★首に厄災あり
「奈妓さんを絞めるなんて許せません」
「まぁまぁ…私もちょっとイジり過ぎた面もあるし」
怒りで興奮冷めやらない詩織さんをなんとかソファーに座らせる
君も笑顔で首絞めてきそうなイメージあるけどね…
「奈妓さん…もしかして日頃から酷い目に遭わされてます?」
「そんなことないよ。アットホームな良い部活だよ」
「ブラック企業の常套句じゃないですか」
「いやいや、本当に良い部活なんだって」
「私…奈妓さんを守ります」
「う、うん」
時久の時は気付かなかったけど、この子は私のことが好きだ
鈍い私でも流石にわかる
「奈妓さん…」
詩織さんが抱き着いてくる
まだ早いって、紅茶に全然口付けてないじゃん
「海外に行きましょう」
「海外?旅行?」
「結婚しましょう」
プロポーズされたよ!?結婚って付き合ってからするものだよね?
付き合ってないよね!なんで私の周りは勝手に彼女認定してくる人ばっかなんだよ!
「ぱ、パスポート持ってないし」
「ふふっ、卒業してからで構いませんよ」
しまったと思った。結婚することを否定するべきだった
誤解を抱く発言をして勘違いされるのは時久の時の二の舞になる
「そうじゃなくてぇ゛っ!」
否定の言葉は途中で遮れた
詩織さんが私の首筋を吸い始めたからだ
「ちょちょちょ!」
パニックになった私は上手く言葉が出てこない
小鳥遊!早く助けて!
あ…アイツは絞め落とされたんだっけ
「はい、イエローカード。これで二枚目ね。もっと節度を持ちなさい」
暫くして麗奈先輩が引き剥がしてくれた
遅くないか?さっきの仕返しがまだ続いてるんじゃなかろうな
「節度?私は『証』を奈妓さんに付けただけです。」
「キスマークを付けることが証?随分と悪趣味ね」
「人の恋路の邪魔をする方が悪趣味だと思いますが」
「とにかく…次やったら出禁にするから」
怖えーよ二人共
私は一触即発の麗奈先輩と詩織さんの姿をあたふたしながら見ていることしか出来なかった。
「うわーん!ナギっちが傷物になっちゃった!」
「傷物って!言い方!」
詩織さんが帰った後、意識を取り戻した小鳥遊が私の首筋を見て取り乱す。
…いや、からかってんのかこれ?
「首筋が真っ赤だな」
「眞帆先輩も前に同じことしましたよね」
「ブー!」
麗奈先輩が吹き出した紅茶はいつもなら陽咲先輩が顔面で全て受け止めていたのだが、今日はポジションが悪かったのか小鳥遊にかかってしまう
「きったな!この偽お嬢!!」
「やめろよ!こんなんでも先輩なんだから」
麗奈先輩をポカポカ殴る小鳥遊を止める
「こんなんとは随分な言い草ね」
「ぐぇっ!」
何故私にヘッドロックを!?殴ってる小鳥遊の方が悪くない?
「麗奈、奈妓ちゃんの首がもっと赤くなっちゃうからそれくらいにしてあげて」
陽咲先輩の一言で解放される。赤くなるどころか取れるところだったよ…
今日の占い見てなかったけど、首に厄災ありとかだったのかな
「マフラー編んで上げるよ」
話題は私の首筋に戻っている。小鳥遊の提案は残念ながら却下だ
「もう夏だし、あとそれ絶対一ヵ月はかかるよね」
「保健室で包帯貰ってこようか?」
「それは別の意味で心配されちゃいますよ」
陽咲先輩の提案も却下、家に帰った瞬間、姉に大学病院に連れていかれそう
「ふっふっふっ」
「おお!眞帆先輩、なにか妙案が?」
「木を隠すなら森の中…皆でキスマークを付ければ隠れるのでは?」
「却下ぁッ!」
一瞬でも期待した自分が馬鹿だった
「…そんなことより、貴女どうするつもり?」
そんなことではないのだが、麗奈先輩が言いたいこともわかる。詩織さんのことだろう
「もちろん『禁忌』は犯しません。時久の時みたいにハッキリ断りますよ」
「あの子は時久さんの様にはいかない気がするわ…」
おい、やめろ
貴女の預言は当たるんだ
「ナギっち…首だけになって帰ってきたりしないよね?」
「怖いこと言うな!」
「奈妓ちゃん…何があっても尊厳を失わないで」
「は、はい」
小鳥遊が言ったことも怖かったが、陽咲先輩に言われたことがもっと怖かった
尊厳失うようなことされたの?
結局、部活の時間だけでキスマークを隠すことは不可能だった
「ただいま帰りましたお姉さま」
「お、お姉さま!?」
苦し紛れに編み出した策はこれだ
『平身低頭になる』
突然腰が低くなって帰ってきた妹に、出迎えた姉はかなり困惑している様子だったが、今晩はこれで乗り切るしかない。常に頭を下げて絶対に首を見せない!
「本日はお日柄も良く…」
「奈妓ちゃん?どうしたの?」
頭を打ったかと思われてキューバの名医の元へ連れていかれそうになったが、なんとかバレずに済んだ
この調子だ。詩織さんとの件もなんとかなるだろう




