な挙動をされると掠る程度にぶつかる事があった。
最悪、開拓船は転移できれば役目を果たせるが小型宇宙船はしっかり直しておかないと不味いからな。
「では解体も含めてこちらでやっておきましょう」
「いや、技術料を払うのも厳しいからある程度、自分達でバラしてオークションに掛けるとするよ」
「素人がバラしても価値を下げるだけですよ。本職に任せた方が多少の手数料をケチるよりも値下がりを抑える事ができます」
「まあそうなんだろうが、自分達で使う分も選り分けたいしな。ひとまず持ち帰るよ」
俺はトルネオに査定の礼を言うと修理工房をあとにした。
「ううーむ、海賊船を捕まえれば稼げると思ったがイマイチだったか」
とはいえ今回の任務にコンテナ船は存在せず、武装した輸送艦だった訳だしな。俺達に呪歌は効かなかったとしても、輸送艦やそれに搭載されていただろう正規軍相手に小型宇宙船だけで戦うのは無謀だ。アイネの魔導騎士が来たとしても数の暴力ですり潰された可能性が高い。
いくらアイネや俺の潜在魔力が多くても、魔導騎士の魔力炉には及ばない。長期戦に持ち込まれて魔力切れした所を叩かれるのがオチだ。
割り振りを無視して最初から拠点やコンテナ狙いをしたらただでさえ低い傭兵としての評価が底を打ちそうだしな。
集団任務でコンテナ船を狙うのはありえなかった。
「それくらい分かりそうなもんなんだがなぁ」
あのトルネオという男。俺が諦めたら妙に引き留めようとしてきてたな。修理費の査定してもらったのが無駄になる訳だし、最低限でも仕事にはしたかったのだろう。俺達に資金的な余裕がなさすぎたのが問題だった。
「とりま何機かバラしてパーツ売りしないとな」
メンテ不足でガタが来てるなら、修理必須なセット売りよりも、パーツをバラして部位ごとに売る方がなんぼか高くはなるだろう。
まずは2、3機をバラして格納庫のスペースを空けないと、船内での作業もままならない。稼げると思って目一杯詰め込んできたのが仇になったな。
「オレはそんな事してねーよっ」
「このデータを見ろ、お前が担当しているエリアで不自然に部品の紛失が続いてるだろうが」
「そんなのオレじゃねーって。オレのとこから誰かが盗んだんだよっ」
「だとしても管理不行き届きなら責任はお前にあんだよ」
「そんなのセキュリティ部門の責任だろ。オレの仕事は整備なんだ」
「そのセキュリティ用のセンサーを切ってるのはお前だろうが」
「オレが移動する度にビービーうるせぇんだから仕方ないだろっ」
「仕方なくねぇよ。お前がちゃんと認証カードを使わないからだろ」
中小の整備工房が並ぶ中、言い争う声が聞こえてきた。セキュリティにルーズな奴がいる所から盗難が続いてるって話か。まあセンサー切ってたら人の出入りを検知できずに犯人が分からなくなるわな。
わざわざカードをかざす認証を使ってるのも旧世代的だが、中小なら機器の導入ができなくても仕方ない部分もあるのか。
宇宙船とかなら本人の魔力を測定して人の出入りを管理してるから、そんな手間は掛からない。
職人とか研究者が私生活にルーズな部分があるのは前世の記憶でも承知の事実。とはいえそういった人を雇いたいかと言われたらノーだろう。
そういう意味ではオールセンはよくできた研究者だった。
俺は疎遠になった友を偲んだ。




