開拓船の修理
コボルト星系から3つほど星系を移動した所で本格的に開拓船の状態を確認することにした。この星系にはステーションが存在せず、無人の観測機が漂っているだけで、余程の事がない限り巡回船も通らない星系だ。
星系間移動は転移魔法陣を設定できればあまり問題は起きないが、通常航行では重量のあるものが移動するだけでそれなりの負荷が掛かる。
転移魔法陣に飛び込む際のわずかな移動でも、負荷は掛かっていたようだ。
「ここの回路も切れてますね。第三ブースターの出力低下の原因です」
開拓船には後方に向けて4つのメインノズルが配されていたが、そのうちの第三ブースターがちゃんと動かなくなっていた。
魔力炉からの供給回路が幾つか焼ききれていて、接触不良の様な状態となっている。船内に侵入した兵士が最後の悪あがきで魔力炉を暴走させた時の負荷が主な原因だろう。
アイネの手で応急的に繋いだものの、何度が使用しているうちに再度切れたらしい。
4つあるうちの1つなので航行不能になることはないが、ここまでくれば追っ手にも簡単には見つからないだろうと言う事で、しっかりと船内を確認する流れとなった。
開拓船は元々無補給で長時間の航行が可能な船だ。船内資源の多くはリサイクルする様な循環施設が備わっている。これらはコボルト星系でも利用していたらしく、食料品や消耗品などは生産ラインが整っていた。
野菜室なども一定量が賄えており、航海病の心配はなさそうだ。動物性タンパクは難しいが豆類などの植物性タンパクは生産されていて、代替肉の作成も可能となっていた。
「ただやっぱり代替品だよな。魔道具の質も悪いし根本的に味付けが悪い」
「そこは任せてよ」
リリアが胸を張って引き受けてくれた。すっかり地球料理を引き継いでくれたリリアは料理人として雇ってもらえるレベルに達しているだろう。
格納庫には2機の魔導騎士がハンガーに収められ、宇宙船も発着可能な位置に固定されている。その他、テッドのヨロイやギリガメルの兵士が着ていたヨロイも確保してあった。しばらくはパーツ取りに使えるだろう。
その他、小惑星などに移動する際に使える降下艇も1台残っていた。簡易な採掘魔道具もついていて、リサイクルしきれない鉱石も道中で掘れるだろう。
居住区は広く、数百人単位で生活できるスペースがあったが、フロンティアラインで使用されていたのは上官用の個人スペースだけで、作業員用の大部屋は雑多な荷物が置かれていて、マットレスなどもボロボロで実用に耐えない状態になっていた。
ひとまず俺達の生活は個人部屋を割り振っている。
武装については光術式の主砲が3門に、対空銃座が両舷に10門ずつ計20門配されているが、半分は壊れていた。
周辺宙域を探査する無人機については在庫がなく、生産施設はあるものの自動作成が行われていなかった。回路自体に破損は見られないので材料不足なのだろう。
「小惑星に寄せて鉱石を探して材料をストックしないとな。後は恒星からの光魔力を集めて各所のチェック、修復だ」
テッドに小型艇の操作を教えて、小型の小惑星を砕いて運んでくるように指示を出し、リリアには船内の野菜栽培について学んで貰う。
アイネには焼き切れた回路を修復するために設計図を用意してもらい、それを金属板に刻んで置き換えていく。
パイロットのコランには、今後の航路の選定を行ってもらう。しばらくは王国の監視が緩い、無人星系を渡りながら移動したい。
王国は宇宙生物が興味深いが、やはり歌姫に目を付けられたりしているのが怖い。他の国に移動するのもありだろう。帝国はまだ内乱中だろうし、もっと別の国に行くか。
「とりあえず船を整えるのが大事だな」
王国内にいるとどうしても戦闘を考えないといけない。王国軍に見つかるのも厄介だし、宇宙生物も凶悪なモノがいる。
壊れた対空銃座を直しつつ、旧式な主砲のアップデート。防御結界も出力が限られているのでその辺の制御システムの見直しも必要だ。
「本来ならどこかドッグに入ってオーバーホールしたいところなんだがな」
傭兵ギルドで貰った魔導騎士も回線が焼けている箇所も多くて、魔力炉からの魔力が上手く伝わってない。アイネの知識は魔法陣に強いが、あくまでも術式として発動する時の知識。魔導回路に置き換えるのは効率が悪かったりする。
魔導回路に落とし込むともっと精密な魔法陣が描ける様になり、魔力効率が上げられるのだ。
「オールセンが欲しい……」
軍学校時代に魔道具の知識に長けた同級生の姿が脳裏に浮かぶ。あの才能が認められたら帝国軍でも重宝される事だろう。
ロリコン公爵の陣営に取り込まれないといいけどな。
ないものねだりをしても仕方ないので、ひとまず素人修理で出来る範囲で修理をしていこう。
星系にたどり着いて1ヶ月、集中的に修理を進めた。ここの星系は恒星が小さめで惑星も少なく、小型のものが多かった。惑星になりきれなかった小惑星から鉱石を集めていったが、重力が弱いためか密度が薄く、量を集めないと品質を上げていけなかった。
おかげでテッドは小型艇操縦の習熟が進んだ。
開拓船の農園は、リリアによって整備され、それぞれ小規模な畑で種類を豊富に野菜などを作れる様になった。果物は樹木なので成長に時間が必要で、成長促進の魔法陣を利用してもまだ収穫には至っていないが、今後が楽しみになっている。
武装類についてはあまり修理が進まなかった。やはりアイネの魔法陣をベースにすると回路の設計図が大きくなってしまい、魔道具のレベルに収斂する事ができなかった。
開拓船のメインブースターは迂回回路を接続する事でひとまず安定させた。
無人探査機については生産ラインが生きていたので、テッドに集めてもらった鉱石を投入してストックを用意できた。
この生産用魔道具は設計図があれば色々な部品を作るのにも流用できそうなのだが、既存のデータは50年以上前のものばかりなので、データのアップデートをしていきたいところだな。
フロンティアラインから残ったパイロットのコランの技術についても色々とシミュレーションをさせる事で把握できた。
操船技術についてはかなり優秀で、特に速度を維持したまま船に負担を掛けずに曲がる技術などが得意だ。
反面、戦闘などのイレギュラーに対応する技術がほとんど経験がなく、拙い部分が多分にある。コボルト星系で船の方が襲われる事はなかったからな。
俺達が乗っていた宇宙船を艦載機として使う事も考えていたが、現状ではちょっと無理そうだ。
開拓船になった事で乗員のキャパシティとしては数百人規模まで増えたので、もっと乗員を増やして対応する事も考えていきたい。
一番の問題は目的だな。
俺の目的はあの公爵へリベンジしたいって事だが、絶対の目標かというとそうでもない。安定して暮らしていけるなら帝国に戻る必要もないからな。
アイネの目的である新しい事の発見、未知への探訪というのは定住しなければ何某かの発見はあるのであまり文句も言ってこない。
テッドとリリアについては望郷の念などないかと聞いてみたが、宇宙を旅するのが楽しいらしく、特に故郷に戻りたいという気持ちはないようだ。
新入りのコランも星系に縛られてきた人生に嫌気がさして逃亡の手助けをしてくれた訳で、旅を続けることが目標となっている。まだ1ヶ月だし帰るという選択肢もない。
「開拓船を手に入れて、生きていくのに困ることはなくなったんだよなぁ」
エネルギーは恒星からの光魔力で賄えるし、食料についても生産が可能。衣類についても基本的には船内の魔道具で生産できる。
まあデータが固定されてお洒落はできないがな。その辺のデータを集めていくのも面白いかもしれない。
人類が宇宙に拡散していって星ごとに個性のばらつきもある。それらの違いを見ていくのも楽しそうだ。
「戦乱の時代に娯楽で旅をする。ある意味かなりの贅沢をしてるって事かな」
本格的に放浪する下準備が整った感
クルーを増やしながらひとつなぎの財宝を目指す事になるのか?
それともネタ切れに苦しむのか……
2025年の締めとなりました。良いお年を〜




