帝国艦隊の同士討ち
帝国同士の艦隊戦は遠距離からの砲撃で始まる。これらは軍艦の防御結界を破るほどではなく、結界の魔力を削りあう。魔力が枯渇して、結界が飽和すると軍艦に直撃する様になるわけだが、侯爵軍も円陣の中に厚みを作り、ローテーションで前面の艦を入れ替える事で被害はでない。
本来なら互いの距離が詰まっていき、魔導騎士や戦闘機が発進して防御結界内へと突入して、直接軍艦を攻撃することで打開するわけだが、皇帝軍の進軍ペースは遅かった。
皇帝軍にも援軍があるのか、何かを待つような消極戦。侯爵軍側は逃げ場がないので、相手の攻撃に耐えるしかない。
「皇帝軍も一枚岩ではありえません。味方を攻撃するなんて、下の者には理解しづらいでしょう」
アイネの指摘にはっとする。
皇帝軍の構成は大半が帝国軍だ。侯爵軍が私兵であるのに対して、帝国軍はまさに帝国のためにある軍隊。
皇帝の後ろ盾となっている公爵は支配領域も少なく、私兵もほとんどいない。どうしたって帝国の軍事力に頼らざるを得なかった。
侯爵軍が勝手に撤退し始めたから制裁すべしと指令を出した所で、今やることかと疑問に思う者は多いだろう。
元々公爵と侯爵が後継者争いをやっているのも周知の事実。上層部の権力争いに命をかけろと言われて、はいそうですかと全力を出せる人間がどれほどいるか疑問だ。
「こりゃ周辺星域から援軍がくるまでダラダラと長引かせ、援軍到着を機に撤収と考えている艦長が多いかな?」
まさかこのタイミングで皇帝軍から攻められるとは考えてなかったから焦っていたのだが、実態はそれほど脅威でもなかったらしい。
「どのみち俺達に出番はないだろうから安全圏で待機だな」
キースが皇帝側の工作員と判明した際、俺達はそれを追う名目で侯爵軍を離れていた。キースが転移してきた皇帝軍の向こうへ逃げた辺りで転進、外宇宙に向けて感知されにくい位置へと移動していた。
なので包囲網の外にいるので流れ弾の心配もない。あとは戦場が落ち着くのを待っていれば良さそうだ。
そんな風に考えていたが、ここは王国領内であった。もしくは公爵が王国と繋がってる可能性があるという事か。
停滞を見せつつあった戦場に第3勢力が現れたのだ。それはもちろん王国軍で、宇宙生物ではなく艦隊だった。
戦闘艦というよりは輸送艦のようで、しかもかなり古そうな雰囲気の艦隊。それが侯爵軍を目掛けて加速を開始した。
星系外縁部にいて比較的出現した王国艦隊に近かった俺は、望遠で得た画像を侯爵軍へと転送。明らかに不自然な艦隊と報告したが、侯爵軍としては黙って近づけるつもりはなく、一斉に砲撃を開始した。
皇帝軍は現れた王国軍に対して対応に困るというか、即応できずに手を打てずにいる。いや、そういう建前で王国軍を撃退するよりも侯爵軍を始末する方を優先してるのか。
末端の兵士に侯爵軍を攻撃させるよりも、侯爵軍と王国軍を潰し合わせるよう静観せよという命令の方が反感を買いにくいか。
ようは何もしないで、成果を得ようという魂胆だな。
侯爵軍の攻撃により、王国の艦艇が撃破されていく。そしてその艦艇から何かが飛び出してきた。型落ちの輸送船に宇宙生物を詰め込んで送り込んで来たのだろう。
撃破しなければ、艦隊の側で解放するだけだろうから、早めに撃破するのは正解だったはずだ。
ただ出てきたものが厄介だった。
「あれはソルイーターだったか」
見た目は直径5~10mの赤い花弁を持つヒマワリの花だ。茎などはなく、花の部分だけで宇宙をさまよう生物。光魔力を求めて恒星へと近づいていき、一定距離でコロニーを作って繁殖する。
恒星に向かってずらっと並ぶと光を遮り、惑星から見ると日蝕の様に恒星が欠けて見えるという。
その特性から光の術式も光魔力を吸収し、無力化してしまうという。宇宙空間の艦艇が搭載している砲台は光魔力を使用したものがほとんどなので、ソルイーターを撃破するには別の手段が必要となる。
花の中央部分からは種子を飛ばし、小惑星くらいなら打ち砕く。物理的な攻撃なので防御結界でも完全に勢いを殺すことはできないはずだ。
光魔力を求めて艦隊へと近づいていき、種子砲撃を行う宇宙生物は、未知のままだとかなりの脅威となる。
しかし、俺が見ていた王国の宇宙生物に関するライブラリーは侯爵軍からも参照できるので、その姿を検索すれば対処方法も分かるだろう。
光魔力を向く習性があるので、照明弾などを上げて向きを逸らすことができ、砲撃以外の手段、魔導騎士による白兵攻撃などで花の裏側から攻撃すれば簡単に倒せる。
艦隊から少し離れた所で輸送艦を撃破できたので、対処する時間も余裕がありそうだった。
問題は魔導騎士を出さなければならないと言うことだ。艦隊の防御結界の外へと魔導騎士を派遣すると、艦隊間の砲撃に晒される危険がある。
軍艦の火力は魔導騎士の防御結界ではすぐに飽和、無力化されてしまう。
またそれらの砲撃にソルイーターが反応すると、花の向きが変わって魔導騎士が種子砲撃の正面に出てしまう可能性もある。
ソルイーターを駆除するまで、皇帝軍が大人しくしていてくれたら良いが、先程までの消極的な牽制攻撃が再開されたら厄介だった。
「宇宙生物はそれだけだと軍艦を撃破できるほどじゃないんだが、艦隊と組み合わさると厄介だな」
王国軍が帝国侵攻に使わなかったのは、長時間の拘束は難しいって事だろうか。転移には光魔力を使わないといけないので、ソルイーターはそれに反応するはずだ。
ヘタをすれば艦内の転移術式に食いつこうとする可能性もありそうだな。
使い捨ての艦で敵陣に送るのが精々といったところか。
王国の次の一手は、俺が危惧した砲撃戦の再開だった。巡洋艦4艦の小型編成で出現した王国艦が、遠距離から侯爵軍への砲撃を開始。すぐに魔導騎士が直撃されるという事はない密度だが、砲撃が続く中へと魔導騎士を突っ込ませるのは勇気がいるし、ソルイーターの駆除にかかる時間も延びる。
巡洋艦を叩きに行きたいが包囲された状況は変わっておらず、包囲を突破しようとすれば静観している皇帝軍が動き出す切っ掛けを与えるかもしれない。
侯爵軍としてはソルイーターの駆除を優先させるしかなかった。
「巡洋艦隊を妨害に行くか」
「この一隻で、ですか」
「包囲の外にいるのは俺達くらいなものだからな」
元は諜報用である星間移動船に過ぎないこの船は、巡洋艦どころか駆逐艦相手でも勝てない戦力だ。魔導騎士もあるにはあるが、巡洋艦であれば魔導騎士も搭載されているだろう。一騎で護衛隊を突破などまず無理だ。
「何も撃沈しようってんじゃない。妨害できればいいだけだからな」
「それでも困難でしょう」
「ま、侯爵軍に勝って欲しいが、侯爵が負けたとしても帝国から逃げればいいだけだしな。幸いにしてここは王国内だし」
皇帝軍が王国軍と協力して第2皇子派である侯爵を退けて、国内の統制を図るとなれば公爵に睨まれている俺には居所がない。
伯爵の開拓惑星やシャルロッテなど多少の縁はできていたが、今この船にいる面々に比べたら切り捨ててもあまり気にならなかった。
「生存第一でやれるだけやってみよう」
俺は王国巡洋艦へと向かった。
巡洋艦隊は遠距離から牽制射撃を行うだけの簡単なお仕事をしている。反撃を受ける危険もない。とはいえ油断して警戒を疎かにするほど軍人を辞めていなかった。
交戦可能宙域に入る前に警告通信が入る。
『そこの帝国船籍の船に告げる。民間の傭兵だろうが、それ以上近づくようなら撃墜する』
「こちらユーゴ、セディナ姫と連絡を取りたい。取り次ぎを頼めないか?」
セディナは歌姫の名前。先の帝国侵攻でも明かされていない名前のはずだから、何らかのアクションはあるだろう。
『確認した。ユーゴを名乗る者が現れたら優先して撃破しろと命令がある。悪く思うな』
逆効果だった!




