開拓船内の攻防
格納庫は陸上競技の400mトラックを敷けるほどの広さだ。天井の高さは5mの魔導騎士のハンガーが2段、15mほどはあるだろう。
整備機器が随所にあって隠れる場所は多い。そこから半身を覗かせて連射系の銃で撃ってきている。
その狙いは正確でこちらも隠れながら射撃を行っているが、防御結界への着弾がちらほらあった。
ギリガメル傭兵団から引き立てられた兵士か、王国直属の諜報員か。後者なら俺の事を知ってる可能性が高く、歌姫から魔術師であると注意喚起されてるはずか。
対魔術師の戦闘を仕掛けてこない以上、ギリガメル傭兵団の関係者と見て問題なさそうだ。
しかし、コボルト相手で反射神経と射撃の腕を見込まれた兵士とあっては、面倒な相手であるのは間違いない。
「このまま制圧してたら時間がかかるな」
格納庫にいる敵はまだヨロイを着たまま。先程のスタン術式は速度が遅いので遠距離から当てるのは難しい。ヨロイの機動力なら見てから回避余裕でしたとなりそうだ。
「もっと接近するか、通路に入ってしまうか」
ヨロイがそのまま入れない通路に入れれば相手は脱いで追いかけざるをえない。そうなればハンドガンの銃弾でも倒せる。
問題は通路に入るためには閉まっている扉を開けないと駄目だが、その作業中は撃たれ放題。個人の防御結界では連射され続けると撃ち抜かれる危険が高まっていく。
リリアにリモートで開けて貰う方法はあるが、どの道船内へ続くルートは限られていて、突破するには何らかの対処が必要だ。
「倒す方が早いかねぇ」
アイネも格納庫に来るかと思ったら、左舷に開けられた侵入口から入ったようだ。格納庫に2人より分散した方が対応が早くなるという判断だろう。
つまりここは俺だけの力で突破しろという事だ。
船内への通路を目指して、障害物の陰を通りながら距離を詰める。防御結界を維持するための魔力は、攻撃を受けなければ回復していくんだがどうしても隙間を移動する間に攻撃された。
「優秀で嫌になるね」
ただそこでようやく思いつく。相手はコボルト狩りに秀でた集団。それは目で見て反射して見せる一流の兵士だ。自らに光学迷彩を施した上で、幻覚術式で作ったダミーを走らせる。
少しズレた位置を走らせる幻影へと銃弾は吸い込まれ、俺への着弾はなかった。防御結界で威力を相殺するよりも消費魔力は抑えられる。
「さっさと倒すか」
移動手段を手に入れた俺は、相手の攻撃に晒されることなく接近し、撃破していくことができた。
船体の後方担当の部隊を撃破した俺は、中央区画へと進む。銃座に閉じこもっているテッドの下にはアイネが向かってくれているようだ。
なので俺は機関部へと向かっている。
そもそも侵入者の狙いが何かという話で、帝国の諜報員であろう俺を処理する事のはず。一番まずいのは逃げられる事。そのために足である開拓船をどうこうしようというのが予測だ。
格納庫にある宇宙船でも逃げられるんだけど……と考えて、あの宇宙船にも何か仕掛けられてる可能性があると思いついたが、格納庫に戻ってる場合でもない。
あのパイロットに依頼して開拓船を動かせる様に出力を上げている最中。船で逃げるのを防ぐには、コックピットの制圧か船の航行能力を奪うかだろう。
船を破壊するのはもったいないと思うはず。特に開拓船の様に長期間の航行をできる船、食住を完結できる環境は、絶えず宇宙生物に脅かされていつ脱出しなければならないか分からない王国にとって重宝だろう。
なので破壊よりは使えなくする、ロックをかけるような対処となっているはず。ならば解除する余地もある。
俺は機関部へと急いだ。
「戦力集めてたか」
セーフティルームへと逃げパイロットが不在のコックピットは簡単に制圧。制御装置自体を破壊したか、封印を施したかは分からないがすぐには使えない状態にしたのだろう、船体前方を担当していた部隊も中央の機関部へと集まっていた。
魔力炉のある区画への扉前にバリケードを作って防衛線を敷いている。
俺が通路の角からバリケードを伺っていると、アイネとテッドが合流してきた。
「術式を阻害する魔道具を使ってますね」
「面倒です」
魔道具の稼働を邪魔する機器が設置されている。銃器類の術式も阻害され、その他の光学迷彩や索敵装置なども使えない状況だ。
これは一定範囲に効果を発揮するもので、魔道具に限らず魔術師の術式にも効果を発揮した。
身体強化などの体内魔力を循環させる術式にも影響を与え、飛び道具も封じる。つまりは肉体そのものの力に頼らざるをえない空間を作り出す。
そしてバリケードの前にはこれみよがしに体格の際立った男が3人待ち構えている。2m近い巨躯でいかにも鍛えてますという筋骨隆々ぶりだ。もちろんボディビルダーの様な見せかけの筋肉ではなく、格闘術に特化した体作りをしているだろう。
「テッドはここで待機。これを持ってろ」
そう言って渡したのはゴムでつぶてを飛ばすスリングショットだ。伸縮性のベルトと金属棒を使って作った即席のものだが、ないよりはマシだろう。弾もそんなに多くはないし、当たっても痛い程度のもので威力も期待できない。
ただ無音で発射できるので、相手の意識外から攻撃できれば集中を乱すことはできるだろう。
俺はアイネと並んでゆっくりと近づいていく。バリケードに近づくにつれて防御結界が維持できなくなり、身体強化も掻き消える。
頼るべきは幼少の頃からアイネに刷り込まれた体術のみ。屈強な男相手にどこまで通じるかは分からない。
ただ隣にアイネがいるだけで心強い。情けない所を見せるわけにはいかない。
「俺が左をやります」
「では右を。真ん中のは?」
「先に倒した方の取り分って事で」
「なるほど。負けられませんね」
歯を食いしばったのか、口元が引き締まる。わずかに口角が上がった様に見えて、普段は見せない笑みのようにも感じた。まあ喜びとしては、獲物を見つけた肉食獣の類のものだろうが。
俺は意識を正面に集中し、床を蹴って加速した。
船内は無重力。今まではブーツに仕込まれた重力制御術式で床を歩けていたが、術式を阻害する魔道具で機能を失っている。それは相手も同様で踏ん張る事はできない。
慣性のまま突っ込めば、相手を押しのけて進むか、相手の質量に押し返させるかとなる。体重は明らかに向こうが上なので、俺の方が弾き返されるだろう。
打撃を与えるにはより大きな質量に叩きつける、船の壁や天井へと押し付けた上で更に押し付ける様に殴る方法となる。
そうした支えがない状態で殴っても、ボクシングのスウェイされる様に後方に流れて衝撃が伝わらない。
なので無重力下の格闘戦は、掴み合いになってくる。相手を逃さないようにしながら殴るが、左で引きながら右で殴ると回転する様に勢いが逃げてしまう。
その中で相手に確実にダメージを与えようとすると、関節技の応酬となっていく。腕を絡めて互いを固定しようと動きつつ、たまに近づく壁を蹴り、回転しながら拳を振るう。
しかし掴み合った状態の打撃では筋肉で鎧われた相手には通じない。やはり自らと相手の質量を利用して、関節部に逆向きへと力を加えるしかない。
そう思う間に相手は俺の左肘を脇へと挟み込み、固定しながら絞り上げてくる。軋む関節に奥歯を食いしばりながら、右手で掴んだ服を放して相手の左肩を掴み、ヘルメットに覆われた頭部を相手のヘルメットへと叩きつける。
その衝撃は首へと一定のダメージを与えるが、相手の戦意を奪うほどではない。それどころか回り始めた身体は締め上げられる左肘へと捻れた力を伝えて、よりきつく負担を掛けてきた。
お、折れるな、これは。
訓練中に受けた痛みからそれを理解した俺は、左腕を諦めて右腕を脇下へと滑らせて相手の左肩を極めにかかる。
バキリと左肘から伝わる音を聞きながら、足を振って相手の胴をはさみ、身体を固定しながら脇固めの要領で肩を可動域越えて捻り上げた。
でも堅い。筋を傷める程度はダメージを与えただろうが、骨折や肩関節を外すほどでもない。
そのまま力任せに身体を振り払われた。
肘を骨折させられた分、こちらが不利になって仕切り直しだ。




