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【光宗陽咲視点】わるいこ

デート最終日、小鳥遊ちゃんと街をブラブラしながら買い物を楽しむ

この三日間本当に夢のような時間だった。小鳥遊ちゃんはルール上仕方なく私に付き合ってるのにも関わらず、終始楽しそうにしてくれている


「陽咲先輩これなんてどーですか?」


「うん、これにしよっかな」


「んー?本当にそう思ってます?私に気を使ってません?」


「バレたかぁ」


悪戯っぽく舌を出してみると小鳥遊ちゃんは弾けるような笑顔を見せてくれる

…ああ、やっぱり好きだなぁ




色々見て回って、結局、最初に気に入った服に決まり、会計を終えた所で小鳥遊ちゃんのスマホが鳴った

どうやら夢から醒める時間らしい


「陽咲先輩、今日はありがとうございました」


「……………」


「陽咲先輩?」


「…もうちょっと一緒に居たいなぁ」


「そ、それはダメですよ」


「お願い!学校に行くんだよね?そこまで着いてくだけでいいから」


「…仕方ないなぁ」


私はかなり小鳥遊ちゃんに依存してしまっていると思う

今まで誰にも我儘なんて言ったことないのに彼女には言ってしまった




「この前、クラスの娘が~」


「えーそれ本当に?」


帰りの電車の中、小鳥遊ちゃんは気を悪くした素振りも見せずに楽しく話しかけてくれる

そんな彼女の気遣いを私は半分上の空で聞いていた。


もう少しで運命が決まる

奈妓ちゃんはどっちを選ぶのだろう?

小鳥遊ちゃんの幸せを願うなら小鳥遊ちゃんが選ばれることを願うべきだ

それでも、心のどこかでフラれて欲しいと願う醜悪な自分が居ることを否定できない




電車から降りて徒歩で学校に向かう

小鳥遊ちゃんは流石に緊張してきたのか無言になっている


おそらく奈妓ちゃんは小鳥遊ちゃんを選ぶと思う

初日に喫茶店でデートしている奈妓ちゃんとお姉さんを見たが、奈妓ちゃんの表情からしてお姉さんに勝ち目はない

それはそうだよね。小鳥遊ちゃんより良い彼女なんていない


「……………」


無言になったせいで今まで考えないようにしていたことも考えてしまった

小鳥遊ちゃんより良い彼女なんていない。でも遠山奈妓は小鳥遊結衣にふさわしい女と言えるのだろうか?

彼女が居ながらあろうことか実の姉と浮気した奈妓ちゃんにその資格があるとは思えない

八股した私が言えることではないのかもしれない

けど、今の私なら小鳥遊ちゃんを悲しませることなんて絶対にしない




「じゃあ、そろそろ…」


どうやら奈妓ちゃんは小鳥遊ちゃんを屋上に呼び出しているようだ

階段の手前で帰るように促された


ここで離れたらもう彼女は完全に奈妓ちゃんのモノになってしまう

そう思った私は賭けに出た


「ッ!?」


小鳥遊ちゃんを無理矢理引っ張っり空き教室に連れ込んで壁に押し付けた


「…どういうつもりですか?」


先程とは打って変って低いトーンで私の行為の真意を問う彼女

冷たい視線に少したじろぎながらも本心をぶちまけた


「私を選んで欲しいなぁ」


「ダメですよ。私には奈妓がいます」


「奈妓ちゃんってそんなに良いの?浮気した分際でどっちか選ぶってかなり自分勝手だと思うけど」


「…奈妓を悪く言うのは陽咲先輩でも許さない」


きつく睨まれてしまっているが、私は彼女のへの字に曲がった唇に近付いた


「ごめんね。奈妓ちゃんのことを悪く言うつもりは無かったんだ。ただ、私の方が小鳥遊ちゃんを想ってると思って…」


「分かりましたから、もう離れて下さい。奈妓が待ってる」


拘束から逃れようと小鳥遊ちゃんは身体を動かして抵抗したが、それを私は許さない

むしろもっと強く抱きしめて吐息が掛かる距離にまで近付いた


「一回だけ、一回だけで良いからキスしない?」


「嫌です。禁忌になりますよ?」


「好きな人の前だったら禁忌なんてどうでも良いよ。それは小鳥遊ちゃんだってよく分かるでしょ?」


「私と奈妓の時とは状況が違いますよ。ここでキスしたら陽咲先輩のことを嫌いになります。貴女とは友達でいたい」


絶望的とも言える場面だが、まだ勝算はある

キスで惚れさせたことは過去にもある。ボランティア部の皆には周りが勝手に自分を好きになっていって八股してしまったと言ってあるが、本当はこうやって少し気になった女の子を墜としたこともあった

キスで墜とせなくてもまだ手はある。奈妓ちゃんとどこまで進んでいるかは知らないが、私の方が分がある自信がある。


「小鳥遊ちゃん…好き」




ドゴ!!!




独りになった空き教室で赤く染まっているだろう額を擦りながら蹲る

あはは、まさかキスする直前で頭突きされるなんて思ってなかったなー


あーあ、嫌われちゃった

仕方ないかー別の女探すかぁ


「…そんなこと、出来ないよ」


頬を伝った涙は氷のように冷たい

頭突きされた直後に一瞬だけ見えた小鳥遊ちゃんのすまなそうな顔を思い出すとどうしても諦めきれない

彼女は私が禁忌を犯さないように止めてくれたのでは?と思ってしまう


「やっぱり好きだよぉ」


額はもう痛くないが、私は立ち上がれなかった

あの日、もしも具合が悪そうな奈妓ちゃんを部室に連れていかなければ、私が小鳥遊ちゃんの彼女になれていたのだろうか?

そんなどうにもならないことを考えながら私は泣き続ける


身体だけのおままごとの恋愛をしてきた私にとって本当の失恋に抗う術は存在しなかった

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