集団任務開始
ドヴェルグ星系に出没する海賊は王国から潜入している工作部隊もいる。しかし、それに便乗して稼ごうとする海賊も多い。王国はそうやって集まった海賊達にも気前よく武器をばら撒く。
もちろん最新の物ではなく払い下げ品レベルではあるが、民生品のスクラップから拾ってきた武器とは比べ物にならないハイスペックである。
王国の侵略予定星系へとやってきて、適度な稼ぎをして王国から武器を支給され、少し働いたら別星系へと流れる。そんな流浪の海賊というのも一定数いたりした。
「だからこうやって海賊狩りに巻き込まれる連中ってのは、同情の余地もなく狩らねばならない」
自国で活動する軍人というのは、防衛の為であったり、上司からの命令であったりと自分の意思とは違う部分で動かざるを得ない場合もある。
しかし、他国に侵略している軍人やそれに便乗する犯罪者というのは、撃墜されても自業自得として処理すべし。軍人が侵略に反対しているが命令で仕方なく参戦しているといっても、他国に迷惑を掛けるならお引き取り願うしかない。
そして武装強化した海賊が他に流れるなんてのを許す必要は全く無い。
「だから『こいつ素人か?』って腕だろうが、獲物として処理するぜ」
「コックピットを撃ち抜くよっ」
拠点から早いうちに逃げ出せた奴は危機察知に優れた凄腕かというとそうでもない。拠点を利用するにも序列があるので、下っ端は戦闘機で寝泊まりというのも普通にある。
拠点から少し離れた小惑星に係留していた下っ端達は、大手傭兵団の砲撃を逃れて外へと逃げる事ができた。拠点を押さえることを優先する大手は、雑魚が逃げるのは見逃し本命を狙っていく。
見逃された下っ端達が最初に俺達のような弱小傭兵の包囲線までたどり着いていた。
下っ端の宇宙船はやっぱりスペック的にも大した事はないが、それ以上に対人戦闘の経験に乏しい。元々傭兵とやりあって生き残れるのは極わずかで、経験なんて積んでられないが。
攻撃よりも逃げを選んでいる海賊船の背後に付くと、慌てて舵を切る。慣性に殺されないギリギリの舵取りは、後ろに付いていると分かりやすい。
俺の場合はシミュレーターでは発揮できなかった魔力感知で、推進部へ魔力が供給される流れが分かるので、実際に動きを変える前にどっちへ動こうとしているのか察する事ができた。
その上で大きく避けようと舵角も可能な限り目一杯に切ってしまうので、2、3度動きを見ると、次に動く角度まで予測できる様になる。
後はこっちの加速性能を活かして寄せてやれば、テッドが仕留めてくれた。
コックピットを潰された船は安全装置が働いて推進部は止まるが、慣性は残るのでタグを付けてリリアに送信。進路先を予測してコランが開拓船を寄せ、アイネが回収してくれるはずだ。
本当に上手いパイロットならメインスラスターの出力強度を調整することで、どこに動こうとするかを分かりにくくしつつ、こちらの反応まで見ながら回避するものだ。
更にダミーで推進部に魔力を集めつつ、出力にはしない空吹かしで方向を誤魔化すようになると、中々予測するのは難しくなる。
今逃げてる海賊にはそこまでの技術はなく、やれる最高の旋回に頼ってのジグザグ回避。おいしく仕留めさせてもらおう。
「思ったより数が多いな」
定期的に狩ってるって話の割に、逃げてくる海賊が多い。既に10機を撃墜できていた。
『他の傭兵を見てると割と逃げられてるみたい』
「ああ〜逃げられた海賊がまた違う所に集まるのか」
包囲の外側に構えている傭兵は個人や小規模。その腕は大規模な傭兵団に入れてもらえない程度に低い。情報を貰っていても撃破できない事も多いようだ。
撃破できなくても集団任務に参加した報酬は出るみたいだしな。傭兵ギルドとしても圧を掛けるのが主目的で、撃破はプラス報酬として設定していた。
大手はコンテナ船を狙っていて、傭兵ギルドとしてもコンテナから資材を確保できれば成果と言える。変に追い詰めて窮鼠になってしまうと、死に物狂いになり厄介さが増すという感じか。
「おかげで俺達が稼げるなら文句はないな。次行くぞ」
『ええっと、そこから3時方向に5400mほどにいるよ』
「了解」
リリアのナビゲートを受けながら小物確保を続けた。
しばらく狩り続けていると、俺達のいる宙域に逃げてくる海賊がいなくなった。撃破される前に残る仲間へと情報を流したのか、拠点では雑魚の動きも追跡していて逃走ルートを指示しているのか。何にせよこの宙域がヤバいと知れ渡ったようだ。
狩場を変えたい所だが、傭兵ギルドに割り振られた宙域から離れるのは得策ではないだろう。
「今回はここらで店じまいかね。リリア、成果は?」
『確保した小型宇宙船は24機だよ。損傷もコックピットに留まってて、魔力炉を取り出せそう』
下っ端海賊船の魔力炉だけに、どれだけの値が付くかは分からないが普通に撃破するよりも稼げるだろう。獲物のランクとしてはDランクばかりで賞金としては最低っぽいので、修理費に足りればいいが。
「で、全体の任務としてはどうなってる?」
『んー、それが苦戦してるみたい。コンテナ船じゃなくて、輸送艦がいたらしくて反撃に手間取ってるって』
「輸送艦か」
民間の輸送コンテナ船の場合、武装されていたとしてもしれている。逃げ足も遅くて護衛がいなかったら確保は容易だ。
しかし輸送艦となると腐っても軍艦の1種。武装はそれなりだとしても、戦場で生き残るために機動力はコンテナ船の比じゃない。
資材を奪うことを考えると、全力で攻撃して爆発するまでやってしまう訳にもいかないだろう。手加減しながら動きを止めるのは難しい。
『強襲揚陸艦で乗り込む計画みたい』
「艦内制圧か、時間かかりそうだな」
俺は海賊が来なくなった宙域で待ちぼうけするのも何なので、開拓船に戻る事にした。
「こうやって見ると壮観だな」
「一発で仕留めたかったけど、流石に無理だった」
開拓船の格納庫にはコックピットを潰された海賊船が並んでいた。コックピット部分は外側から洗浄されているが、中身はまだ残っている事だろう。あまり近づきたくはない。
「解体までできたらスペースを節約できるんだがなぁ」
今後の航海を考えれば、整備要員を雇うのもありだろうか。アイネの魔法陣では応急処置はできても修理はできなかったし、俺にもコランにもその手の技術はない。
ドヴェルグ星系には職人が多いが、この星系から離れてもいい、傭兵の船に乗ろうって奴はいるかね。傭兵として飛び回るってのは、命の保証はない訳だし、手に職を持つ技術者が敢えてリスクを冒す必要はないだろう。
「何らかの問題があって爪弾きにされた者なら……こっちでも持て余しそうだな」
熱心な研究者とかな。技術力はあっても問題を起こすような奴ならどっち道扱いに困りそうだ。
「それはまた探すとして、輸送艦か。帝国との戦争が終わったから早速他国への侵略に軍を動かしてるのか」
海賊のコンテナ船ではなく、王国の輸送艦なら包囲を抜けて逃げられたりするのか。というよりも、居るのが輸送艦だけとは限らんな。魔導騎士や正規に近い戦闘機とかが輸送艦から飛び出してきても不思議はない。
そうなると対海賊と思っていた傭兵達で対処できるのか。
「いや、それよりも帝国に侵攻していた軍がこっちに展開を始めたとすると……リリア、対呪歌術式を匿名で管制官へ送ってくれ!」
『!?……遅かったかも、前線の部隊が大崩れしたみたいっ』
「どんな状況だ?」
『拠点近くにいた戦闘部隊との通信途絶して、少し離れた所にいたはずの母船とも連絡がつかなくなってるって』
「通信を伝って呪歌を聞いた可能性もあるな。とにかく無事な者達に対呪歌術式をばら撒いてくれ」
『わかった、ユーゴ兄』
「コラン、海賊拠点に向けて発進だ」
『いいのか、命令無視になる』
「緊急事態で通すしかない。被害が広がる前に対処しないとなっ」
俺は先行すべく小型宇宙船を開拓船から再出撃させた。




