【遠山奈妓視点】取り返したい想い
家に物的証拠を取りに行った奈妓視点です。
あの日以来入っていない姉の部屋
部屋に入るとバラの香りが鼻腔を刺激する。
おこずかいを殆ど私の為に使う姉が唯一、自分の為に買っているもの、それがバラの生け花
机の上の花瓶に活けてあるバラの花はまだ瑞々しい。きっと常に新しいバラを活けているのだろう
「バラの香りか…」
『お姉さま』とは違う香り、『あの日』までは大好きだった香り、『あの日』から大っ嫌いになった香り
花瓶から視線を下に移す。視界には引き出しが写る
姉とはいえプライベートを覗くのは抵抗があるが、ここは致し方が無い
意を決して一段目の引き出しを開ける
私の写真が大量に出てきたらどうしようと密かに危惧していたが、杞憂だった
中には大量のノートが入っている。ページを開いてみるとどれも白紙、新品のノートと違うところはベルマークが切り取られている所だけだ
「バカ…」
やっぱり姉はベルマークの為にノートを買っていた。
だったらそのお金で直接募金した方が良いのに
少し軽くなった心で二段目の引き出しを開ける
「お姉ちゃんったら…」
中には私との『思い出』が綺麗に整頓された状態で入っていた。
私が幼稚園の時に描いた姉の似顔絵、小学生の時に書いた姉への感謝の手紙、中学生の時にあげたバレンタインチョコの包装紙。
どこまでシスコンなんだよ
けれど不思議と嫌な感じはしない、むしろ心はさらに軽くなっている
姉に対する嫌悪感が消えて行っているんだ
浮かぶような気持ちで三段目に手をかける
しかし開かなかった。よく見るとダイヤル式の鍵が付いていた。
駄目元で私の誕生日の数字で回してみる。開いた。
お姉ちゃん学年一位だよね?妹関連だと猿並みにIQ下がるのなんでなん
「……………」
三段目の引き出しはこれまでと雰囲気が違った。
一番容量がある一番下の引き出しの筈なのに中には一冊の黒い日記帳しかない
恐る恐る日記帳を手に取って読む
日付は『あの日』から始まっていて、どのページをめくっても私に対する謝罪で溢れていた
「お姉ちゃん…」
最終ページは昨日ではなかった。日付を見ると私が小鳥遊の家に泊まった日だ
そこには小鳥遊から私を取り戻すと記されていた。
…これは物的証拠だ
生徒会長が実妹にしたことが明るみに出たら、権力の座から引きずり降ろされるだろう
でも、私は日記帳をカバンの中に入れることが出来なかった。
姉がしたことは今でも完全に許せない
けれども贖罪は十分に伝わった。私だって悪い所があったかもしれない、あの日までは無遠慮にベタベタと触っていた。興奮させちゃったのかもしれない。私だって一歩間違えれば小鳥遊を犯していた。
向き合って話し合おう。もっと歩み寄ろう
そうすればボランティア部を潰すことを止めてくれるハズだ
日記帳を引き出しに戻す。その時、違和感を感じた
この引き出し、見た目の割には底が浅くないか?端を軽く押してみると、底がズレた。二重底だ
「………んな」
中には布が入っていた。布というか…
ぱんつが入っていた
「ふざけんなぁぁぁぁっ!」
私の気持ちを返せよ!
これ小鳥遊の家に泊まった時に貰ったぱんつじゃん!
妹を取り戻すって宣言した翌日にぱんつ盗んでんじゃん!
真空パックされているのがめちゃくちゃきめぇ
―――前回のように衝動的には動いたりはしない、じっくり進めよう。もう失敗は許されない―――
ってじっくり妹の下着を盗むって意味!?バカなのかな?もうぜってぇ許さねーわ!
「あれ?」
再び違和感を感じた
自分のスカートを捲ってみる。真空パックされているぱんつと全く同じものを穿いていた
そういえば、このぱんつが無くなった覚えはない
姉は私と同じぱんつを買って真空パックした?それでも十分にキモいが、もう一つ絶望的な仮説を思いついてしまった。
今穿いているぱんつは姉が買ったもので、真空パックされているぱんつは私が穿いていたぱんつ
つまり、新品のぱんつと穿いたぱんつがすり替えられているとしたら?
「…生徒会ごと潰してやる」
真空パックされた物的証拠をポケットに詰める
その時、スマホが鳴った。麗奈先輩からだ
「今すぐ部室に戻ってきなさい」
「…なにかあったんですか?」
「来れば分かるわ」
生徒会のガサ入れでも入ったのか?だったら好都合だ
あの下着泥棒、いや、下着すり替え犯に引導を渡してやる。




