★枯れた花を色付かせた一夏の花火
「…悪かったわね」
「いえ…」
流石の私でも意気消沈している麗奈先輩を責めることはしない
ただ、一つ聞いておきたいことがあった。
「セフレの件、良かったんですか?」
「ええ、陽咲の隣に居ることは叶わなかったけど、だからと言って彼女の負担になることはしないわ」
「楽しかったですね♪世界一長い観覧車と聞きましたが楽しくて短く感じちゃいました」
麗奈先輩の口調は軽やかだか、表情は暗い
好きな人の幸せの為に自分が折れる…か
姉はたまに私にセクハラしてなんとか保ってるけど、麗奈先輩にはそれがない
これからのボランティア部は彼女にとって辛いものになるのかもしれない
「なんで貴女までそんな顔してんのよ」
「だって…」
「お二人ともどうしたんですか?何かあったのですか?悲しんでいる人を見ると私まで悲しくなっちゃいます。あっ、元気が出るおまじないをしましょうか?」
「新キャラの『しおチュー』さんっス」
「詩織さん!?貴女こそ何があったのよ!?」
その件はさっきやったからもういいんだけど…
今日ホテルから出た時からずっとこんな感じだけどな
自分のことで精一杯で気付かなかったのか
「彼女出来ると麗奈先輩もこんな感じなるんじゃないっスか」
「こんな浮かれないわよ!」
なおも詩織さんは前向きな呪詛を吐き続けていたが、結衣に呼ばれてそっちに駆けて行った
…あれ?結衣ってこんなに詩織さんに対する好感度高かったっけ?
明るくなったから気が合うようになったからか?まさか身体の相性が合うからじゃないよな?
「……………」
結衣たちとアイスを買って楽しそうに笑う詩織さんを無言で凝視する
両手にアイス持ってる人初めて見たよ。週末のクラブで外人殴ってるような陽キャでも一個ずつ買うだろ
陽咲先輩と眞帆先輩もその詩織さんに気付いたのか指をさして笑っている
な、なんかしおチューさんがこのグループの中心になってね!?
私と陽咲先輩ともフラグあるし、しおチューハーレム築かれちゃう!?
「……………」
全員が詩織さんにメロメロになってる情景を想像してしまった
今の彼女ってもしかしたらヤンデレモードより危険な存在なんじゃないか…
「…そうはさせるか」
結衣だけでも助け出そう
謝ろう、小さなプライドなんて捨てて仲直りしよう
と、決心したものの、謝るチャンスはなかなか訪れず、ついには夜の花火の時間になってしまった。
パーン!
花火が私の憂鬱な顔を照らす
隣には同じく憂鬱な表情をしている麗奈先輩が居る
なんか今日ずっと一緒だな…
不謹慎だけど愁いを帯びた彼女のかんばせは上空の花火よりもずっと美しく見えた
…いかんいかん、これじゃ恋愛漫画の最終回で主人公とヒロインが結ばれた後にそんなに接点無かったのにくっつくモブ1とモブ2になっちゃうよ
「ちょっと来て」
「え?」
五億年ぶりに結衣に話しかけられてびっくりしてしまった
花火じゃなくて麗奈先輩の顔観てたのバレた?怒られる?
「…何があったの?」
「いやいや!麗奈先輩とは何もないって!」
「そんなこと聞いてないんだけど…なんでそんなに動揺してんの?」
「うぇぇぇッ!」
違ったんかい!
滅茶苦茶怪しまれてる!ジト目がカワ怖い
「観覧車でなにがあったか聞いてんの」
ああ、そっちか
観覧車に乗ってから麗奈先輩と陽咲先輩が気まずくなっているのに気付いたのだろう
誤魔化すのもおかしいので正直に言う
「麗奈先輩が陽咲先輩に告白したんだよ」
「ええ!?結果は…聞くまでもないか」
神妙な面持ちで麗奈先輩の背中を見る結衣、その背中は彼女の瞳にどう映っているのだろう?
ただ振られて落ち込んでいる人という風には見て欲しくない
だから私は観覧車の一件を全て説明した。
「…ありえない」
「?」
「ありえないでしょ!勇気振り絞って告白した結果が「セフレなら良いよ」だぁ?バカにしてるって!」
「ひ、陽咲先輩なりに考えた提案なんだって」
「全然考えてない!なんの意味あんのそれ?麗奈先輩を苦しめたいの?」
やばいやばい
こんな怒るとは思っても見なかった
故郷の村をモンスターに焼かれた勇者でもこんな怒んないよ
「…陽咲先輩に言ってくる」
「ま、待って!」
足はや!
スポーツ経験ない癖にその健脚はどこで培わられたんだよ
ツインテール置いてってるじゃんか
「麗奈先輩に謝れッ!!」
「きゃ!?小鳥遊ちゃん?」
「謝れ!人をバカにするのも大概にしろぉ!!」
ここでようやく結衣に追いついて陽咲先輩から引き剥がすが、結衣の怒声は止まらない
「麗奈先輩がどんな気持ちで告白したと思ってんだ!振るのは勝手だけどセフレってバカにしてんだろ!?麗奈先輩がそんなのに乗る女だと思ったのか?」
「ご、ごめんなさい」
「私に謝ってどーする!?麗奈先輩とセフレになってどーする!?先輩はお前が絶対に振り向かないと分かっててセックスすんの?それがどんな残酷なことか分かってんの!?」
「落ち着いて下さい」
「み、みんな見てるぞ」
詩織さんと眞帆先輩も止めに入る
いつの間にか、野次馬も集まって来ているが、それでも結衣は続ける
「お前は恋をすることを止めたんじゃない!考えることを止めたんだ!だからそんな無責任なことを言えるんだ!もっと考えて自分の気持ちを喋れ!人に嫌われることを恐れるなッ!!本当のお前を好きになって貰え゛!!!」
「!!!!!」
結衣…お前…滅茶苦茶良いこと言うじゃん。滅茶苦茶良いけど…
昨日ワンナイトした人の台詞じゃなくね?
そんなツッコミを心の中でしていると、麗奈先輩が私に変わって結衣を抱きしめてくれた
「小鳥遊さん…ありがとう、もういいのよ」
「麗奈せんぱあ゛い゛ッ!」
結衣は麗奈先輩の胸の中で泣く
バーン!
最後の花火に彩られた陽咲先輩の顔は怒りでも悲しみでもなかった
私は人が恋に落ちる瞬間を初めて見た。




