もう一つの『禁忌』
家に帰るや否や速攻でお風呂に入る
未遂だったが、一刻も早くアイツの感触を身体から消したかった。
シャワーで入念に洗い、湯船に浸かる。だいぶ落ち着く
「ふぅ」
嫌なことはあった、けれども収穫はあった。
麗奈先輩が『お姉さま』と同じ匂いのハンカチを持っていたのだ
彼女が『お姉さま』なのかもしれない、今日は空気的に頼めなかったが、明日抱きしめて確認しよう
よく考えたら、麗奈先輩はいつも味方で居てくれた。うん、『お姉さま』が麗奈先輩の可能性が高い
そう思うと元気が出てきた、私は勢いよくお風呂から上がった。
夕飯を食べ、部屋に戻る
小鳥遊から今日どうだったとLINEが来た
私は短く「襲われた」と返信する。間を置かずに電話が来るが、ドアからノックの音が聞こえてきたので、小鳥遊は後回しにして、ノックの主である姉の対応をした。
「奈妓ちゃん、これ」
姉はまたベルマークを渡してきた
まだこんなにあったのか、ベルマークの為にノートを買ってるんじゃなかろうな?それ逆だから
用事は済んだと思うのだが、姉はまだ出ていかない
「どうしたの?」
「あのね…奈妓ちゃんちょっと元気がないと思って」
わぁ!姉には敵わないな、私のちょっとした変化も見逃さないなんて
でも素直に犯されかけたなんて言える筈がない
「ゲームが上手くいかなかっただけだよ。ありがとう」
「そうなの?じゃあ…
その首筋の跡はなに?」
沈黙が場を支配する。遠くで電車の音が聞こえる
ここで黙り込むのはまずい、私は頭をフル回転して言い訳を絞り出す。
「え?最近寝不足で肌が荒れてるからかな」
フル回転してそれかよ!私の頭の容量は格安携帯のプランかなにかかな?
付け焼刃の誤魔化しは通用するハズもなく、姉は疑いの眼差しでじっと私の首筋を凝視してきた。
「ねぇ奈妓ちゃん、もしかしてその跡って…」
「また繰り返すの?」
「ち、違う!」
「またそうやって実の妹をそういう眼で見るの?」
「!!!!!」
眼に涙を貯めながら姉は部屋を出ていった
後には姉のバラの香りが残された
「つっ…」
やってしまった。部活の秘密を守る為という名目でもしちゃいけない発言だった
姉の追及を避ける為に私達姉妹の『禁忌』を犯してしまった。
ブーブーブー
スマホが再び鳴りだす
どうせ小鳥遊からだろ、アイツは私の彼女かなんかなの?
出る気が起きなかった私はスマホの電源を切り、そのままベッドに飛び込んで寝た。




