【最終話】遠山奈妓エピローグ『キスの音』
遅くなってすみません
最終話です。
やっと見つけた私達の居場所
隣に座っている結衣と抱き合う
身体越しに彼女の鼓動を感じた。お互いの心音が重なって同じリズムを奏でる
普段とは違い、少し速いリズム。二人とも緊張しているからだ
「奈妓…」
「…うん」
結衣の声が引き金になった
私は彼女の胸に埋めていた顔を離し、まっすぐに『彼女』を見る
「…ううっ」
いつもの小悪魔モードと違い、照れて私と眼が合わせられない結衣
狂おしいほど愛おしい
彼女が照れている理由はきっとこれから起こることを想像してしまっているからであろう
「いい?」
返事の代わりに結衣はきゅっと瞳を閉じた
ゆっくりと二人の影が重なる
ちゅ
初めて自分からしたキスは一瞬だった
けれどもその一瞬で結衣の気持ちが私のナカに並々と注がれてきた
幸せ、そんな言葉じゃ足りないくらいに気持ちが満ちてくる
「奈妓、顔真っ赤だよ」
「そういう結衣だって真っ赤じゃん」
どうやら私の気持ちも結衣に伝わったみたい
お互いに微笑んでからまた抱き合う
「これで終わりじゃないよ」
「えっ?」
耳元で囁かれた言葉の意味が理解出来ず思わず聞き返した
もう一度キスしたいってこと?
「!!!!!」
顔を上げて見た結衣の表情で全てを悟る
彼女は妖艶な笑みを浮かべながら自分の唇をぺろりと舐めていた
小悪魔モードじゃん…
先日見た夢の中の状況と同じだけど立場は違う
私が受けだ、リードされる方じゃん!どちゃくそにされる方じゃん!!
今度は私が瞳をぎゅっと瞑る
少し怖いけど覚悟は出来ている
「優しく…してね?」
「そこまでよ」
カーテンが開かれ、視界が急に明るくなる
明るくなった視界の先には麗奈先輩が居た。
「えー!?これからなんですけど」
抗議する結衣
全くその通りだ、私も加勢する
「私達もう『部員』じゃないんだから『禁忌』に当たりませんよね!?」
「『禁忌』じゃなくて『法律』に当たるのよ…元部員のよしみでキスまではさせてあげたんだから感謝して貰いたいくらいだわ」
「そんなぁ…せっかく見つけた私達の居場所なのに」
「いつから貴女達の居場所になったのよ…ここはボランティア部の部室よ」
麗奈先輩に促されてソファから渋々立ち上がる私と結衣
私の家はお姉ちゃんが居るし、結衣の家は壁が薄いし、ラブホテルはなんか怖い
だからイチャイチャするなら部室が一番だと思ったんだけど、どうやらここもダメみたい
私達の居場所探しは暗礁に乗り上げてしまった。
「あっ」
麗奈先輩の背後に詩織さんが居るのに気付いた。入った時には居なかったのに…
そういえばボランティア部に入ったんだっけ、やっべーな、時久には結衣と付き合っていることを言ったけど、詩織さんには怖くて言えてない
「私の奈妓さんが虫に寝取られている///」
「詩織さんのモノになった覚えはないよ!?」
首絞められるかと思ったが、そうじゃなかった
その方が良かったかもしれないけど…
なんで興奮してんの?ヨダレ凄いんだけど!変態のレベルが高すぎない!?
「いつか寝取り取り返してあげますからね」
「なんて!?」
ネットリ犯してあげますからねって言った?怖すぎなんですけど
なんか近づいて来てない?ネットリされる!?
「詩織ちゃんダメだよー奈妓ちゃん困ってるでしょー」
「は、はい!陽咲お姉さま!」
陽咲先輩の一言に詩織さんは軍隊みたいにビシっと気をつけして止まった
陽咲お姉さま?詩織さんは何でそんなに陽咲先輩に服従してんの?二人の間になんか合ったの?
「ごめんね奈妓ちゃん、また遊びに来てね」
詩織さんと陽咲先輩の関係が気になったが、それを聞くことは出来なかった。
だって陽咲先輩、机の上に教科書に広げてんだよ
モニターで私と結衣の情事を見てたハズだよね?この人ってAV見ながら勉強出来るタイプなん?
AV見ながら勉強出来る変態と好きな人が他人とキスして喜ぶ変態の間に何があったかなんて聞けるハズないじゃん
「麗奈先輩、ちょっと」
麗奈先輩を引っ張ってソファの部屋に入れる
新ボランティア部で一番マシな人に二人の間に何があったか聞こう
「なによ?」
「詩織さんと陽咲先輩の間になんか合ったんですか?」
「…知らないわよ。そんなこと」
「えっ?詩織さんと陽咲先輩って付き合ってんの!?」
私達の会話を聞いた結衣が入ってきた
人の恋バナが好きな彼女は眼を輝かせている
「付き合ってないわよ」
「何があったか知らないのに付き合ってないことはどうして分かるのカナー?」
「確かにー」
妹ちゃんズで麗奈先輩をイジる
部活を辞めてからそんなに日は経ってないのになんだか懐かしい気持ちになる
「あっ、もしかして私達の邪魔したのって嫉妬からだったりします?」
「はぁ?そんな訳ないじゃない」
「自分だけこの中でキス経験ないからって嫉妬しないで下さいよー」
結衣と顔を合わせて笑う
一しきり笑った後、私達の顔がぐいっと急激に近くなった
またキスするつもりなんかじゃない、自分達の意思で近づいてない
「貴女達、特別にもう一度キスさせてあげるわ」
両脇に私達の頭を抱えた麗奈先輩の冷たい声が頭上から降りかかる
やばい、またラインを越えてしまっていた
「いやいやいや、もう大丈夫ですって!満足しましたから!!」
「許してれいにゃん!!」
ガン!
「「痛たぁぁぁぁぁッ!!」」
キスとは思えない音が部室に鳴り響く
今度のキスは鉄の味がした。
最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました
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活動報告にあとがきを書いたのでそちらも見て頂ければ幸いです。




