☆水も滴る良い女
「「イエーイ!」」
園内で早速、ブラブラしていたマスコットを捕まえて結衣との2ショットを撮って貰った。
超ゴキゲン♪
「なんでマスコットに撮って貰ってんのよ…」
そうつっこんだ麗奈先輩の頭には猫耳のカチューシャが付いている
渋々来たみたいな顔してますけど案外ノリノリじゃないですか
「はい、遊びはここまで!」
「え?」
いきなり手をポンと叩いた結衣に全員が注目する
遊びじゃないの?遊園地を舞台にしたデスゲームでも始まんの?
「一分一秒でも無駄にしないからね!乗りたいのは全部乗るしパレードも全部観るから!ここは戦場だー!皆の者続けぇーい!!」
皆の者は続かなかった。結衣が走るスピードがあまりにも速くて呆気に取られてしまったからだ
あれは破面の響転?もしや新幹線で寝てたのは眠たかったからではなくて体力を温存してた為?
「お、おーう!」
壮大な伏線回収が成された所で我に返った私たちは急いで結衣を追った。
「お昼のパレードの前にここで早めにご飯食べましょう。ここのハンバーグが絶品らしいです」
「えー楽しみだなぁ」
「なんか凄く高いわね。あの量であんなにするの?」
「観光地なので普通だと思いますけど…」
「我はパンケーキにするぞ」
お昼前に結衣の提案で休憩になった。
軍隊の訓練みたいに走りながらチェロスを食べることになるかと危惧していたが、ちゃんとみんなの体力も考えてくれているみたいだ。惚れ直しちゃうよ!
お昼を食べ、パレードを観終わった所で一行は再び動き出す
解放的な雰囲気も手伝ってか結衣と詩織さんという珍しい組み合わせまで親しげに話だしている。
めちゃくちゃ楽しい、けど今回はそれだけじゃダメなんだ。
私は次のアトラクションに乗り込む前に結衣にさり気なく目配せをする。結衣はその意図を瞬時に読み取って列をずれてくれた。
「やっと二人きりになれましたね」
アトラクションに乗った瞬間、隣に座った詩織さんが腕を組んできた
縦二列で六人乗りのアトラクションだから全然二人きりではないのだが、まぁそこは良いとしよう
私は身体に当たる胸の感触を極力無視しながら話題を切り出した。
「最近どう?」
「最近?部活のことですか?」
私たちが乗ったアトラクションのボートは水面をゆっくりと進む
このまったりしたシチュエーションは心を開かせる絶好の機会
「眞帆先輩のことだよ」
「…私は彼女のことはなんとも思ってないと前にも言いましたよね」
明らかに機嫌が悪くなった詩織さん。でもここからが勝負だ
「私さ…詩織さんが私のこと好きになってくれて凄く嬉しかったんだよ」
「奈妓さん?」
「詩織さんが好きになってくれて、私って捨てたものじゃないなって思えるようになった。だから詩織さんには凄く感謝してるんだ」
「…なにが言いたいのです?私に乗り換えると?」
「違うよ。眞帆先輩の好きって気持ちをもっと大切にして欲しいって言いたいんだ」
愉快な音楽に混じって後ろの結衣と陽咲先輩の歓声が聴こえてきた
思わず横を見ると人形のおじさんがヴァイオリンを弾いているのが見えた。
「それを貴女が言いますか、だったら私の気持ちも受け取って下さい」
「私には結衣が居るからそれは出来ないよ。でも詩織さんも大切に想ってる。だってキミは私の初めてのファンになってくれた『お嬢様』なんだから絶対無下になんか出来ないよ」
「眞帆は私の『お嬢様』だから邪見に扱うなということですか」
「んーん゛?」
ボランティア部の活動だから仲良くしてって言いたいんじゃない、でも口下手だから上手く言えない
旅行中に二組のカップルを作りたかったんだけど出過ぎたマネだったのかもしれない、交渉失敗かな
「フッ」
!?
諦めようと思ったその時、詩織さんが笑った
いつもの怪しい笑顔じゃない。私は彼女の素の笑顔を初めて見た。
「奈妓さん。「大切に想ってる」なんて言われると貴女のことをもっと好きになってしまいますよ」
「いやいやいや!そんなつもりは…」
「ますます墜としてやりたくなりました」
「いやーそれは困るなー」
あれ?これって失敗どころか大失敗?
結衣になんて言おう…
「フフッそんな困った顔しないで下さい。言いたいことは分かりました。まぁ今回は奈妓さんに免じて眞帆に少し優しくしてあげますよ」
「詩織さん!」
また笑った詩織さん。私も釣られて笑顔になる
私は逆転満塁ホームランを打ったようだ
「その代わり…」
「え?」
「今夜部屋に行きますから」
「ええ!?それは…」
断ろうとした瞬間、視界が急に明るくなった
どうやらアトラクションの洞窟から抜けたらしい
「
だ
め
ぇ
ぇ
ぇ
ぇ
ッ
!
!
」
明かりに眼が慣れる間もなく私達が乗ったボートは急下降する
「うぁ!?」
下に着く間際、詩織さんが私の身体を掴んで盾にした
え?ウソだよね!?コイツ、好きな人を盾に!?
結局、私は避けることも出来ずに大量の水を被ってしまった。
シャワーを浴びたみたいにびしょびしょになった髪を既にびしょっているハンカチで拭きながら詩織さんを睨む
「…詩織テメェ」
「フフッ水も滴る良い女ですね」
「そんなんで誤魔化せるかぁ!」
れいにゃん直伝のヘッドロックを詩織さんにかけようとするが直前でひらりと交わされる
彼女はその勢いで眞帆先輩の手を握った。
「え?し、詩織?」
「貴女は小さいからこうでもしないと逸れるでしょう。仕方なくです」
「うん///」
前を歩き出した詩織さんと眞帆先輩の繋がれた手を見ていると怒りがすっと消えていく
「上手くいったみたいだね。流石じゃん」
「えへへ」
私も結衣と手を繋ぐ、心が弾んで子供の時みたいに繋がれた手を上下に振った
「あとは…」
視線を横に向ける。向けた先には麗奈先輩と陽咲先輩の姿が映っていた。
―――遠山奈妓と藤詩織がキスするまであと【19時間】―――




