★【藤詩織視点】禁忌
82話→70話→83話
「奈妓?まだ惰眠を貪っておるのか?」
「「「「あっ」」」」
肉食獣による凌辱は突如現れた眞帆によって終わりを迎えた
沈黙が場を支配する。ベットの上で奈妓さんと結衣さんが私に跨っている状況、ワンピースの裾が捲られて下着が見えていることも相まって何も言葉が出てこない
「ご、ごめん…ご飯食べに来ないから見に来たんだけど…じゃ、邪魔したね」
踵を返して部屋から去って行く眞帆
後には彼女の瞳から零れた涙だけが残された
「彼女に見られちゃったネー」
「…彼女じゃありません」
興が削がれたのか、奈妓さんと結衣さんはいつの間にかいつもの様子に戻っており、私はこの隙に身を起こしてワンピースの裾を直した
「ねぇ、眞帆先輩を追った方が良くない?」
「どうして追う必要があるのです?彼女とはなにも…」
眞帆とは奈妓さんを墜とす過程でキスしただけの関係
ボランティア部に入ってから何度も『お嬢様』として来る鬱陶しい存在
でも、どうして関係ないと言い切れないのだろう?
なぜ私は彼女の涙にこんなにも心が揺さぶられているのだろう?
「眞帆先輩泣いてたよ」
「…仕方ないですね」
これを機に眞帆が私を完全に諦めてしまうのも癪だ
適当に餌を与えてやるのも主人の務めか…
そう自分に言い聞かせて私は彼女の部屋に向かった。
ドアを開けたら眞帆の背中がすぐあったので面食らってしまった
どうやら部屋に入った瞬間にドアを背にして座り込んでしまったらしい
「なにをしているのです?もうチェックアウトですよ」
「…なんで来たの?」
膝に顔を埋めたまま答えた眞帆
私は正面に廻って彼女を無理矢理立たせた
「呼びに来たんですよ。ほら荷物持って」
「行かない…今日は寝てるからみんなで楽しんできてよ」
「子供じゃないんですから駄々をこねないで下さい、先程のを見て拗ねているのでしょう?」
「す、拗ねてない」
強がりながらも声は震えている
その姿に再び心が揺さぶられる
ドン!
「な、なに?」
ドアに手をついた。所謂壁ドンというものらしい
身長差があるので彼女は見上げる形になった
「特別にキスして良いですよ。これで機嫌直して下さい」
「…い、嫌だ」
「今は『お嬢様』ではありません。『禁忌』にはなりませんよ」
「そういうことじゃない。キス…したくない」
予想に反して好意を拒否する眞帆
その真意を見定めようと瞳を覗き込む
「わ、私なんかじゃ詩織と釣り合わない…奈妓や小鳥遊に比べて私は可愛くないし、勉強も運動も出来ない…さっきので思い知らされたよ。もう諦める…今までごめんね。昨日手繋いでくれてありがと…」
私から眼を逸らす眞帆
その姿に不覚にも胸が高鳴る
「私を諦めることは許しません」
「そんなのひどい…詩織はひどい人だ…私が諦めようとすると優しくしてくる」
震えながら絞り出すような声を出した小動物を狩り取りたい衝動に駆られる
ああ…やっぱり私は捕食者の側なんだ
罠に掛かった獲物は逃がしちゃいけませんよね?
二度目のキス
一度目よりもずっと短く唇が僅かに触れる程度だったのになんだか凄く恥ずかしい
奈妓さんとキスをした時もこんな感情は湧かなかった。
「し、詩織!?なにしてるの!?詩織からキスしたら『禁忌』だよ!!」
「ええ、そうです…責任とって下さいね」
卑下た小動物を抱きしめてくしゃくしゃの髪を撫でる
なんて愛おしいのでしょう…もう離しませんよ。私を墜とした責任は絶対に取ってもらいます
「詩織ぃ…詩織ぃぃぃッ!絶対幸せにする!詩織に相応しい女になる!!」
「そんなに気を張らないで下さい、私はもう幸せですよ」
カーテンの隙間から朝日が私達を照らした
同時に濁っていた視界が鮮明になる。眞帆が私を闇から引き揚げてくれた
知らなかった…人を愛するとこんなにも世界は澄んで見えるのですね
「昨日の夜なにがあったんだろう…」
一時間遅れでホテルのロビーに集合したボランティア部の面々
お互いツーンとしてそっぽを向き合う奈妓さんと小鳥遊さん。片や、愛おしそうに眞帆の髪を撫でる私の姿を見て陽咲お姉さまはひたすら困惑した表情を浮かべていた。




