★『お姉さま』
私と倉園麗奈は向かい合って席に座る
最初に口を開いたのは彼女の方からであった。
「貴女とこうやって喋るのも久しぶりね。紅茶でもどうかしら?」
「いらない。ボランティア部は使いまわしの茶葉を使うと報告を受けている」
「あら、ご忠告ありがとう」
呑気に紅茶なんて飲んでいる暇なんてあるのか?
少し癪だがこちらから探ってみるか
「わざわざ貸しを使ったのは私と紅茶を飲む為?」
「まさか、ドブ水を飲んだ方がマシよ」
「…じゃあ目的はなに?」
倉園麗奈は質問に答えない。ゆっくりと紅茶を味わっている
…交渉慣れしているな。こちらにペースを渡さないつもりだ
「取引がしたいの」
出てきた答えは予想の範囲内だった
余裕を装っているが、追い詰められているのは私じゃなくて彼女の方
この状況で一体どんな取引を持ち出してくるのか?
「…取引材料は相当なものなのでしょうね?」
「ええ、貴女の最愛の妹のことよ」
目の前にある机を蹴り飛ばしたい衝動を必死に抑える
私に効く取引材料は妹しかない、交渉材料としては最適だが、私に対する心情は最悪だ
「ここから先は発言に気をつけろ、生徒会がお前を退学にするのは容易いことだと胸に刻め」
「フッ貴女の人間らしい顔を見るのは久しぶりね」
不敵に笑う倉園麗奈
その顔を憎悪が籠った眼で睨みつける
「奈妓さんの好きな人とかどう?」
勿体つけた割にはその程度か、交渉決裂だ
「その情報は既に知っている…小鳥遊結衣でしょう?」
自分の胸が痛くなる
妹が彼女に向けていた眼差しを思い出したからだ
「良いところを突くわね。でも違うわ」
「違う?」
なら藤詩織か?それとも時久京華?どちらも奈妓ちゃんの周りを飛び回る煩わしい虫だが、小鳥遊結衣より親しい様子は見られなかった。
「奈妓さんの好きな人は…」
「好きな人は?」
生徒会会長という立場を忘れて思わず身を乗り出してしまう
「遠山奈癒、貴女よ」
ガン!
今度は我慢が出来なかった。私は机を蹴り飛ばした。
扉から私を案ずる役員の声が聴こえてきたが、大丈夫と伝えて制す。
「発言に気をつけろと言ったハズだ!それで私の機嫌を取ったつもりか!?退学だけでは済まさないぞ!倉園麗奈ァッ!!」
「あら、本当のことなのに」
足で私が蹴った机を抑えながら答える倉園麗奈
その表情に焦りは見られない
「貴女、奈妓さんがウチに入部した理由を知らないの?」
「入部した理由?」
その情報は知らない
入部理由と奈妓ちゃんの好きな人にどんな因果があるというのか?
「奈妓さんは『お姉さま』を探す為にボランティア部に入部したの…」
倉園麗奈の口から説明される『お姉さま』
徐々に『お姉さま』と自分が重なってくる。私の意識は一年前に飛んだ




