表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/119

★【小鳥遊結衣視点】初めてのキスの味

「ナギっち…良かったね」


独り屋上に佇む

日は既に傾きかけている


涙が頬を伝って落ちる

悲しいからではない、これは嬉し涙

親友が恋焦がれていた人と結ばれたのだ。喜ばしいことだ


じゃあ私はどうしてその場に居られなかったの?

どうして姉妹を祝福してあげなかったの?

答えは分かっている。分からない振りをしていた。


ナギっちのことが好きだからだ


好きならもっと行動するべきだった

相手からの告白を誘うようなことをするべきじゃなかった。

私の姉とナギっちの姉は自分から幸せを掴み取った。私には出来なかった。飛び込まずにひたすら釣り針を垂らし続けていただけだった。


ううん、私の場合はもっと簡単だった。釣り糸は引いていた。

ナギっちが私を抱きしめようとした時、拒否しないで好意を伝えるだけで良かった。

『お姉さま』じゃないと失望されるのが怖くて釣り竿を放してしまった。


握っている屋上の柵が微かに軋む

もし今、柵が壊れたら死んじゃうのかな?

臆病な私に飛び降りる勇気はないけど、意図せずに死ねるならそれでも良いような気がしてきた。


「小鳥遊!!」


挿絵(By みてみん)


「えっ!?」


背後から急に呼ばれて心臓が飛び跳ねる

後ろを振り向くとナギっちの姿があった。どうして?お姉さんと一緒に居るハズじゃ…


「た、小鳥遊…落ち着いて、頼むから早まらないで」


飛び降りると思われているのか恐る恐る近づいてくるナギっち

笑っちゃいけないと思いながらも少し笑みが零れる


「なに勘違いしてんのカナ?私のことは良いからお姉さんの所に戻りなよ」


…これで良い。もう涙は流れていない

明日からもナギっちとは良い友達で居れる。


「…小鳥遊に伝えなきゃいけないことがあるんだ」


聞きたくない、この期に及んで奈妓っちに恋人が出来たという事実から眼を逸らしている

法廷で死刑宣告を待つ囚人もこんな気分なんだろうか




「私は小鳥遊が好き」


「!!!!!」


予想だにしていなかった展開に言葉を失う

沈黙してしまった私にナギっちはさらに続けた


「小鳥遊が私を好きじゃないことは知ってる。でも、これだけは伝えたかった」


「…どうして?」


振り絞るようにして声を出す

黙っていたのは一瞬なのに自分の声に違和感を感じた。


「お姉さんが『お姉さま』だったんでしょ?私じゃない」


「うん、小鳥遊じゃなかった。」


「だったら!」


「気付いたんだ、私は『お姉さま』を探さなくなってた」


「え?」


「小鳥遊が『お姉さま』だったら良いなって思ってた。これっておかしいよね?」


「う、うん」


「小鳥遊が部室から出て行った時、お姉ちゃんに背中を押してもらって自分の本当の気持ちに気付いた。私は『お姉さま』よりも小鳥遊が好き。」


「ナギっち…」


気持ちを伝え終わったナギっちは私に背を向けた

ここで帰らせてはいけない、私も気持ちを伝えないと




「私も好き」


ナギっちの勇気に触れて、私も少しだけ勇気が出た

今度は彼女にとって予想だにしない展開だったみたい、振り返った顔は驚愕の色を帯びている。


「…今なんて?」


「好きって言ったの、バーカ!」


「だ、だって小鳥遊は私のこと…」


「あれは怖かったの!私は『お姉さま』じゃないから陽咲先輩や麗奈先輩の時みたいにナギっちに失望されると思って」


「ちょっと待って!私が抱きしめて確認しようとした気付いての?」


「気付いてたよ!だって私のアルバムみてからナギっちの様子が明らかにおかしくなったもん」


「ええ!?いつから起きてたの?」


「ナギっちがお姉ちゃんとキスしそうになってたとこから」


あからさまに狼狽えだしたナギっち

その様子が愛おしく感じる


「い、いや!あ、あれは」


「いいよ。まだ付き合う前だし」


「小鳥遊ぃ」


ぱっと笑顔に移り変わったナギっちに私も微笑み返す

私の彼女は世界一可愛いし、その彼女の私は世界一幸せ


「ただし!これからは浮気厳禁だからね!自分が惚れやすいってちゃんと自覚して」


「う、うん、小鳥遊しか見ない。絶対他の人に惚れない」


「あと!デートとか行く時はナギっちがリードすること!学校外で会う時は手を繋ぐこと、毎日私のことを最低10個は褒めること、毎晩自撮りを送ること、記念日を大切にすること、特に今日は付き合った記念日なんだから絶対忘れないでよね!」


「注文の多い小鳥遊料理店!?」


いっぱい要求しちゃったね。その代わり、私の大切な宝物をあげよう


「結衣って呼ぶこと」


「え?」


「これからは彼女になるんだから名前で呼んで。感謝してよね。今まで家族以外誰にも呼ばせなかったんだから」


「ゆ、結衣」


「もう一回!」


「結衣!!」


「奈妓!!」


初めて名前で呼び合ったのが引き金になったのか、私と奈妓はお互いに走り寄る

これから抱きしめて貰うんだ。もう怖がる必要なんてない

ぎゅって抱きしめて貰ってから私達は『禁忌』を犯す。




「あぅっ?」


キスすることに頭を向けすぎていた為か、足元の出っ張りに引っ掛けてしまった

縺れる足、迫る地面、思わず眼を瞑ってしまう


「?」


激痛を覚悟したが、痛みはあまり感じなかった。

奈妓が受け止めてくれた?やばいますます好きになってしまった

愛しの彼女を見ようと瞑っていた眼を開ける


「!?」


写ったのは奈妓のはにかんだ笑顔ではなかった




「なんで履いてないのぉぉぉっ!!」


恋人なんだから、いつか彼女のそれを見る日もくるだろう

けど、付き合って50秒後に見るとは聞いてない


「結衣、ずっとずっと大切にするね。お互い皺くちゃのおばあちゃんになっても一緒にいよう」


「待て待て待て!続けるな!すっごくキュンキュンする台詞だけど、この状態で言うな!」


「結衣、私からも一つお願いがある」


「待てって!私の言葉聞こえてる?奈妓のスカートって防音仕様なの!?」


「毎日キスしよう」


「まず普通のキスしよ!下の奈妓とキスしそうになってるから!!」


起き上がって最悪な状況を打開しようとするがそれは叶わない


「ちょ!お前マジでふざけんなよ!股で挟むな!頭グイグイするな!放せ!!」


「結衣、もう絶対に放さない」


「ぐおおおおおっ!放せぇぇぇっ!」




こんな記念日いやぁぁぁっ!!


私のファーストキスは【自主規制】の味がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おめでたい(*’ω’ノノ゛☆パチパチ 感動シーン?が一気にギャグに持って行かれて笑いました ファーストキスは忘れられないですね、これは そして、部活はどうなるんやろ…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ